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恋愛体験談

マッチングアプリで出会って3年後に結婚した。最初の画面をまだ覚えている

水曜の夜11時、散らかった部屋でPairsをスクロールしていた私が「いいね」を押した相手と、3年後に結婚した。普通の帰り道と、ゴミ捨ての失敗と、それだけでよかった。

29歳・女性の体験
·橘みあ·6分で読める

Pairsで彼のプロフィールを見たのは、3年半前の水曜の夜だった。


夜の11時すぎ。仕事から帰ってコンビニで買ったスパークリングウォーターを飲みながら、ベッドに横になっていた。部屋は散らかっていた。洗濯物が椅子にかかったまま3日経っていて、床には読みかけの文庫本が2冊。エアコンの風が当たって、ページがときどきめくれる。「ちゃんと暮らせてないな」とぼんやり思いながら、アプリをスクロールしていた。別に誰かを探していたわけじゃない。探していたのかもしれない。そのどちらでもあって、どちらでもなかった。


写真は3枚。自己紹介文は少し長め。好きな作家の名前が書いてあって、それが目に留まった。


万城目学、と書いてあった。


私も好きだった。それだけで「いいね」を送った。深夜に衝動的に押したボタンが、今の生活につながるとは思っていなかった。


翌朝、千代田線の車内でマッチング通知が来た。スマホを見た瞬間、胸のあたりが少しだけ締まった。緊張とも違う。なんだろう、と思いながら、ホームの人混みをすり抜けた。


最初のメッセージは、「本を読む方なんですね。最近何か読みましたか?」だった。


「万城目学の最近の作品を読んでいます」と返したら、「私も好きです、どれが一番好きですか?」と続いた。「鴨川ホルモーです」と送ると、「私もそれです。なぜ好きですか」と来た。


「なぜ」を聞いてくれる人だな、と思った。


普通の会話だった。でも普通じゃないと感じた。何かがあった。うまく言えないけど、言葉を受け取る感じが丁寧だった。スタンプで流さない。短く切り上げない。私が書いたことをちゃんと読んで、その先を聞いてくれる。それだけのことが、あの夜は妙に刺さった。


1週間後、吉祥寺で会うことになった。


11月の土曜日、風が冷たかった。アトレの前で待ち合わせて、近くのカフェに入った。窓際の席で向かいに座ったとき、「会ってみないとわからない」と思っていた自分が、すこし弱くなった。会ってみてわかったから。話し方が穏やかで、意見を持っていて、自分のことをちゃんと話せる人だった。好きなものの話になると、少しだけ早口になる。それが好きだった。「違うかも」という感覚が、まだどこかにあった。「好きかも」という感覚も、同じくらいあった。その両方が、コーヒーカップの湯気みたいに漂っていた。


「緊張してますか」と聞いたら「してます」と即答してくれた。「私も」と言ったら笑った。


2時間半話して、「また会いましょう」と言って別れた。改札まで歩きながら、背中が急に軽くなった。何かを下ろしてきたみたいに。


付き合い始めたのは、3回目のデートの後だった。吉祥寺の井の頭公園のベンチで、「好きです」と言われた。空が紫色になる夕方だった。カラスが1羽、遠くを横切った。「私も好きです」と言ったら、少し驚いた顔をした。「よかった」と言った。ただそれだけだった。それだけが、その瞬間のすべてだった。


付き合ってから2年は、うまくいった日もあったし、そうじゃない日もあった。ひどい喧嘩を2回した。


1回目は1週間口をきかなかった。LINEを既読にして返さない日が続いて、スマホを裏返しにしたまま仕事した。自分が正しいとは思えないのに、謝れない夜があった。謝ったら負けだとか、そういうことじゃなくて、言葉がどこから出てくるのかわからなくなっていた。深夜に何度かメッセージを書いて、全部消した。


2回目の喧嘩は、もう終わりかと思った。3日間会わなくて、「別れましょう」という言葉が頭をぐるぐるした。言う練習を、無意識にしていた気がする。でも4日目に彼から「話したい」と連絡が来た。


向き合うことを、どちらかが諦めなかった。それだけだと思う。きれいな理由なんてない。ただ、もう少しだけ、と思う人間が二人いた。


3年目の春、奥多摩に日帰り旅行に行った。山の空気と、川の音と、人の少なさが好きで二人で選んだ場所だった。青梅線の窓から山が近づいてくるのを見ながら、特に何も話していなかった。沈黙が重くなかった。それだけのことが、なんとなくうれしかった。


帰り、立川行きの電車の中で、彼が「結婚したいです」と言った。


電車の中だった。サプライズでも何でもなかった。でも、それがよかった。特別な場所より、帰り道の普通の電車が、私たちらしかった。オレンジ色の座席と、夕方の光と、向かいの席で少し眠そうにしていたおじさん。そういう全部が、背景にあった。


「したいです」と言った。向かいのおじさんが少し笑った気がした。


ブライダルフェアに行ったのは翌月だった。表参道の青山にあるウェディングサロンで、2時間かけてカタログを見た。「これ高すぎる」「こっちがいい」「いや、普通でいいんじゃ」と言い合いながら、ケーキを3種類試食した。お互いに「これは違う」と言った回数の方が多かった。でもそれが、なぜか楽しかった。


結婚して半年。生活は地味で平凡で、それがいい。ゴミ捨ての曜日を間違えて、二人で慌てて取りに行ったことがある。冷蔵庫に謎の食材がある。週末の朝、どちらも早起きしないで、布団の中でスマホを見ている。


Pairsのアプリを削除した日のことを、今でも覚えている。「削除しますか?」という確認画面が出て、少しだけ止まった。「はい」を押した瞬間が、あの3年半で一番の転換点だったかもしれない。最初に「いいね」を押した夜でも、「好きです」と言われた夕暮れでも、電車の中でのプロポーズでもなく。


誰かを探す画面を閉じた、あの一瞬。


探すのをやめた場所に、生活があった。

この記事を書いた人

橘みあマッチングアプリ体験談ライター

27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。

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