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恋愛体験談エッセイ

クリスマスの夜、予告なしで花を持ってきた人。後悔しそうで、してない

12月24日の夜、「今日の予定は?」とLINEが来て「特になし」と返した。30分後にチャイムが鳴った。小さな花束を持って立っていた。マッチングアプリで出会った人が予告なしで来た夜、張り詰めていた何かがゆっくり崩れた。

25歳・女性の体験
·橘みあ·6分で読める

「今夜会えない?」と来たのに、花まで持ってくるとは思わなかった。


渋谷も表参道も、きっと今夜は人で溢れているんだろうと思いながら、私は部屋の電気もろくにつけないまま、スマホだけ見ていた。ヒートテックの上にフリースを羽織って、コンビニで買ったホットのカフェラテが、もう半分ぬるくなっていた。


「今日の予定は?」


LINEの通知が来たのは、たしか18時を少し過ぎたころだった。マッチングアプリで知り合ってまだ数週間、まだ数回しか会っていない彼からだった。


返すか迷った。三秒くらい。


「特になし、家にいます」


送ってから、なんかこれ、哀れじゃないかと思った。クリスマスイブに予定なし、家にいます。全部本当のことなのに、全部みじめに見える気がした。友人たちには「今年は一人でゆっくりしたくて」と言っていたし、SNSには何も投稿していなかった。別に嘘でもない。ゆっくりはしていた。ただ、ゆっくりしながら、窓の外の暗さをずっと眺めていた。


「今から近くに来るんですが、会えますか」


返信が来るまで、30分もかからなかった。


近く、という言葉が一瞬引っかかった。どこ、どのくらい近く。でもそれより先に、身体が動いていた。洗面台に行って、顔を確認して、リップだけ塗って、着替えようか迷ってやめた。ヒートテックとフリースのまま、チャイムを待った。


待っているあいだ、なんで来るんだろうとずっと考えていた。好意があるのはわかっていた。でも今夜、このタイミングで。わざわざ。


胸の奥が、ざわざわしていた。


チャイムと白いガーベラ


チャイムが鳴ったとき、思ったより心臓の音が大きかった。


ドアを開けたら、彼は少しだけ息が上がっていた。コートの衿を立てて、片手に小さな花束を持っていた。白いガーベラと、なんか赤い実のついた枝みたいなやつ。ファミリーマートの袋も持っていた。


「何もないのかなと思って」


それだけ言った。説明も、言い訳も、何もなかった。ただ「何もないのかなと思って」。


廊下が、急に狭くなった気がした。


花束を受け取った。ガーベラの茎が少しだけ冷たかった。外の空気の温度が、まだ花に残っていた。


部屋に上がってもらった。電気をつけた。ファミリーマートの袋の中身は、チーズとクラッカーと、小さいシャンパンだった。「コンビニで調達しました」と彼が言った。「十分です」と私は言った。


ぬるいカフェラテとシャンパン


テーブルに並べた。チーズとクラッカーとシャンパン、ぬるくなったカフェラテ。不思議な組み合わせだった。でも全部、今夜に必要なものだった気がした。


シャンパンを開けた。小さい音がした。ポン、と。派手じゃなかった。でもちゃんとした音だった。


グラスに注いで、向かい合った。


「なんで来たんですか」と聞いた。


「なんとなく」と彼は答えた。


「なんとなくでクリスマスイブに来るんですか」


「来ますよ、なんとなくで」


笑った。つられて笑った。


クラッカーにチーズを乗せて食べた。テレビをつけた。何か音楽番組が流れていた。誰かが歌っていた。有名な人だったと思う。名前は覚えていない。


彼はソファの端に座っていた。私は反対の端。間に、ガーベラと食べかけのクラッカーがあった。


「来てくれてよかった」と言った。


「ですよね」と彼は言った。自信ありげに。でも少し照れた顔で。


日付が変わるころ、彼は帰った。玄関で「また会いましょう」と言った。「また」と私は言った。


ドアを閉めて、ガーベラを花瓶に入れた。冷蔵庫にあった瓶に。形が合ってなかったけど、ちゃんと立った。


白いガーベラは枯れなかったのに、また来るかは聞かなかった。

よくある質問

クリスマスイブ、最初はどんな状況だったのですか?
12月24日の夕方、部屋の電気もろくにつけずヒートテックの上にフリースを羽織って、コンビニのカフェラテを片手にスマホだけ見ていたとのことです。予定は何もなく、家にいる状態でした。
相手はなぜ予告なしに花を持ってきたのですか?
「特になし、家にいます」という返信を受けて、30分後に突然チャイムを鳴らしたとのことです。こうしようと計画していたのか、衝動的に動いたのかは書かれていませんが、その行動が筆者の何かを崩しました。
花束を見た瞬間、どんな気持ちになったのですか?
小さな花束を持って立っていた彼の顔を見た瞬間、言い訳みたいに張っていた何かがゆっくりと崩れていったと書かれています。クリスマスの孤独感を自分なりに武装していたものが、解けていった瞬間でした。

この記事を書いた人

橘みあマッチングアプリ体験談ライター

27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。

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