恋のアーカイブ
恋愛体験談

半年間、会わないまま好きになった。声も知らない人に、心の底を送り続けた話

マッチングから半年、私たちは一度も会わなかった。会えなかったのではなく、会う必要を感じなかった。3日に一度届く少し長い文章が、気づけば私の一番深いところに届いていた。

·橘みあ·6分で読める

深夜0時を過ぎると、スマホの画面がやけに明るく見える。


通知が来たのは、そういう時間だった。3日ぶりの、少し長いメッセージ。読みながら、私はなぜかソファから起き上がれなかった。体が重いのではなく、このまま動きたくなかった。


---


マッチングしたのは、3月の終わりだった。桜が散りかけていたのを覚えている。アプリを開くたびに自分が少し摩耗していく感覚があって、そろそろやめようと思っていた頃。


最初のメッセージは「読んでいる本のジャンルを聞いてもいいですか」だった。


珍しい入り方だと思った。「どんなお仕事ですか」でも「休日は何してますか」でもなく、本の話。すぐには返さなかった。2時間くらい他のことをして、それから少し長めに書いて送った。


向こうも、少し長めに返してきた。


それが始まりだった。


---


毎日は来なかった。3日に1回くらい、ふいに通知が鳴る。今日あったこと。読み終えた本の感想。映画館でひとりで見た映画のこと。「なんでもない話なんですが」という前置きで始まる、でも実は結構丁寧に考えられた文章。


私も同じくらいの長さで返した。


普通のLINEじゃなかった。既読がすぐつくことを期待していなかったし、スタンプで済ませることもしなかった。なんというか、手紙みたいだった。送ったら、相手の時間の中でちゃんと読まれる。そういう感触。


「なんで会わないの?」と友人に言われたのは、5月の終わりだった。渋谷の、DEAN & DELUCAでランチしていたとき。「半年って何、ただの文通じゃん」と笑われた。


「会う必要がないから」と答えたら、変な顔をされた。


変な顔をされるのはわかっていた。でも本当にそうだった。会わなくても、やりとりは充実していた。むしろ会うことで何かが壊れる気がして——いや、それは怖かったのかもしれない。今ならそう思う。でも当時は「必要がない」と本気で信じていた。


---


好きかどうか、考えないようにしていた。


考えると、答えを出さなければいけなくなる。答えを出すと、何かが動き出す。何かが動き出すと、終わるかもしれない。この、3日ごとに画面が光る感じが。


YUKIの「プリズム」をよく聴いていたのはその頃だった。理由はよくわからない。ただなんとなく、あの曲の温度が自分の夜と合っていた。


声も知らなかった。顔は写真で見ていたけど、声は知らなかった。電話しましょうとも言われなかったし、こちらからも言わなかった。不思議と不足している感じがしなかった。文字だけで、その人の考え方の輪郭がわかる気がしていたから。


---


「会ってみたくなりました」


そのメッセージが来たのは9月の、蒸し暑さがまだ残っている夜だった。


しばらく画面を見ていた。1分か、5分か。返し方を考えていたわけじゃなくて、この一文が自分の中でどこに着地するのかを待っていた。


「会いましょうか」


それだけ送った。送ってから、手が少し冷たくなっているのに気づいた。


---


横浜で待ち合わせた。みなとみらいではなく、関内の駅近くにある小さなカフェ。向こうが選んだ。「静かな方が話しやすいかと思って」というメッセージつきで。そういうところが、文章と同じだと思った。


改札を出て、すぐわかった。


写真よりも少し背が高かった。立ち方が、なんとなく想像通りだった。あ、この人だ、という感覚と、あ、はじめまして、という感覚が同時にあって、うまく処理できなかった。


「はじめまして」と言ったら「はじめまして」と返ってきた。


声を聞いて、胸のどこかが動いた。低すぎず、早口でもなく、落ち着いた声。半年間ずっと想像していた声が、初めてそこに存在した。それだけのことなのに、なぜか目の奥が少し熱くなった。


カフェに入って、コーヒーを頼んで、窓際に座った。外は夕方の光が斜めに差し込んでいて、テーブルの上が少し金色だった。


話した。普通に、たくさん話した。文章でのやりとりと同じような話題を、でも今度は声で。相手が考えるときに少し上を向く癖があること。笑うと目が細くなること。話しながら手をテーブルの上で動かすこと。知らなかったことが、次々と立体になっていった。


「文章通りの人ですね」


気づいたら口から出ていた。


向こうは少し間を置いてから、笑った。「そういう言い方、初めて言われました」


その笑い方も、想像通りだった。そして想像と全然違った。


---


それからは定期的に会うようになった。


友人に報告したら「やっと会ったの」と笑われた。「文通相手と付き合う感じ、って伝えたら、なんかロマンチックだね」と言われた。


本人にも同じことを言ったら「そうかもしれませんね」と返ってきた。


会わなくても好きになれる、ということを知った。


でも会ったら、もっと好きになった。それは予想していなかった。声がある、体温がある、笑い方がある。それだけで、半年分の文章が全部、少し違う色に見えた。ひとつひとつが上書きされるのではなく、奥行きが増していく感じ。


怖かったのかもしれない、ずっと。会うことで何かが終わると思っていた。でも実際には、会ってから何かが始まった。


---


今でも、3日ごとにメッセージが来る。


会うようになっても、その習慣は変わらなかった。長い文章で、今日あったこと、読んだ本、考えていること。スマホの画面が深夜に光る。私はソファから起き上がらないまま、それを読む。


あの頃と変わらない。でも今は、声を知っている。


---


会わなくても心は近づける。でも、声を聞いてはじめて「本物になる」気持ちがあることも、知ってしまった。

この記事を書いた人

橘みあマッチングアプリ体験談ライター

27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。

この記事が刺さったら、シェアしてください

恋愛体験談」はまだ 185 本あります

恋愛体験談をすべて読む

次の記事

内向的な私がマッチングアプリで出会いを掴むためにしたこと