恋のアーカイブ
マッチングアプリ攻略

「仕事が落ち着いたら」と言い続けた私が、昇進した夜に一人でいた理由

キャリアか恋愛か、ずっとそれを問い続けてきた。でも本当は、問い自体がずれていた。仕事が充実しても孤独だった夜に、ようやくそれに気づいた。

·橘みあ·5分で読める

別れを告げるとき、私はいつも同じ言葉を使っていた。


「今は仕事に集中したい時期だから」


26歳のとき、2年付き合った人に。28歳のとき、3ヶ月だけ会い続けた人に。どちらも嘘じゃなかった。本当に仕事は忙しかったし、本当に集中したかった。ただ、その言葉の裏に何があったかを、当時の私は掘り下げようとしなかった。


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28歳の別れのほうが、今も鮮明に残っている。


彼は渋谷のスペイン料理屋でよく飲んだ人で、カウンターに並んで座るのがちょうど好きだった。仕事の話を対等にできる人だった。私が「この企画、通らなかった」と言うと、「なんで?」と聞いてくれた。慰めじゃなく、純粋な興味として。


ある夜、彼が言った。「来月、京都行かない?ずっと行きたかった場所があって」


私は少し間を置いた。「来月、ちょっとプロジェクトが——」


「あ、そっか」


その「あ、そっか」の短さが、なんとなく怖かった。傷ついた様子もなく、ただ受け取った感じ。それが逆に、何かを刺してきた。その二週間後に、私は「今は仕事に集中したい」と伝えた。彼は「うん、わかった」と言って、それきりになった。


その冬、私はプロジェクトをやり切った。チームの中心にいて、クライアントにも評価されて、上司から「来期、チームリーダーやってほしい」と言われた。


終電後のオフィスで、私はひとりコンビニのホットレモンを飲みながら、なぜかSarah Blaskoの古いアルバムをイヤホンで聴いていた。充実していた。本当に。でも部屋に帰って、真っ暗な中でコートを脱いだとき、ふと思った。


誰にも話していない。


この達成感を、誰かに話したいと思う相手が、いない。


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29歳の誕生日に、友人の紹介で会った人がいる。表参道のバーで、お互いの仕事の話をした。彼は「仕事と恋愛って、どっちが大事?」と聞いてきた。おそらく軽いノリで。


私はそのとき、「どっちかって話なの?」と言いかけて、やめた。


言葉にするには、まだ自分の中で整理できていなかった。


その後も少し会い続けたけれど、うまくいかなかった。理由は「仕事が忙しい」じゃなかった。ただ、なんとなく、噛み合わなかっただけ。それはそれで正直な終わり方だったと思う。


ただそのとき気づいたのは、私が「仕事か恋愛か」という問いを内側に抱えたまま、何年も生きてきたということだった。まるでどちらかに重心を置かないといけない天秤みたいに。仕事に傾いているときは、恋愛を手放すことで「ちゃんと選んでいる」と安心していた。


でもそれって、選んでいたんじゃなくて、問いから逃げていただけだったのかもしれない。


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転機は、小さなことだった。


30歳になった春、Spotifyのプレイリストを作っていたとき、ふと「誰かに聴かせたい」と思った。誰でもよかった。ただ、共有したかった。好きな音楽を、好きな人と。


そのとき初めて、ちゃんと言葉になった。


私が仕事に没頭しようとしていたのは、仕事が大事だったからじゃない——いや、大事だったけど、それだけじゃなかった。誰かと一緒にいる自分より、ひとりで完結している自分のほうが、楽だったんだ。依存しない自分、必要としない自分、傷つかない自分。それを「仕事への集中」という言葉で、きれいに包んでいた。


キャリアか恋愛か、という問い。


その問いが間違っていたのは、「どちらも大事」という答えがあったからじゃない。そもそも私が問おうとしていた対象が、ずれていた。比べるべきは仕事と恋愛じゃなくて、「ひとりで完結しようとする自分」と「誰かと何かを共有したい自分」のあいだにある、もっと小さくて正直な感覚だった。


「充実している自分を、誰かに見せたかった」


これが本音だと気づいたとき、少し恥ずかしかった。強がりじゃなくて、普通に寂しかっただけじゃないか、と。渋谷のカウンターで、「来月、京都行かない?」と言った人に、「行きたい」と言えばよかった。仕事が忙しくても、行けばよかった。


もちろん後悔とも少し違う。あのときの選択は、あのときの私にしかできなかった。ただ、自分がどういう問いを立てていたかは、今からでも問い直せる。


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キャリアと恋愛を天秤にかけてきた人に言いたいのは、「どちらも諦めなくていい」じゃない。そんなきれいな話じゃなくて。


その天秤、最初から傾いてなかったか?


あなたが比べていたもの、本当にそれが比べるべきものだったか?


仕事が充実した夜、暗い部屋でコートを脱いだとき——そこにあった感覚を、もう一度思い出してみてほしい。



孤独は、何かを諦めた罰じゃない。何かを問い違えていた、サインだった。

この記事を書いた人

橘みあマッチングアプリ体験談ライター

27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。

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