恋のアーカイブ
恋愛体験談

3年間、画面越しに話し続けた人が、リアルに存在していた日のこと

オンラインゲームで知り合って3年。顔も声も知らないまま、現実の友達より深い話をしていた。会場で彼を見つけた瞬間、胸の奥で何かがほどけた。

·橘みあ·6分で読める

深夜2時のDiscord通話より静かな場所を、私は他に知らない。


出会いは3年前。オンラインゲームの野良パーティーで、たまたま同じクエストに入ってきた人だった。ギルドに誘われたわけでも、フレンド申請が来たわけでもない。ただ、チャット欄に「ナイスファイト」と打ったら「ありがとうございます、また組みましょう」と返ってきて、なんとなく次も、その次も、一緒にログインするようになっていた。


毎週土曜の夜10時。それが、いつの間にか約束になっていた。


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オンライン上の人間関係って、不思議だと思う。顔が見えない。声も聞こえない。テキストだけのやり取りなのに、気づいたら仕事の愚痴を打ち明けていて、「上司がまた…」と書きかけてやめて、でもやっぱり話してしまう、みたいな夜が続いていた。


「現実の友達より話しやすい」


そう気づいたのは、たぶん出会って半年くらいのころ。飲み会でうまく笑えなかった夜、家に帰ってゲームを起動したら、彼がもうオンラインで待っていた。何も言わなくても「今日、なんかあった?」と聞いてきた。テキストなのに、なんで伝わるんだろうと思った。


東京に住んでいることは、ずっと知っていた。「渋谷のカフェで仕事してた」とか「新宿で終電逃しそう」とか、そういう話は何度も出てきた。私も都内だった。物理的な距離は、たぶんそんなにない。


でも、「会おう」とは、言えなかった。


言えなかった理由を、今ならもう少し正確に言葉にできる。「会ったら変わるかもしれない」という怖さじゃなくて、「会ったら変わってしまう」という確信に近い何かがあった。画面の向こうにいる彼は、完璧に「話せる人」だった。そのバランスが、怖かった。


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3年目の秋、転機はずいぶん小さなかたちでやってきた。


ゲームの公式イベント。幕張メッセで開催される、年に一度の大型展示会。チケットを取っていたのは純粋に楽しみにしていたからで、特に作戦があったわけじゃない。ゲームの話の流れで「私、あのイベント行くんですよ」とチャットに打ったら、「私も行く予定です!」と返ってきた。


画面の前で、少し息を止めた。


「……一緒に行きますか?」


エンターを押すまでに、たぶん5分くらいかかった。送信したあと、スマホを伏せてソファから立ち上がって、台所でコップに水を注いで飲んで、それでもドキドキが止まらなくて、やっと画面を見たら「行きましょう」の四文字だけあった。


3年間で、初めての「会いましょう」。


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イベント当日、11月の幕張は風が強かった。海沿いの冷たい空気の中、「〇〇というユーザー名のアイコンをスマホに表示しておきます」という、なんともSFみたいな待ち合わせをして、会場の入り口で人の波をかき分けながら、見知らぬ人の顔を探した。


見つけたとき。


ああ、いた、とだけ思った。


感動とか、ときめきとか、そういうはっきりした感情より先に、全身の力が少し抜けた。「ちゃんとそこにいた」という、当たり前のようで当たり前じゃない事実が、胸の真ん中あたりにゆっくり落ちてくる感じ。「あなたが〇〇さん?」「そうです」、そのやり取りだけで、なぜか目の奥が少し熱くなった。


イベントは2時間。ゲームの世界に浸りながら、隣に人がいる不思議さをずっと感じていた。知っているのに、知らない。3年間話していたのに、横顔を見るのは初めて。


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終わったあと、「どこか行きますか?」と聞いたら「行きましょう」と即答だった。


海浜幕張の駅近くの居酒屋に入って、向かい合って座って、ビールを頼んで、ようやく生の声で話した。


「声、テキストのイメージと違いました?」


彼は少し考えて、「全然違いますが、でもあなたっぽい」と言った。


意味がよくわからなくて笑ったら、彼も笑った。テキストでは一度も見たことのない表情だった。でも不思議と、知っている気がした。BRAHMANが有線で流れていた。窓の外に、夜の海がぼんやり見えた。時間が経つのが、妙に惜しかった。


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月に2、3回会うようになって、半年後に付き合い始めた。


「ゲームで出会いました」と言うと、笑われることがある。「それ出会いって言えるの?」みたいなリアクションも、正直ある。でも私は、3年間のことを一ミリも薄めたくない気持ちがある。


仕事がうまくいかなかった夜のこと。なんとなくログインしたら彼がいて、何も聞かないで一緒にクエストを回してくれたこと。深夜に「聞いてほしいことがあって」と打ったら「どうぞ」の一言だけが返ってきたこと。顔も見えない、声も聞こえない、それなのに全部伝わっていたこと。


あの3年間は、出会いの「準備期間」じゃない。それ自体が、すでに関係だった。


出会いの形なんて、本当にどうでもいい。その人とどれだけ言葉を重ねたか、それだけが全部だった。


画面越しでも、ちゃんと愛せる。そして愛された。

この記事を書いた人

橘みあマッチングアプリ体験談ライター

27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。

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