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恋愛体験談エッセイPairs

付き合って41日目、まだPairsのアプリを消せていなかった

告白に「はい」と答えたのに、iPhoneのホーム画面2ページ目にPairsが残っていた。「この人でよかった」の確信が来たのは、38度の熱を出した彼の玄関先だった。アプリ恋愛の後遺症と、消せた夜の話。

27歳・女性の体験
·橘みあ·5分で読める

38度の熱を出した彼の玄関で、泣きそうになった。


——でもそれは、まだ先の話。


付き合って41日目、まだPairsのアプリを消せていなかった。通知をオフにして、iPhoneのホーム画面の2ページ目に移動した。でも消せなかった。理由は言えなかった。「もしものとき」という言葉が浮かんで、そこで考えるのをやめた。


彼はアプリで出会って、渋谷のスタバで3回目のデートのときに告白してくれた人で、悪い人じゃない。むしろいい人だと思う。でも付き合って1ヶ月、「この人でよかった」という確信が、まだ来ていなかった。


選んだ感覚がない


5回デートしてから告白された。「付き合ってください」という言葉に「はい」と答えた。


でも「はい」と言いながら、「まだ話したことのない人が世界に何人いるか」を考えていた。心臓が跳ねるでもなく、手が震えるでもなく、ただ静かに「はい」と言った。


おかしいと思う。でもアプリを6ヶ月間使っていたあと、それが止まらなかった。アプリには常に「次の候補」がいた。マッチングしても会わなかった人が何十人もいる。そのどこかに、もっと合う人がいるかもしれない。


付き合ってからも、その感覚が消えなかった。


「好きかどうかわからないのに付き合ったの?」と聞かれると、違う。好きだった。でも「これが答えだ」という感覚が来るのを、まだ待っていた。6ヶ月間選び続けてきた後遺症みたいなものが、付き合ってからも残っていた。


彼が熱を出した夜


付き合って2ヶ月のとき、彼から「熱が38度ある」とLINEが来た。


どうするか少し考えた。行った方がいいのかな。でも「こういうとき行く関係なのか」がわからなかった。アプリで出会ってから、相手の具合が悪い場面に立ち会ったことがなかった。


恵比寿のファミマでポカリとウィダーインゼリーを3種類買って、彼の家に向かった。夜の11時に、山手線に乗って。レジ袋のがさがさいう音が、静かな車内に響いた。


ドアを開けた彼が、半分目を細めながら「来てくれたんだ」と言った。額に貼った冷えピタが少しずれていた。驚いてるような顔だった。


「来るよ」と言ったら、少し笑った。


台所でポカリをコップに注いでいるとき、「来てくれるとは思わなかった」と言われた。「なんで?」と聞いたら「まだ2ヶ月だから」と言われた。


その言葉を聞いたとき、喉の奥がぎゅっと詰まった。鼻の奥がツンとした。何かがかちっとはまった感じがした。


「……2ヶ月とか関係ないよ」


自分の声がかすれていた。


帰り道に消した


帰り道の電車で、PairsのアプリをiPhoneから削除した。


「もしものとき」のために残しておいたアプリが、なくなった。指先が少し震えていた。でも迷いはなかった。


「選ばれた」という感覚は、告白された日に来なかった。「この人でよかった」という確信は、熱を出した彼が「来るとは思わなかった」と言った夜に来た。


アプリで出会うと、関係が始まってからも「まだ選んでいる」状態が続くことがある。選択肢に慣れすぎて、「これが答えだ」という瞬間が来ても気づけない。アプリを消せたのは、選ぶことをやめたからじゃなくて、選んだという実感がやっと来たから。


選び続けることに疲れたんじゃない、選び終わったと気づけただけだ。


アプリを消した日


47日目の夜、やっと消した。


きっかけは些細なことだった。彼が38度の熱を出して、LINEで「しんどい」と一言だけ送ってきた。渋谷のオフィスから品川の彼の部屋まで、京急で20分。コンビニでポカリスエットとウィダーインゼリーとアイス枕を買って、彼の玄関のドアを開けた。


部屋は暗かった。エアコンの風の音だけがしていた。彼はベッドで丸くなっていて、私の足音で目を開けた。


「来てくれたの」


声がかすれていた。額に手を当てたら、焼けるように熱かった。汗ばんだ髪が額に張り付いていた。


ポカリをコップに注いで、枕元に置いた。アイス枕をタオルで包んで首の下に入れた。彼が「ありがとう」と言って、また目を閉じた。


その横でスマホを開いて、Pairsのアイコンを長押しした。「削除しますか?」の確認画面が出た。親指が震えた。でも今度は迷わなかった。


削除した。


「もしものとき」は来なかった。38度の熱の彼の横にいて、他の誰かの保険をスマホに残しておく意味がなくなった。


彼が寝息を立て始めた。小さな部屋にポカリの匂いとエアコンの音。窓の外は品川の夜景が光っていた。


それが正解かどうかは、5年後にわかると思う。

この記事を書いた人

橘みあマッチングアプリ体験談ライター

27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。

このテーマを読む:付き合うまで体験談

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