二子玉川の改札で、私たちは短い言葉を交わして別れた
Pairsで出会った川島さんと、5回目のデートの帰り道。等々力渓谷から二子玉川の改札まで、何かが終わっていく気配を知りながら、私は「そっか」しか言えなかった。
十一月の夕方、二子玉川はやけに人が多かった。
ライズのフードコートから流れてくる匂い、子どもを肩車したまま歩く父親、ベビーカーを押しながら笑っている夫婦。週末の改札周辺というのは、誰かと一緒にいることが当たり前みたいな顔をした人たちで、いつも満ちている。その中を川島さんと並んで歩いていた。駅に向かって。2人とも、この先のことを口にしていなかった。
それがすでに、答えだったのかもしれない。
川島さんとはPairsで出会った。アプリを始めて3ヶ月目。24歳の私が、初めてちゃんと好きになった人だった。会ったのは5回、5ヶ月かけて5回。数字にすると少ないのに、会うたびに話の層が深くなっていく感覚があった。2回目に渋谷の小さなビストロでワインを飲みながら、お互いが子どもの頃に怖かったものを話した夜のことを、私はまだ覚えている。「暗い場所より、静かな場所の方が怖かった」と彼が言って、私も「わかる」と言って、その「わかる」が本当に嘘じゃなかった。
5回目のデートが、二子玉川だった。
等々力渓谷を歩いた。十一月の渓谷は、木が葉を落としかけていて、踏むたびに乾いた音がした。川の水が思ったより透明で、それをスマホで撮ろうとして、やめた。なんとなく、写真を残す気分じゃなかった。川沿いのカフェでパスタを食べて、コーヒーを飲んだ。話はしていた。仕事の話、最近観た映画の話、川島さんが読んでいる本の話。言葉の数は、多くなかったわけじゃない。でも何かが、いつもと違った。
彼の言葉が、少しずつ短くなっていった。
渓谷を出て川沿いの道を歩いていたとき、川島さんが「少し考えていることがあって」と言った。空気が冷えていた。首の後ろのあたりがすっと寒くなった気がした。
「うん」
「しばらく、整理したい時間が必要かもしれない」
喉の奥が乾いた。唾を飲み込んでも、すぐにまた乾く。川の音だけが続いていた。
「整理って、どんなこと?」
「仕事のことも、色々と……。今の自分に、誰かと会い続けるのが、正直厳しくて」
責めているんじゃないのはわかった。彼の声が穏やかだったから。怒っているんじゃない。ただ疲れている、という声だった。どこかに「ごめん」が滲んでいた。それがかえって、胸の真ん中あたりを重くした。
「そっか」
それだけ言った。「いつからそう思ってた?」とか「私のことはどう思ってるの?」とか、聞けなくはなかった。でも聞かなかった。聞いても何かが変わるとは思えなかったし、正直に言えば——答えを聞くのが怖かった。「好きだけど、今は無理」と言われることも、「そういうわけじゃなくて」と言われることも、どっちも、怖かった。
矛盾している。わかってる。でもそのとき私は、両方が同時に本当だった。
川沿いから駅に向かって歩いた。5分くらいの道のり。特に何も話さなかった。でもその沈黙は、攻撃的じゃなかった。誰かを責めているわけじゃない、ただ静かな沈黙。二子玉川の夕方の空気が冷たく、駅が近づくにつれてどんどん人が増えた。私たちの間に、見えない透明な壁みたいなものが一枚あって、でもそれを「ある」と言える状況でもなかった。
改札の前に着いた。
「今日はありがとう」と彼が言った。
「こちらこそ」と私は言った。
「いろいろ、ごめんね」
「謝らないで」
「うん」
少しだけ、間があった。誰かのキャリーケースが横を通り過ぎた。子どもが「ママ」と呼ぶ声がした。
「じゃあ」
「うん。じゃあ」
彼がSuicaを改札にタッチした。扉が開いた。彼が中に入った。振り向かなかった。扉が閉まった。
私はそこに立っていた。
何秒かわからない。人がぶつかりそうになって、「すみません」と声が出て、それで足が動いた。田園都市線のホームに降りて、電車が来て、乗った。扉が閉まった。窓の外が、駅を出るたびに暗くなっていった。
泣くかと思ったけど、泣かなかった。目が乾いている感じがした。喉も乾いていた。渋谷でいったん降りて、改札近くのローソンでエビアンの小さいペットボトルを買って、ホームに戻って飲んだ。冷たい水が食道を通るのを、妙にはっきり感じた。
川島さんのLINEは消さなかった。でも開かなかった。アイコンをフォルダの奥に移動させて、見えないところに入れた。消すのとは違う。消せないのとも、違う。
それから3ヶ月が経つ。
川島さんから連絡は来ていない。私からも送っていない。等々力渓谷にはまだ行っていない。二子玉川の駅も、用がなければ降りない。田園都市線に乗るとき、あの駅のアナウンスが流れるたびに、胸のどこかが一瞬だけ固くなる。
喧嘩して終わったわけじゃないから、整理がつかない。怒れないし、悲しみきれない。誰かに話すとき、「別れた」という言葉が正確かどうかもわからなくて、「なんか、自然消滅した感じで」とごまかす。でも自然消滅でもない気がして、それもしっくりこない。
あの「じゃあ」という言葉が、時々耳の中に戻ってくる。
私の「じゃあ」じゃなくて、彼の「じゃあ」。静かで、少しだけ申し訳なさそうで、でもちゃんと終わりを告げていた、あの「じゃあ」。
爆発しなかった終わりは、爆発した終わりより、ずっと長く体の中に残る。
この記事を書いた人
27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。