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設定一つで見える世界が変わった夜。止まっていた本当の好きに気づいた

24歳の頃、Tinderの設定を男性向けと女性向けで気分によって切り替えていた。どちらも好きという答えが一番受け入れられにくかった。その矛盾を「どっちかにして」と言わずに理解してくれた人に、ようやく出会うまでの話。

24歳の体験
·橘みあ·6分で読める

正直に言う。女性向けの設定のままにしていたのに、気づいた。


昔はこれを交互に変えていた。男性向けの設定と女性向けの設定を、気分や季節で切り替えるように。24歳の今も、その時期のことをはっきり思い出せる。秋の夜中、冬の朝、春の雨の日——どの季節も、私は設定を変えていた。


このことを人に話すと、だいたい二つの反応に分かれた。「え、どっちが好きなの」という直線的な質問。もう一つは「それって不誠実じゃない」という眉をひそめた声。どちらも答えられない。「どちらも好き」が最も正直なのに、その言葉が最も受け入れられない。何度も感じた、その息苦しさ。喉の奥に引っかかったものをうまく飲み込めないまま、笑顔で「そうですね」と言ってやり過ごしていた。


設定を変えるたびに変わる会話の質感


男性向けの設定で使っていた時期のことをいえば、最初のメッセージの99%は相手からだった。「こんにちは」「プロフィール拝見しました」という定型的な挨拶。礼儀正しく、清潔で、でもどこか距離がある。天気の話。仕事の話。趣味の話をひと通り経由してから、ようやく少し個人的な会話に進む。その段階まで来るのに、平均して2週間。毎回そのプロセスが同じで、映画の再生を何度も見ているようだった。


対して女性向けの設定では、自分からメッセージを送ることが多かった。帰ってくる返信が——なんだろう、最初から濃かった。「このプロフィール文、気になって」というように、いきなり個人的なところから入る人がいた。「仕事で大変なこと何?」と、天気の話を飛ばして聞かれることもあった。1週間で交わせる言葉の量が全然違う。


あのころ、私は気づいていなかった。自分がどちらの設定で何を期待していたのか。設定を変えるたびに、自分の何かが変わっていた。でもその「何か」に名前がなかった。


去年の春だった。女性向けの設定で使っていた時期に、Kanaさんのプロフィールが表示された。スクロールした指が止まった。プロフィール写真が3枚あって、1枚は中野の路地裏で撮ったやつ。古いビニール傘が立てかけてある角度のいい写真。趣味欄には「アニメ(ジャンルを問わず)」「スケボー」「深夜の散歩」と書いてあった。


何この人——そう思った。謎の組み合わせ。スケボーとアニメ。それなのに深夜の散歩。矛盾している。でも矛盾しているから、気になった。


Kanaさんが聞かなかった沈黙


やりとりして、会うことになった。中野の駅前の居酒屋『鳥八』で。春の夜で、桜の香りと居酒屋の生ビールの臭いが混じっていた。Kanaさんはメニューを見もしないで、いきなり聞いてきた。


「バイセクシャルなんですか?」


驚いた。プロフィール文には書いてなかったはずだ。でも嘘をつく気にもならなかった。


「たぶんそうだと思う」


「たぶん?」


「自分でも全部わかってるわけじゃなくて」


Kanaさんはビールを一口飲んだ。何も言わなかった。


その「それ以上聞かなかった」という沈黙が、私の中で何かを解いた。


アプリで恋愛を探していると、一番しんどいのは開示の過程だった。自分の全部を知らない相手に、少しずつ明かしていく。そのたびに、引かれるかもしれないという恐怖が胸にある。「バイセクシャル」という言葉を口にするたびに、相手の表情がどう変わるのか、無意識に確認している自分がいた。でもKanaさんは、最初から引かなかった。次に会った時も。その次の時も。


二度目のデートは渋谷のカフェ『PAZ BY PEACE COFFEE』で。木の椅子が硬くて、でも日当たりが良かった。コーヒーを飲みながら、Kanaさんが「私もずっとどっちつかずだった時期あったよ」と言った。「どっちつかずって思われたくなくてさ」続きを待った。「でもある時、どっちつかずが自分の形なんだって気づいたら楽になった」。


三度目は新宿の映画館。帰り道、新宿の雑踏を歩きながらKanaさんが映画の感想を話していた。私はその声を聞きながら、この人のとなりを歩くことの自然さを感じていた。説明しなくていい。ちゃんと前にいる。その感覚が、どれだけ久しぶりだったか。


Kanaさんとの関係は、自然に深くなった。


今は女性向けの設定のまま、アプリは使っていない。必要がないから。


だけど、あの時期——設定を交互に変えていたあのころのことを、時々思い出す。自分のことが少し、わかった気がするから。同じアプリなのに、設定一つで見える世界が変わる。会話のトーン。相手の期待。自分の振る舞い。全部違った。


みんな、自分が見ている世界の中でやりとりしている。設定を変えるたびに、見える風景が変わる。それは全部、現実の一部だ。


「全部わかってる必要ない」


ある夜、Kanaさんに言われたことがある。私が「自分のこと、ちゃんと説明できなくて」と悩んでいた時。


「全部わかってる必要ないでしょ、自分のことなんて」


その言葉で初めて、「どちらも好き」という答えに名前がついた。それは矛盾じゃなくて、単に自分の一部だった。名前がついた途端、引っかかっていたものがするりと落ちた気がした。胸の中がすっきりしたわけじゃない。ただ、ここにあるものがある、とやっと認められた。


設定を変えるたびに違う自分が表れていたけど、全部本当だった。

よくある質問

Tinderの設定をどのように使っていたのですか?
24歳のころ、男性向けと女性向けの設定を季節や気分に合わせて交互に切り替えていました。秋の夜中、冬の朝、春の雨の日と、どの季節も設定を変え続けていたといいます。
最終的にその矛盾を理解してくれた人と出会えたのですか?
記事のタイトルと内容から、自分の「本当の好き」を受け入れてくれる人との出会いまでが描かれています。設定一つで見える世界が変わった、というのが彼女の辿り着いた言葉です。

この記事を書いた人

橘みあマッチングアプリ体験談ライター

27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。

#Tinder#LGBTQ#バイセクシャル#自分らしく#マッチングアプリ

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