Pairsで出会った彼を、親にどう紹介したか
「共通の友人の紹介」で通すつもりだった。Pairsで出会った彼を実家に連れて行く前日、嘘の練習を3回した。でも母の顔を見た瞬間、全部崩れた。親にアプリだと打ち明けた日の記録。
嘘の練習を3回して、実家に向かった。
付き合って1年。30歳。彼を親に紹介することになった。Pairsで出会ったと正直に言うか、「共通の友人の紹介」で通すか。前日の夜、渋谷のアパートで一人で悩んで、結局嘘をつくことに決めた。
鏡の前で練習した。「大学時代の友達の集まりで知り合って」。3回言って、自分の声を聞いた。嘘っぽくはない。たぶん大丈夫。胃の奥がキリキリしたけど、これが一番無難だと思った。
マッチングアプリを親に言えない理由と、彼の一言
当日の朝、彼が迎えに来た。池袋から特急に乗って、実家のある群馬まで2時間。車窓の風景がだんだん田舎に変わっていく中で、彼に言った。
「今日さ、出会いのこと聞かれたら、友達の紹介って言うから。合わせてね」
彼は少し黙ってから、「正直に言った方がよくない?」と言った。
「無理。うちの親、絶対わかんないよ、アプリとか」
「でもさ、嘘つくと後がめんどくさくない? 『その友達って誰?』とか聞かれたらどうすんの」
心臓がドクッと鳴った。それは考えていなかった。母は詮索好きだ。「その友達って誰?」は絶対に聞く。その先の嘘まで用意していなかった。
「……考える」
電車の中で、ずっと窓の外を見ていた。利根川を渡るとき、水面がキラキラ光っていた。きれいだなと思ったけど、胸の奥は重かった。
母の「お茶入れるわね」で、全部崩れた
実家に着いた。玄関で母が出てきた。「いらっしゃい」と彼に言って、少し緊張した笑顔を見せた。父はリビングのソファに座っていて、テレビの音を下げた。
母が「お茶入れるわね」と台所に行って、彼と父がぎこちなく天気の話をしている間、私は実家の匂いを吸い込んだ。畳と、線香と、母が焼いたクッキーの匂い。この家で18年過ごした。この家の人たちに、嘘をつこうとしている。
喉の奥に何かがつかえた感触があった。
お茶とクッキーが並んで、4人でテーブルを囲んだ。母がにこにこしながら聞いた。
「で、二人はどうやって知り合ったの?」
来た。予定通りの質問。口を開こうとした。「大学時代の——」
母の目を見た。期待と、少しの不安が混ざった目。娘が初めて連れてきた男性を前にして、一生懸命笑顔を作っている母の顔。
声が出なかった。
「マッチングアプリです」
言ったのは、私だった。自分でも驚いた。練習した嘘が全部飛んで、本当のことが出てきた。母の顔を見たら嘘がつけなかった。それだけだった。
親の反応は、想像と全然違った
沈黙が降りた。2秒か3秒。体感では1分くらい。手のひらが汗でびっしょりだった。
母が最初に言ったのは「それって、あのスマホの?」だった。
「うん。Pairsっていうアプリ」
「ああ、テレビで見たことある。最近はそういうので出会うんだねえ」
怒られると思っていた。心配されると思っていた。「危なくないの?」と言われると思っていた。でも母はお茶を一口飲んで、「まあ、出会い方より相手が大事よね」と言った。
拍子抜けした。半年以上悩んでいたことが、母の一言で解決した。
父は黙って彼を見ていた。しばらくして「仕事は何をされてるんですか」と聞いた。出会い方には興味がなさそうだった。父にとっては「アプリかどうか」より「ちゃんとした人かどうか」の方が問題だったらしい。
彼が「IT関連の仕事をしています」と答えると、父は「ほう」と言った。それだけ。彼が少し緊張して声がうわずっていたのがわかった。でも姿勢が良くて、父の目を見て話していた。それで十分だったんだと思う。
帰りの電車で、彼が笑った
夕方、実家を出た。最寄り駅まで母が車で送ってくれて、「また連れてきなさいね」と言った。バックミラー越しに母が手を振っているのが見えた。
特急に乗って、彼と並んで座った。
「言えたね」
彼がぽつりと言った。窓の外はもう暗くなっていて、ガラスに二人の顔が映っていた。
「うん。……練習、意味なかったね」
彼が笑った。声を出して笑った。電車の中だから小さな声だったけど、その笑い方が好きだと思った。鼻の横にしわが寄る笑い方。
「お母さん、全然気にしてなかったじゃん」
「ね。あんなに悩んだのに」
肩に彼の頭がコトンと乗った。目を閉じているみたいだった。彼のシャンプーの匂いがした。電車の揺れと、彼の体温と、窓ガラスに映る二人の影。
結局、「親にどう言うか」を一番気にしていたのは私だけだった。母は出会い方より相手を見ていたし、父は仕事を聞きたかっただけだし、彼は最初から正直でいいと思っていた。
一人で壁を作って、一人でぶつかって、一人で大げさに悩んでいた。
後日、母からLINEが来た
3日後、母からLINEが来た。
「あの子、いい子ね。大事にしなさい。アプリとかお母さんよくわかんないけど、あんたが幸せそうだったから、それでいいの」
画面がにじんだ。電車の中だったのに。
隠さなきゃいけないと思っていたのは、自分の偏見だった。アプリで出会うことが恥ずかしいんじゃない。恥ずかしいと思っている自分が、恥ずかしかっただけだ。
親に嘘をつく準備をしていたのに、正直に言ったら抱きしめられた。隠しごとは、隠す側だけを苦しめる。
この記事を書いた人
27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。