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恋愛体験談エッセイPairs

「楽しかった、またね」と言った夜、後悔した話

Pairsで出会ったKentoさんと渋谷のバーで3時間話した。帰り際、彼が何かを言いそうで言わなかった。私も言えなかった。帰宅して3時間後に「楽しかった」とLINEが来た。20分そのメッセージを眺めた夜のこと。

26歳・女性の体験
·橘みあ·6分で読める

渋谷のバーを出たとき、胸が重かった。


Pairsで彼——Kentoさん——と初めて会ったのは、その夜が初めてだった。待ち合わせは渋谷の19時。マークシティの前で会って、少し歩いて、円山町の路地にある小さなバーに入った。雨上がりの夜で、アスファルトが光を反射していた。10月の渋谷、路地の街灯が濡れた路面に揺れていた。カウンターだけの店に入ったとき、バーテンダーが無言でグラスを磨いていて、カウンターに座った瞬間から何か落ち着いた気がした。


3時間、カウンターで並んで


カウンターだけの席。二人並んで座って、ウイスキーを飲みながら3時間話した。


話したこと。仕事のこと、好きな映画のこと(二人ともノーランが好きで、「インターステラー」か「メメント」かで意見が割れた)、失敗した料理の話、なぜかネコとイヌどちらが良いかの話(私はネコ派、彼はどちらでもない派)。特別な話じゃない。でも3時間が長いと感じなかった。ウイスキーのグラスが空になるたびに、バーテンダーが「お代わりは?」と聞いてきて、そのたびに「もう一杯」と言っていた。


2杯目のハイボールを飲んでいる頃、彼が何かを言いかけた。「あの、」で始まって、少し止まった。私は待った。バーカウンターの木の感触を指でなぞりながら、待った。彼が「あ、えっと、」と言って、話題を変えた。「今使ってるアプリってPairsだけですか?」と聞いてきた。


違う話になった。


私は「Pairsだけです」と答えながら、「あの、」が何だったのかを気にしていた。聞ける雰囲気じゃなかった。聞けばよかったのかもしれない。でも、会話のテンポを壊したくなかった。その「聞けなかった」自分を、電車に乗ってから思い返した。


3杯目は飲まなかった。「そろそろ」と彼が言って、お会計をした。彼がまとめて払おうとしたので「割り勘にしたい」と言ったら「じゃあ今日はいいです、次で」と言った。


次、という言葉。


改札前で止まった言葉


店を出た。渋谷の夜は人が多い。円山町の路地から出ると、急に人の量が増えた。10月の夜気が首元に当たった。彼が渋谷駅まで一緒に歩いてくれた。西口の改札まで来て、そこで止まった。


「今日楽しかった」と彼が言った。


「私も」と私が言った。


彼が何かを言いそうだった。口が開いて、閉じた。また開いた。「あの、」のときと同じ間があった。何かを言いかけて、止まった。私は待った。改札の向こうで電車のドアが閉まる音がした。人が横を通り過ぎた。数秒。その数秒が、妙に長かった。


「またね」


それだけだった。


改札を入った。電車に乗った。新宿で乗り換えて、総武線に乗った。窓に外の夜が流れていった。渋谷の灯りが消えて、代々木の暗さが来て、また新宿の光が来た。


「またね」か。


「またね」って、次に会う気があるってことか。それとも社交辞令か。「次で」って言ってたけど。言いかけて止まった「あの、」は何だったのか。2回、言いかけた。バーの中で1回、改札の前で1回。2回とも違う言葉になった。何を言いかけていたのか。考えれば考えるほど、何通りもの可能性が出てきて、どれが本当かわからなかった。電車に揺られながら、そういうことを考え続けた。


考えながら帰り着いた。ワンルームのアパート。コートを脱いで、ソファに座って、スマホを眺めた。


彼からのLINEはなかった。あって当然じゃない。でもなんとなく眺めた。


風呂に入った。歯を磨いた。布団に入った。


日付が変わった頃。


通知。


「楽しかった。次、また行こう」


それだけだった。


私はそのメッセージを20分眺めた。


何がしたかったのか自分でもわからない。どこかに答えが書いてあると思ったのか。「楽しかった」の4文字と「次、また行こう」の7文字を、何度も読んだ。言いかけて止まった「あの、」が何だったのか、このメッセージからはわからない。わからないまま、20分が過ぎた。


スマホを握って、返信を打ち始めた。


「私も楽しかった。また行きましょう」


送ってから、「行きかけて止まった言葉のこと、いつか聞いていいですか」と続けて打った。1分くらい見つめて、送らなかった。次に会ったとき、直接聞けばいい、と思った。


下北沢で聞いた「怖かった」


次のデートは2週間後だった。下北沢のカフェで。「あの、」について聞かなかった。でも3時間、また話した。帰り道、下北沢の小道を歩きながら、今度は向こうから「聞いてもいいですか」と言ってきた。「あの夜、言いかけたこと、気づいてましたか」と。


気づいていた。全部。「あの、」のあと止まったこと、2回あったこと、「またね」になったこと。全部気づいていた。


彼が「……好きって言いたかったんですけど」と言った。「でも2回、止まってしまって」


「なんで止まったんですか」


「怖かったです。断られるより、言ったことで気まずくなるのが」


私には、それがよくわかった。「あの、」で止まる怖さが。言葉の手前で足がすくむ感じが。


言葉は届かなくても、躊躇は届いているのに。

よくある質問

渋谷のバーで何時間話したのですか?また、どんな内容でしたか?
カウンターだけの小さなバーで、3時間話しました。仕事のこと、好きな映画のこと(二人ともノーランが好きだったこと)などが話題に上がりました。
「楽しかった、またね」以上のことをなぜ言えなかったのですか?
帰り際に彼が何かを言いそうで言わなかった、と話者は感じていました。自分も言えなかった、という記述から、お互いに踏み出せなかった夜だったことがわかります。

この記事を書いた人

橘みあマッチングアプリ体験談ライター

27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。

#Pairs#切ない#言えなかった#すれ違い#余白

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