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恋愛体験談

「動き方が似てる」と思った瞬間から、私の土曜日は少しずつ変わっていた

在宅勤務で体がなまって入ったバドミントンサークル。ネット越しに羽を打ち合ううちに、気づいたら毎週土曜日の夕方を待つようになっていた。ゆっくり積み上がった半年間の話。

·橘みあ·6分で読める

体がなまっていた、というのが正直なところだった。


在宅勤務が増えてから、一日の移動距離がほぼゼロになった。ベッドからデスク、デスクからソファ、ソファからベッド。その繰り返しで背中が慢性的に痛くて、鏡を見たらシャツの下のラインが変わっていた。友人に「何かやったほうがいいよ」と言われたとき、反論できなかった。


一人でやるものは続かない。それは自分でわかっていた。ランニングシューズを買って3日で終わったことが、過去に2回ある。だから誰かと一緒にやるもの、という条件で探した。バドミントンは大学の授業で触れていて、嫌いじゃなかった。それくらいの理由だった。


区の体育館で毎週土曜日の午後2時から4時、月1000円、強さにこだわらない——その募集文の「ゆるく続けたい人向け」という一文が決め手になった。


最初の日、杉並区のあの体育館に入ったとき、知らない人が10人いた。蛍光灯の白い光が床のワックスで反射して、シューズが鳴く音が響いていた。緊張した。でも羽を打ち始めて30分で、それはどこかに行った。体を動かすことに集中すると、余計なことを考えられなくなる。それが正解だった。


彼のことに気づいたのは、2回目か3回目だったと思う。


ペアを変えながら打ち合うスタイルだから、何度かネットを挟んで向き合った。最初は「ふつうにうまい人だな」くらいにしか思っていなかった。でもあるとき、羽の軌道を見ていて、思った。


この人の動き方、似てる。


スマッシュで決めにいくタイプじゃなくて、つないでコースをつくる。力で押し切らずに、相手のタイミングをずらすのが得意な感じ。私もそうだった。スマッシュが苦手で、ずっとそれを誤魔化すようにラリーを長くする癖がある。同じ癖の人を、打ち合いながら見つけた。


気づいたら、自然に隣にいることが増えていた。どちらかが意図したわけじゃない、と思う。でも今になって考えると、お互いに選んでいたのかもしれない。ネット越しに「今の良かった」とか「あそこはこうしたほうが」とか言い合って、それが当たり前になっていった。


「最近フォームがよくなりましたね」と言われたのは、3ヶ月目くらいだった。


「ありがとうございます、あなたに教えてもらったので」

「そんなに教えましたっけ」

「毎回見てくれてるじゃないですか」


少し照れた顔をした。蛍光灯の下で、白いTシャツが汗で少し透けていた。喉が、乾いた。


それが何なのか、その時点では名前をつけていなかった。つけたくなかったのかもしれない。サークルの中での心地よさを、壊したくなかった。


練習後は、よく近くの中華料理屋に全員で行った。渋谷から少し外れた、古くて安くて餃子がうまい店。大人数でビールを飲んで、隣同士になることが増えた。「来週も来ますか?」と聞かれるようになったのは、いつからだったか。「行きます」と答えるたびに、ちょっとだけ返事が早くなっていた気がする。


5ヶ月目に入った頃から、二人でサークル後にどこかに寄るようになった。体育館の近くのドトールでコーヒーを飲んだり、コンビニでお茶を買って公園のベンチに座ったり。だいたい1時間くらい。特別なことは何もしていない。近況とか、仕事がどうとか、バドミントンのどこが楽しいかとか。それだけ。


でも毎週土曜日の夕方が、楽しみになっていた。バドミントンが楽しいのか、その後が楽しいのか、もう自分でも区別がつかなくなっていた。


ある週、友人に話した。「なんかここ最近、バドミントンより終わった後の時間が楽しみで」


「それもう答え出てるじゃん」と即答された。


言われてみれば、そうだった。


わかっていたのに、言葉にしていなかっただけだった。サークルで好きになるのが面倒になる気がして、でも面倒になる前から既に好きで、矛盾している状態をずっと抱えていた。好きだとわかってから告げるまでの1ヶ月が、一番落ち着かなかった。練習中、ネット越しの顔を見るたびに、胸の中で何かが揺れる感じ。それを悟られないように、ちゃんとシャトルを追っていた。


告げたのは、6ヶ月目の終わりだった。


サークルが終わって、みんなが帰っていった後。駐車場に二人だけが残っていた。10月の夕方で、空が暗くなりかけていた。車のエンジン音が遠ざかって、静かになった。今しかない、と思った。後から考えると、その瞬間を待っていたのかもしれない。


「好きです。サークルだと困らせますか」


自分でも驚くくらい、声が平らだった。緊張しているのに、震えなかった。


「困らないです」

「付き合ってもらえますか」

「はい」


「はい」。ためらいが、なかった。


泣きそうになったのは、帰り道だった。車のシートに座って、シートベルトを締めながら、視界がじわっとにじんだ。嬉しいとか、安心したとか、そういう言葉じゃ追いつかない。ゆっくり積み上げてきたものが、ちゃんと意味を持ったことへの——なんだろう、確認みたいなもの。


今も毎週土曜日に体育館に行く。同じ蛍光灯、同じワックスのにおい、同じシューズの鳴く音。でも意味が変わった。


練習相手から、隣にいる人に。


一緒に汗をかいて、終わった後に二人でどこかに寄る。それが私たちの週のリズムになった。バドミントンを続けているのか、その時間のために土曜日を生きているのか、もう区別しなくていい。


「動き方が似てる」という最初の感覚が、全部の始まりだった。


ゆっくり好きになった分、ちゃんと好きになれたと思う。焦らなかったのは、体を動かすことに夢中だったからかもしれないし、失いたくなかったからかもしれない。どっちも、たぶん本当のことだった。


好きかどうかより先に、「一緒にいると動きやすい」と感じた人を、私は好きになった。

この記事を書いた人

橘みあマッチングアプリ体験談ライター

27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。

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