早めに気づいたはずのサインを、見逃し続けた話
「ちょっと気になる」を無視してきた。後から思えば、全部サインだった。
消えないはずだった、「ちょっと気になる」
最初に気になったのは、1回目のデートだった。
恵比寿のイタリアンで、彼がワインを注文するとき、店員さんへの声のトーンが明らかに変わった。さっきまで私に向けていた穏やかさが、すっと引いていくような感じ。注文が終わるとまた戻ってきて、「ここのカルボナーラ、マジでうまいんだよ」って笑顔で言った。
私はその一瞬を、飲み込んだ。
「まあ、こういう日もあるよね。仕事で疲れてたのかも」
そうやって、自分の感覚にふたをした。初めての夜だった。
「でも」という名の消しゴム
2回目のデートで、前の彼女の話が始まった。
中目黒の川沿いを歩きながら、気がついたら1時間、元カノの話を聞いていた。「俺は悪くなかったんだよ、向こうが急に変わって」「俺のこと全然わかってくれなかった」——そんな言葉が、桜の木の下でずっと続いた。
「傷ついてるんだな」と思った。正直そう思っていた。同時に、胸のあたりがじわりと重くなっていたのも事実で。でも私は「過去を話してくれるくらい、信頼されてるってことかも」と解釈した。
3回目に会う予定だった日曜日の朝11時、「今日やっぱり無理。ごめん」とLINEが届いた。待ち合わせ2時間前。すでに下北沢に向かう電車の中だった。スマホを持つ手が、少しだけ強張った。
「なんかあったんだろう。仕方ない」
そう返信して、そのまま一人でレコード屋を回った。楽しくなかった。楽しくなかったのに、「大丈夫、気にしてないよ」と彼に送った。
気になることが出てくるたびに、私は「でも」をつけた。「でも優しいところもある」「でも一緒にいると楽しい」「でも気が合うから」「でも私が好きだから」。
「でも」は消しゴムだった。「ちょっと気になる」という感覚を、そのたびにきれいに消してしまう。消えた気になっていたけれど、実際は消えていなかった。ただ、見えなくなっていただけで。
4ヶ月目に変わったこと
付き合い始めて4ヶ月が過ぎた頃、私はOmiaiのアプリをこっそり開いていた。別れようとしていたわけじゃない。なんとなく、のぞきたくなっただけ。でも「なんとなく」なんて理由でマッチングアプリを開く人は、たいてい「なんとなく」じゃない何かを感じている。
彼との会話は続いていたし、週に2回は会っていた。でも私は毎回、何かを少しだけ我慢していた。
「この話、もう少し聞いてほしいな」と思っても言えなかった。
「それはちょっと傷ついた」と思っても言えなかった。
「当日キャンセルはきつい」と思っても言えなかった。
言えなかった理由は、怖かったから。「そんなこと気にするの?」って思われたくなかった。「重い」って感じさせたくなかった。「この子とは合わないな」って思われたくなかった。
好きだったから、全部飲み込んだ。飲み込み続けた。
半年後の、たった一言
別れる2週間前の夜、23時のLINEで彼から「最近どう?」と来た。「元気だよ、どうしたの?」と返したら、既読がついて、返信が来たのは翌朝だった。
別れ話は吉祥寺のカフェで、5回目のデートの帰りだった。「俺たち、なんかうまくいってなくない?」という言葉から始まった。
「あなたはいつも我慢してるよね」と彼が言った。
それはそうだ、と思った。喉の奥に何かがつかえた感じがして、でも泣けなかった。我慢させたのはどっちだ、とも思ったけど、言葉にならなかった。
27歳の秋に始めて、28歳の春に終わった関係。最後まで、私は「ちょっと気になる」を声に出せなかった。
サインは積み重なっていた
別れてしばらく経ってから、友達に「なんで言わなかったの?」と聞かれた。
「えー、言えなかった」としか答えられなかった。
でも本当は、「言ったら嫌われる」じゃなくて、「言って確かめるのが怖かった」んだと思う。サインに気づいていたけど、確認することで「やっぱりそういう人だ」とわかってしまうのが嫌だった。知らないままでいれば、まだ好きでいられると思っていた。
「ちょっと気になる」は、消えるものじゃない。積み重なるものだった。
1回目に飲み込んで、2回目に飲み込んで、3回目に飲み込んで——そのたびに、関係のどこかが少しずつ削れていた。彼への信頼が削れるんじゃなくて、自分の感覚への信頼が削れていった。「私が気にしすぎなのかな」「こんなことで不満に思うのはおかしいのかな」って、自分でジャッジするようになっていた。
今の私が試していること
あの経験のあと、Pairsで出会った人と今も連絡を取っている。まだ付き合ってはいないけど、先週初めて「あのLINEの返し方、ちょっと気になったんだけど」と正直に送ってみた。
「マジで?ごめん、どういう感じで気になった?」とすぐ返ってきた。
それだけで、ずいぶん違った。
気になることを声に出せる相手かどうか、気になることを言ったときにどう反応するか——これが今の私の、最初の見極めポイントになっている。
具体的に試しているのは、こんなことだ。
1. 「気になること」が出たら、その場でメモする。LINEの下書きでもいい。頭の中だけで処理すると、「でも」で上書きしやすくなる。
2. 「気になる」と「嫌い」を分けて考える。気になることがあっても、その人が嫌いなわけじゃない。でも、気になることを伝える価値はある。
3. 相手の反応を怖がらない練習をする。「重いと思われたくない」は自分の都合で、相手がどう思うかは言ってみないとわからない。
「正直に言ってみる」という行為が、相手を信頼することだと今は思っている。黙って飲み込み続けるのは、相手を信頼しているんじゃなくて、自分の感覚を信頼していなかった。
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「気になる」に気づいた瞬間が、関係を変えられる唯一のタイミングだったかもしれない。全部が終わってから気づいても、もうそこには戻れない。
よくある質問
体の違和感を見逃してしまった時はどうすればいい?↓
心理的な警告信号を無視し続けるとどうなる?↓
人間関係のトラブルの兆候を早期に見つける方法は?↓
この記事を書いた人
27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。