「マッチングアプリで」と親に言った夜、後悔しなかった1年間の話
Pairsで出会った彼を家に連れてきた日、母に「どこで知り合ったの?」と聞かれた。3秒止まって、正直に答えた。その後が拍子抜けするくらいあっさりしていた話と、1年間言えなかった本当の理由。
「どこで知り合ったの?」
彼が帰って、夕飯の片付けをしているときに母が聞いた。
3秒、止まった。
「会社の関係で…」という言葉が喉まで来た。1年間何度も考えていた答え。「知人の紹介」「友達の友達」「たまたま」。どれかを言えばいい。でも言えなかった。
「マッチングアプリで」
母の手が止まった。
「あら、いまはそういう時代なのね」
それだけだった。
言えなかった1年間
Pairsで最初にメッセージを交わしたのは前の年の2月で、3月に恵比寿で初めて会って、4月から付き合った。
付き合ってすぐ、両親には「知人の紹介」と言った。彼にも「そう話しておいて」と頼んだ。嫌な顔はしなかった。「まあ、そうした方がいいですかね」と言ってくれた。
1年間、その設定を維持するのは思ったより疲れた。
「どんな人?どこで出会ったの?」という質問に毎回「知人の紹介」と答えるたびに、何かが引っかかった。彼のことが好きな気持ちに嘘はないのに、出会い方に嘘をついているから、全体が少し歪んで見える感じ。「この関係、本物なのかな」という疑問が、馴れ初めへの後ろめたさから来ていたのか、関係自体への自信のなさから来ていたのかが、ずっとわからなかった。
言った後の話
3秒で答えた言葉に、1年かかっていた。
「いまはそういう時代」という言葉が、拍子抜けするくらいふつうだった。驚くか、顔を曇らせるかと思っていた。そのどちらもなかった。
母は片付けの手を再開しながら「ちゃんとした人なのね、それが一番大事」と言った。
玄関で靴を履きながら、なんで1年間も嘘をついていたんだろうと思った。出会い方への恥ずかしさだと思っていた。でも正直に言うと、「アプリで出会いました」と言える関係への自信が、まだなかったんだと思う。「本物の関係なら、馴れ初めがどこでも関係ない」という確信が、1年付き合ってようやくできた。
親に言えるくらいの関係になってから話す、という条件を無意識に設けていた。その条件をクリアするまで、1年かかった。
今
「アプリで出会った」を今は隠していない。
聞かれたら答える。たいていは「そうなんだ」で終わる。「うちの会社の人もアプリで結婚したよ」と返ってくることもある。
「どこで出会ったか」より「どんなふうに付き合っているか」の方が、周りの人には伝わると気づいた。馴れ初めじゃなくて、一緒にいる2人を見ればわかるから。
言えない感覚は、関係が浅いうちだけだった。続けることで薄れた。長く付き合うほど、どこで出会ったかより「一緒にいた時間」が関係の中心になっていく。言えなかった1年間も、付き合えた1年間として、ただそこにある。
あの夜、お皿を拭きながら母が言った「ちゃんとした人なのね」という言葉が、一番正しいことを言っていた。出会い方じゃなくて、人を見ていた。
父に話した日
母はあっさり受け入れた。問題は父だった。
翌月の日曜、実家の居間。午後の陽射しがレースカーテン越しに入ってきて、畳の上に薄い影を作っていた。お茶の湯気が立ち上がって、急須の注ぎ口から玄米茶の香ばしい匂いがした。
父はテレビを見ていた。箱根駅伝の再放送。私が「お父さん、ちょっと話があるんだけど」と言ったとき、リモコンを握ったまま振り向いた。
「彼氏のこと」
「……うん」
「マッチングアプリで知り合った人なんだけど」
沈黙が3秒。父の顎が少し動いた。何か言おうとして、やめたように見えた。テレビの実況の声だけが部屋に流れていた。
「……ちゃんとした人なのか」
「ちゃんとしてるよ。会社員で、誠実な人」
「そうか」
それだけだった。また画面に目を戻した。でもリモコンを握る手が少し震えていた。父は心配していた。でもそれを言葉にできない人だった。
台所に戻ったら母が「お父さん、なんて?」と小声で聞いてきた。「ちゃんとした人かって聞かれた」と答えたら、母は笑った。「お父さんらしいね」と。
帰りの電車で彼にLINEした。「親に言ったよ、マッチングアプリって」。既読がすぐついた。「で、どうだった?」「お父さんが『ちゃんとした人なのか』って」「俺、ちゃんとしてる?」「たぶん」
隠していたのに、胸の石が取れた感覚がした。
この記事を書いた人
27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。