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恋愛体験談Pairs

3月に出会って、5月まで好きだった。7月になっても、桜の写真を見るたびに思い出す

目黒川の桜並木で、彼は私の写真を撮った。その写真を、私はまだ持っている。

23歳・女性の体験
·橘みあ·4分で読める

桜の写真が苦手になったのは、去年からだ。


Instagramのストーリーに流れてくる桜、コンビニのポスターの桜、スマホの写真フォルダに残っている去年の4月の桜。見るたびに、胸の中でぎゅっと何かが締まる。理由は、わかっている。


Pairsでマッチングした彼——木村くん——が、写真を趣味にしていた。


プロフィールには「フィルムカメラとデジタルカメラ、両方好きです。日常のスナップを撮るのが好き」と書いてあって、実際に投稿していた写真が良かった。東京の街角、食べ物、光の入り方、どれも丁寧に切り取られていた。「写真、きれいですね」とメッセージを送ったのは私からだった。


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最初に会ったのは3月下旬、代官山のカフェ。


彼はカメラを一台持ってきていた。「今日は撮ってもいいですか」と聞かれて、「いいですよ」と答えた。カフェの窓際の席で、コーヒーを飲みながら話していると、ふいにシャッター音がした。気づいたら私が撮られていた。


「見せてください」と言ったら、スクリーンで確認させてくれた。私は窓の方を向いていて、光が横から当たっていた。いい写真だった。自分の写真でこんなに思うのは初めてで、少し恥ずかしかった。「送ってください」と言ったら、「LINEでいいですか」と言って交換した。


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2回目のデートは4月初め。目黒川だった。


桜が満開で、川沿いにずらりと並んでいた。平日の夕方だったのに、人が多かった。花びらが水面に落ちて、流れていく。ピンクの絨毯みたいだった。


彼はカメラを持ちながら歩いて、ときどき立ち止まって撮った。私も撮られた。桜の前で、川を背景に、歩いている途中に。彼は「こっち向かなくていいですよ」と言って、私が他のものを見ているところを撮っていた。


「桜、好きですか」と聞いたら、「桜より、桜を見ている人が好き」と言った。


その言葉に、心臓が一回飛び上がった。体が覚えている。


歩きながら肩が触れた。どちらも気づかないふりをした。でも少し、歩く速さが遅くなった。


夜、帰宅してからLINEが来た。写真が10枚。全部、私だった。桜を背景に、川を見ている私、立ち止まって何かを指差している私。自分のこんな写真、こんなに撮ってもらったことなかった。


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5月、大型連休に2回会った。代官山と、渋谷と。毎回楽しかった。彼は話が面白くて、写真の話になると止まらなかった。「フィルムの粒子感って、ノイズじゃなくて時間の痕跡な気がして」と言って、私には難しかったけど聞いていると楽しかった。「また行きましょう、どこかに」という話が出ていた。「梅雨前に。雨の日も撮りたいんですよね、東京の」と彼が言った。「いいですね」と私は答えた。


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6月になって、LINEの頻度が落ちた。


気づいたのは、3日くらい既読のまま返信がない日が続いたときだった。前は夜には返ってきていたのに。こちらから送ると翌日返ってくる。でも短い。


7月に「最近どうですか」と送った。「忙しくて」と来た。「会えそうですか」と送ったら「なかなか難しいかも」と来た。「そうかー」と返したら、既読がついて、返信は来なかった。


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自然消滅というやつだった。


怒っているわけでも、傷ついているわけでもない、と最初は思っていた。でも7月のある夜、フォルダを整理していて目黒川の写真が出てきたとき、喉の奥がひりついた。桜と、川と、彼が撮ってくれた私。


何がいけなかったのか、今でもわからない。徐々に冷めたのか、他に誰かできたのか、ただ忙しかったのか。理由が知りたかったけど、聞けなかった。聞けなかったことが、一番長く残った。


桜が咲くたびに思い出す。好きだったかどうかより、あの4月の目黒川を。花びらが水面に落ちて、彼が「桜より桜を見ている人が好き」と言った瞬間を。


終わりを告げられなかった関係は、季節が語り継ぐ。


写真フォルダから、彼が撮ってくれた写真を削除できずにいる。


削除すれば忘れられるかもしれない。でも忘れたくない気持ちも、どこかにある。あの4月の目黒川の空気を、桜の匂いを、「桜より桜を見ている人が好き」という言葉を。


終わりを知らないまま終わった関係は、完結しないから、記憶の中でいつも途中のままだ。


あの夜LINEで届いた10枚の写真は、まだスマホの中にある。消せない写真は、消さなくていい。答えが出ない関係は、答えを出さなくていい。


来年の春、また桜が咲く。そのとき、誰かと目黒川を歩けているだろうか。それとも一人で、ある日の花びらを思い出しているだろうか。どちらでも、桜はきれいだ。


目黒川には、もう何度も一人で行った。桜の季節も、葉が青い夏も、枯れた冬も。それでも、あの4月の夕方だけは特別だ。


好きだったことの証明は、忘れられないことだ。忘れていないから、まだ好きだったんだと思う。

この記事を書いた人

橘みあマッチングアプリ体験談ライター

27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。

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