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恋愛体験談エッセイ

500通のLINEを重ねた夜、あなたは「会えます」と言った。迷った話

マッチングアプリで知り合って2ヶ月、500通を超えるLINEを重ねた。なかなか会えなかった理由を知ったとき、怒りより先に胸の奥がじわっと温かくなった。新宿のスタバで初めて見た水色のコートのことを、今でも覚えている。

24歳・女性の体験
·橘みあ·6分で読める

正直に言う。500通送ったのに、会うのが怖かった。


アプリで知り合ったのは、秋の終わりごろ。最初のメッセージは他愛もない自己紹介で、「趣味が読書です」「私もです」くらいの、どこにでもある会話だった。でも彼のテキストには、なんというか、独特の間があった。文章の句読点の打ち方。話の終わり方。「ちなみに昨日、近所のカフェで変な定食を頼んでしまいまして」と唐突に始まる報告の、その「変な定食」の説明がやたら丁寧で、読んでいて口の端が自然とあがった。


毎朝7時。「今日も早起きできなかった、三度寝しました」。昼。「変な定食リターンズです、写真撮ればよかった」。夜の11時。「帰りの電車で、斜め前のサラリーマンが…」。日課になっていた。彼の一日の断片が、私の画面に積み上がっていく。声も顔も知らないのに、その人の生活のにおいだけがどんどん鮮明になっていく感覚。


「会いましょう」と言ったのは、たぶん3回目か4回目だった。


「仕事が忙しくて」と返ってきた。「週末は少し予定が」とも来た。


わかった、と思いながら、でも腑に落ちない部分があった。忙しいなら、なぜ毎日こんなに丁寧にLINEを返してくるんだろう。矛盾してる。でも怒れなかった。テキストの向こうにいる彼が、嘘をついている感じはしなかったから。


正直に言う。「会わなくてもこの人と話すのが好きだな」と思う夜があった。と同時に「でも私、何を待ってるんだろう」という、じわじわした焦りもあった。好きと、「違うかも」が、同じ胸の中に並んで座っていた。


「なんで会わないんですか」と打った夜


500通目。数えていたわけじゃないけど、アプリのトーク欄をスクロールして、そろそろそのくらいかな、と思ったとき。私は打った。「なんで会わないんですか」。


既読が、つかなかった。5分。10分。「あ、聞きすぎたかな」と思い始めたとき、既読がついて、しばらくしてから返信が来た。


「実は、対面が苦手なんです」


画面を、三回読んだ。


「人と会うのが、どうしても緊張してしまって。ひどいと思われるかなって、ずっと言えなかった」


胸のどこかが、すとんと落ちた。怒りじゃない。責める気にもならなかった。ただ、やっと、この人のことがわかった気がした。500通分の会話が、全部つながった感じ。毎日丁寧にテキストを返してくれていたのは、それが彼にとって精一杯の「会う」だったんだと、そのとき初めて思った。


「そんなことないです」と打った。少し考えてから、続けた。「じゃあ、30分だけ。カフェで。人が多い場所の方が緊張しにくくないですか」


既読。また少し間があって。


「…やってみます」


新宿スタバで、初めて会った


場所は新宿のスタバにした。南口から出てすぐの、広くて天井が高い店。週末の昼間は人でごった返す。一人でいても浮かない場所。11月の終わりで、外はもう冬のにおいがした。マフラーを巻いて、約束の5分前に着いたら、もう来ていた。


カウンター席。水色のコート。スマホを両手で持って、画面を見ていた。


プロフィール写真と同じ人だった。でも、想像より小さかった。肩幅が、なんというか、華奢だった。


「こんにちは」


声をかけたら、びくっとして立ち上がった。目が合って、「あ、こんにちは」と言った。声が少し上ずっていた。頬が少し赤かった。10月生まれの人が、真冬の新宿の風に当たってきたような顔をしていた。


「遠かったですか」「いいえ、すぐそこです、えっと」「座りましょうか」「あ、はい」。


最初の10分は、お互い少しぎこちなかった。何度か話しかけて、何度か笑って、なんとなく呼吸が合ってきたのは、コーヒーを半分飲んだあたりだったと思う。


「あの、変な定食の話、詳しく聞いてもいいですか」と聞いたら、「あ、やっぱり気になりますよね」と言って、彼は少し前のめりになった。そこからの説明が、LINEで読んでいたより全然面白かった。声のトーンが変わって、手が動いて、「いや本当に、なんでそれを頼んだんだっていう話なんですけど」という言い訳が可笑しくて、声を出して笑ったら、彼もはにかんで笑った。


声があると、何倍も笑えるんだ。


30分の予定が、1時間になっていた。


「もう少しいますか」と聞いたら、「はい」と言った。その返事の声が、さっきより落ち着いていた。緊張が抜けた声。ほっとした声。


その「はい」のひとことで、私も息をついた気がした。


それから月1〜2回、会うようになった。新宿のあのスタバだったり、吉祥寺をぶらぶら歩いたり。彼は今でも「対面は得意じゃない」と言う。初対面の人とご飯に行く前日は眠れないとか、大勢の飲み会は帰ってからどっと疲れるとか。それは変わっていない。


でもある日、歩きながら彼が言った。「あなたとは、会えます」って。


立ち止まってしまいそうになった。


500通のLINEより、その5文字が重かった。テキストで積み上げてきた時間が、一文に全部入っていた。


声があると言葉は体温を持つのに、テキストしか知らなかった。

よくある質問

500通以上やりとりしていたのに、なぜなかなか会えなかったのですか?
なかなか会えなかった理由は会ってから初めてわかったとのことです。それを知ったとき、怒りより先に胸の奥がじわっと温かくなったと書かれています。
初めて会ったのはどこでしたか?
新宿のスタバで初めて顔を合わせました。そのとき彼女が着ていた水色のコートが、強く印象に残っているとのことです。

この記事を書いた人

橘みあマッチングアプリ体験談ライター

27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。

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