恋のアーカイブ
恋愛体験談Tinder

設定一つで見える世界が変わる。Tinderで気づいた、私が隠していた本当の好き

24歳の私は、マッチングアプリの設定を交互に切り替えていた。男性を探す時期と女性を探す時期。どちらも好きだという答えが、一番受け入れられにくかった。その矛盾を理解してくれた人との出会いまで。

24歳の体験
·橘みあ·5分で読める

深夜1時、寝る前にスマホを開く。私のTinderアプリは、今日も女性向けの設定になったままだ。


昔はこれを交互に変えていた。男性向けの設定と女性向けの設定を、気分や季節で切り替えるように。24歳の今も、その時期のことをはっきり思い出せる。秋の夜中、冬の朝、春の雨の日——どの季節も、私は設定を変えていた。


このことを人に話すと、だいたい二つの反応に分かれた。「え、どっちが好きなの」という直線的な質問。もう一つは「それって不誠実じゃない」という眉をひそめた声。どちらも答えられない。「どちらも好き」が最も正直なのに、その言葉が最も受け入れられない。何度も感じた、その息苦しさ。


男性向けの設定で使っていた時期のことをいえば、最初のメッセージの99%は相手からだった。「こんにちは」「プロフィール拝見しました」という定型的な挨拶。礼儀正しく、清潔で、でもどこか距離がある。天気の話。仕事の話。趣味の話をひと通り経由してから、ようやく少し個人的な会話に進む。その段階まで来るのに、平均して2週間。毎回そのプロセスが同じで、映画の再生を何度も見ているようだった。


対して女性向けの設定では、自分からメッセージを送ることが多かった。帰ってくる返信が——なんだろう、最初から濃かった。「このプロフィール文、気になって」というように、いきなり個人的なところから入る人がいた。「仕事で大変なこと何?」と、天気の話を飛ばして聞かれることもあった。1週間で交わせる言葉の量が全然違う。


あのころ、私は気づいていなかった。自分がどちらの設定で何を期待していたのか。


去年の春だった。女性向けの設定で使っていた時期に、Kanaさんのプロフィールが表示された。スクロールした指が止まった。プロフィール写真が3枚あって、1枚は中野の路地裏で撮ったやつ。古いビニール傘が立てかけてある角度のいい写真。趣味欄には「アニメ(ジャンルを問わず)」「スケボー」「深夜の散歩」と書いてあった。


何この人——そう思った。謎の組み合わせ。スケボーとアニメ。それなのに深夜の散歩。矛盾している。でも矛盾しているから、気になった。


やりとりして、会うことになった。中野の駅前の居酒屋『鳥八』で。春の夜で、桜の香りと居酒屋の生ビールの臭いが混じっていた。Kanaさんはメニューを見もしないで、いきなり聞いてきた。


「バイセクシャルなんですか?」


驚いた。プロフィール文には書いてなかったはずだ。でも嘘をつく気にもならなかった。


「たぶんそうだと思う」


「たぶん?」


「自分でも全部わかってるわけじゃなくて」


Kanaさんはビールを一口飲んだ。何も言わなかった。


その「それ以上聞かなかった」という沈黙が、私の中で何かを解いた。


アプリで恋愛を探していると、一番しんどいのは開示の過程だった。自分の全部を知らない相手に、少しずつ明かしていく。そのたびに、引かれるかもしれないという恐怖が胸にある。「バイセクシャル」という言葉を口にするたびに、相手の表情がどう変わるのか、無意識に確認している自分がいた。でもKanaさんは、最初から引かなかった。次に会った時も。その次の時も。


二度目のデートは渋谷のカフェ『PAZ BY PEACE COFFEE』で。三度目は新宿の映画館。その間、Kanaさんは私を「バイセクシャル」という属性で見ていなかった。私という一人の人間として、話を聞いてくれていた。少なくとも、そう感じた。


Kanaさんとの関係は、自然に深くなった。


今は女性向けの設定のまま、アプリは使っていない。必要がないから。


だけど、あの時期——設定を交互に変えていたあのころのことを、時々思い出す。自分のことが少し、わかった気がするから。同じアプリなのに、設定一つで見える世界が変わる。会話のトーン。相手の期待。自分の振る舞い。全部違った。


みんな、自分が見ている世界の中でやりとりしている。設定を変えるたびに、見える風景が変わる。それは全部、現実の一部だ。


ある夜、Kanaさんに言われたことがある。私が「自分のこと、ちゃんと説明できなくて」と悩んでいた時。


「全部わかってる必要ないでしょ、自分のことなんて」


その言葉で初めて、「どちらも好き」という答えに名前がついた。それは矛盾じゃなくて、単に自分の一部だった。


深夜2時、Kanaさんはもう寝ている。私はスマホの画面を暗くして、天井を見つめる。設定を変えるたびに、違う自分が表れていた。でも全部、本当だった。

この記事を書いた人

橘みあマッチングアプリ体験談ライター

27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。

この記事が刺さったら、シェアしてください

恋愛体験談」はまだ 185 本あります

恋愛体験談をすべて読む

次の記事

「楽しかった、またね」——それだけだった。あの夜、私たちは何かを言えなかった