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「あなたがいればいい」と言い続けた夜。後悔した2年間の話

好きな映画を変えた。意見を飲み込んだ。「あなたがいればいい」と言い続けた2年間、私はどこにいたのか。別れた後、友達から「最近どこ行ってたの?」と言われた瞬間、初めて気づいた。恋愛で自分を失うことの話。

27歳・女性の体験
·橘みあ·6分で読める

正直に言う。渋谷でひとり映画を観たのに、2年間を思い出した。


久しぶりすぎて、チケットを買うときに一瞬手が止まった。横に誰かがいないことに、体が慣れていなかった。


---


「そうかも」と言い続けた2年間


彼と付き合い始めた頃、私はホラー映画が好きだった。中学生のときから、怖いものを観て現実逃避するのが癖で、「ゲット・アウト」も「ヘレディタリー」も、ひとりで何度も観ていた。


でも彼は「ああいうの、無理」という人だった。


最初は「じゃあ一緒のときは観ない」くらいのつもりだった。それが少しずつ変わっていった。気づいたら「私もそんなに好きじゃないかも」と言っていた。自分の口から。


なぜそんなことを言ったのか、今でもよくわからない。彼が責めたわけじゃない。ただ、好きなものの話をするたびに「それより〜のほうがよくない?」と返ってきて、私はそのたびに少しずつ「そうかも」と言い続けた。


2年間、そういうことが積み重なった。


---


付き合って半年くらいのとき、仕事の愚痴を話していたら途中で遮られた。


「でも、それって最初から自分が悪くない?」


違う、と思った。思ったけど、言えなかった。「……そうかもしれない」と答えて、それ以上話さなかった。


しばらくして、会社の同僚から「最近、元気なさそうだけど」と言われた。


「そう見える? 大丈夫だよ」と即答した自分が、後になって怖かった。「大丈夫」が口から出るまでに、0.3秒もなかった。


彼に見せたい自分、彼に嫌われたくない自分、彼に愛されていたい自分。その全部が先に動いて、本当の自分は後ろに引っ込んでいた。


いつから、そうなったんだろう。


---


荻窪の改札前


別れたのは去年の春、荻窪の駅の改札前だった。


特別ひどいことがあったわけじゃなかった。ただ、彼が「なんか最近、話してても盛り上がらないよね」と言って。私は「そうだね」と答えた。その「そうだね」が、終わりだった。


泣かなかった。泣けなかった、というより、何を泣けばいいのかわからなかった。


電車に乗って、ぼんやり窓の外を見ていたら、Spotifyのシャッフルが急に星野源の「恋」をかけてきた。最悪のタイミングで笑った。笑うか泣くかわからない顔で、中央線に揺られていた。


---


別れて2週間くらいして、大学時代の友達の雪絵から連絡が来た。


「ねえ、最近どこ行ってたの? 全然連絡してこないじゃん」


その一文を読んで、画面を持つ手が止まった。


どこ行ってたの。


私、どこに行ってたんだろう。


思い返すと、2年間の記憶に「私がしたかったこと」がほとんどない。彼が行きたがった店、彼が観たかった映画、彼が話したかった話。週末の予定はいつも彼を中心に組まれていて、友達との予定は「今日ちょっと難しいかも」と断り続けていた。


雪絵に「ごめん、ちょっとバタバタしてた」と返信しながら、目の奥がじんわりした。


バタバタなんてしていなかった。ただ、いなかった。自分が。


---


自分を消すことで、愛を証明しようとしていたんだと思う。


「あなたのために変わりました」「あなたに合わせます」「あなたがいればいい」——そういう言葉は、一見すると献身に見える。でも今思えば、それは献身じゃなかった。自分が傷つかないための防御だった。意見を言って否定されることより、最初から意見を持たないほうが楽だった。ぶつかることより、溶けることを選んでいた。


彼のことが嫌いになったわけじゃない。ただ、2年かけて「私」がいなくなったとき、彼も「話してても盛り上がらない」と感じていた。そりゃそうだ、と思う。私も私と話して、全然盛り上がらなかったから。


---


自分が戻ってきた日


あの日、渋谷の映画館でひとりで観た作品は「ボーはおそれている」だった。


正直、途中から意味がよくわからなくなった。でも、怖くて、変で、笑えるシーンで笑って、気持ち悪いシーンでお腹のあたりがざわざわして、エンドロールが流れ始めたとき「あ、ちゃんと感じてる」と思った。


隣に誰もいなかった。感想を言う相手もいなかった。


それが、思いのほか、静かによかった。


---


好きな映画の話をする。嫌いなものを「嫌い」と言う。仕事でムカついたことを、遮られる前に最後まで話す。そういう当たり前のことが、別れてからしばらくは怖かった。また何か言われるかと、体が先に身構えていた。


半年かけて、少しずつ戻ってきた感じがする。ホラー映画も、また観るようになった。先週、下北沢の映画館でジョーダン・ピールの新作を観た。ひとりで。怖いシーンで声が出そうになって、口を押さえた。それが、なんか嬉しかった。


好きな人に合わせることは、愛じゃない。自分を薄めながら一緒にいることは、関係を守っているようで、じわじわと壊していく。


私が消えたとき、私たちも消えた。


「あなたがいればいい」と言えるのに、自分がいなかった。

この記事を書いた人

橘みあマッチングアプリ体験談ライター

27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。

#恋愛#自己#共依存#内省

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