クリスマスの夜、予告なしで花を持ってきた人。後悔しそうで、してない
12月24日の夜、「今日の予定は?」とLINEが来て「特になし」と返した。30分後にチャイムが鳴った。小さな花束を持って立っていた。マッチングアプリで出会った人が予告なしで来た夜、張り詰めていた何かがゆっくり崩れた。
「今夜会えない?」と来たのに、花まで持ってくるとは思わなかった。
渋谷も表参道も、きっと今夜は人で溢れているんだろうと思いながら、私は部屋の電気もろくにつけないまま、スマホだけ見ていた。ヒートテックの上にフリースを羽織って、コンビニで買ったホットのカフェラテが、もう半分ぬるくなっていた。
「今日の予定は?」
LINEの通知が来たのは、たしか18時を少し過ぎたころだった。マッチングアプリで知り合ってまだ数週間、まだ数回しか会っていない彼からだった。
返すか迷った。三秒くらい。
「特になし、家にいます」
送ってから、なんかこれ、哀れじゃないかと思った。クリスマスイブに予定なし、家にいます。全部本当のことなのに、全部みじめに見える気がした。友人たちには「今年は一人でゆっくりしたくて」と言っていたし、SNSには何も投稿していなかった。別に嘘でもない。ゆっくりはしていた。ただ、ゆっくりしながら、窓の外の暗さをずっと眺めていた。
「今から近くに来るんですが、会えますか」
返信が来るまで、30分もかからなかった。
近く、という言葉が一瞬引っかかった。どこ、どのくらい近く。でもそれより先に、身体が動いていた。洗面台に行って、顔を確認して、リップだけ塗って、着替えようか迷ってやめた。ヒートテックとフリースのまま、チャイムを待った。
待っているあいだ、なんで来るんだろうとずっと考えていた。好意があるのはわかっていた。でも今夜、このタイミングで。わざわざ。
胸の奥が、ざわざわしていた。
チャイムと白いガーベラ
チャイムが鳴ったとき、思ったより心臓の音が大きかった。
ドアを開けたら、彼は少しだけ息が上がっていた。コートの衿を立てて、片手に小さな花束を持っていた。白いガーベラと、なんか赤い実のついた枝みたいなやつ。ファミリーマートの袋も持っていた。
「何もないのかなと思って」
それだけ言った。説明も、言い訳も、何もなかった。ただ「何もないのかなと思って」。
廊下が、急に狭くなった気がした。
花束を受け取った。ガーベラの茎が少しだけ冷たかった。外の空気の温度が、まだ花に残っていた。
部屋に上がってもらった。電気をつけた。ファミリーマートの袋の中身は、チーズとクラッカーと、小さいシャンパンだった。「コンビニで調達しました」と彼が言った。「十分です」と私は言った。
ぬるいカフェラテとシャンパン
テーブルに並べた。チーズとクラッカーとシャンパン、ぬるくなったカフェラテ。不思議な組み合わせだった。でも全部、今夜に必要なものだった気がした。
シャンパンを開けた。小さい音がした。ポン、と。派手じゃなかった。でもちゃんとした音だった。
グラスに注いで、向かい合った。
「なんで来たんですか」と聞いた。
「なんとなく」と彼は答えた。
「なんとなくでクリスマスイブに来るんですか」
「来ますよ、なんとなくで」
笑った。つられて笑った。
クラッカーにチーズを乗せて食べた。テレビをつけた。何か音楽番組が流れていた。誰かが歌っていた。有名な人だったと思う。名前は覚えていない。
彼はソファの端に座っていた。私は反対の端。間に、ガーベラと食べかけのクラッカーがあった。
「来てくれてよかった」と言った。
「ですよね」と彼は言った。自信ありげに。でも少し照れた顔で。
日付が変わるころ、彼は帰った。玄関で「また会いましょう」と言った。「また」と私は言った。
ドアを閉めて、ガーベラを花瓶に入れた。冷蔵庫にあった瓶に。形が合ってなかったけど、ちゃんと立った。
白いガーベラは枯れなかったのに、また来るかは聞かなかった。
よくある質問
クリスマスイブ、最初はどんな状況だったのですか?↓
相手はなぜ予告なしに花を持ってきたのですか?↓
花束を見た瞬間、どんな気持ちになったのですか?↓
この記事を書いた人
27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。