付き合って2週間でGPS共有を求められた話
Tinderで出会った彼は、最初の1週間は完璧だった。2週間目の夜、「位置情報共有しない?」と言われた瞬間、指先が冷たくなった。断ったら態度が変わった。束縛がエスカレートする前兆を振り返る。
付き合って14日目に「GPS共有しよう」と言われた。
そのとき私は、新宿三丁目のドトールでアイスラテを飲んでいた。LINEの通知音が鳴って、画面を見た瞬間、指先がすうっと冷えた。
Tinderで出会った「完璧な人」
彼とマッチしたのは8月の終わりだった。Tinderのプロフィールには「都内IT勤務/映画好き/猫派」とだけ書いてあって、写真は清潔感があった。最初のメッセージが「プロフィール読みました、最近観た映画ありますか?」だったのを覚えている。テンプレっぽさがなくて、ちゃんと読んでくれた感じがした。
やりとりは1週間続いた。返信のスピードがちょうどよくて、質問の仕方が丁寧で、「この人は大丈夫そうだな」と思った。初めて会ったのは中目黒のイタリアン。グラスのワインを傾けながら、映画の話と仕事の話をした。彼は私の話をちゃんと聞いて、相槌のタイミングが自然だった。
帰り道、中目黒の川沿いを歩きながら「また会いたいです」と言われたとき、胸の奥がじわっと温かくなった。こういう出会い方もあるんだ、と素直に思った。
2回目のデートは3日後。3回目は翌週。会うたびに距離が縮まって、3回目の帰り際に「付き合いたい」と言われた。早いな、と思った。でも嫌じゃなかった。「うん」と答えた自分の声が、少し震えていたのを覚えている。
最初の1週間は、何もおかしくなかった
付き合い始めの1週間は穏やかだった。「おはよう」のLINEが毎朝届いて、仕事終わりに「お疲れさま、今日どうだった?」と聞いてくれた。土曜日に表参道を歩いて、無印で観葉植物を一緒に選んだ。私が迷っていたら「好きなの選びなよ」と笑ってくれた。
ただ、今振り返ると、小さなサインはあった。
「今どこにいるの?」というLINEが、1日に3回来た日がある。私が友達とランチしていたとき、「誰と?」と聞かれた。「大学の友達」と答えたら、「男?」と返ってきた。「女だよ」と送ったら「そっか、よかった」。
そのときは気にしなかった。心配してくれてるだけだと思った。
14日目の夜
2週間目の木曜日の夜。新宿三丁目のドトールで資格の勉強をしていた。LINEが鳴った。
「ねえ、位置情報の共有しない?お互い安心じゃん」
スマホを持つ手が、一瞬止まった。心臓が少しだけ速くなったのがわかった。
「なんで?」と返した。
「いや、お互いどこにいるかわかった方が安心かなって。友達カップルもやってるし」
安心、という言葉が引っかかった。何が不安なんだろう。まだ付き合って2週間だ。
「うーん……私はちょっと抵抗あるかな」
既読がついて、30秒くらい間があった。タイピング中の表示が消えて、また出て、また消えた。
「なんで?俺のこと信用してないの?」
胃のあたりが、きゅっと縮んだ。
「信用してないとかじゃなくて、位置情報はプライベートだから」
「プライベートって……彼氏でしょ?なんか隠してるの?」
画面を見つめたまま、息が浅くなっていた。ドトールのBGMが急に遠くなった気がした。
断ったら、態度が変わった
その夜から、LINEの文面が変わった。
「了解」「うん」「別に」。返事が急に短くなった。翌日、電話をかけたら「今忙しい」と3秒で切られた。土曜日に会う約束をしていたのに、前日の夜に「体調悪い」とキャンセルされた。
月曜日。何事もなかったように「週末どうだった?」とLINEが来た。
「体調大丈夫?」と返したら、「うん。で、GPS共有の件、考えてくれた?」
また、きた。喉の奥がつっかえるような感覚があった。
「ごめん、やっぱり私はやりたくない」
「……わかった。じゃあせめて、出かける時は行き先教えて」
「教えて」じゃなくて「教えろ」に聞こえた。文字なのに、声のトーンが浮かんだ。
友達に話して、目が覚めた
次の週、大学時代の友達と渋谷のカフェで会った。何気なく「彼氏にGPS共有求められてさ」と言ったら、友達の表情が固まった。
「それ、やばいやつじゃない?」
「え、そう?心配性なだけかなって」
「2週間でGPSはやばいよ。私の元カレがそうだった。最初はGPS。次は友達との予定を全部報告。その次はSNSのフォロワーチェック。エスカレートするんだよ」
コーヒーカップを持つ手が、微かに震えた。
友達は続けた。「最初は『心配だから』って言うの。で、断ると不機嫌になる。それって、あなたのためじゃなくて、自分の不安を解消したいだけなんだよ」
別れるまでの3日間
その夜、彼に電話した。
「ちょっと話したいことがあるんだけど」
「なに?」
「GPS共有もそうだけど、最近ちょっと……束縛っぽく感じることがあって」
沈黙。5秒。10秒。
「束縛? 俺が? 心配してるだけなのに、束縛って言われるんだ」
声のトーンが低くなっていた。背筋がぞわっとした。
「心配してくれてるのはわかる。でも、私にはきつい」
「じゃあどうすればいいの。俺が何もしなければいいの」
話し合いにならなかった。彼は「心配」と「束縛」の境界線が見えていなかった。私が何を言っても「心配してるだけ」に変換された。
3日後、LINEで別れを伝えた。電話だと丸め込まれそうだった。「ごめんなさい、これ以上は難しい」と送ったら、「は? 直接言えよ」と返ってきた。そのあと10件くらい着信があった。全部出なかった。手が震えていた。翌朝、ブロックした。
今振り返って思う、前兆のこと
付き合う前のやりとりに、前兆はあった。
返信が遅いと「忙しかった?」とすぐ聞いてきたこと。「男友達多いの?」と何気なく探りを入れてきたこと。付き合う前の段階で「俺以外の男と会わないでほしい」と冗談っぽく言ったこと。
どれも一つ一つは「気にしすぎかな」で流せる。でも全部つなげると、線になる。
束縛する人は、最初から束縛しない。最初は「優しい人」として現れる。距離が近づいてから、少しずつ要求が増える。断ったときの反応が、その人の本質だった。
断ったときの反応を見ろ
「No」と言ったときに不機嫌になる人は、「Yes」しか受け入れない人だ。それは優しさじゃない。
私は2週間で気づけた。友達の元カレは8ヶ月かかったと言っていた。早く気づけたのは運がよかった。
あの日のドトールのアイスラテの味を、まだ覚えている。冷たかった。指先も、コップの中身も。
好きだから許せることと、好きでも許してはいけないことは、まったく別の話だった。
この記事を書いた人
27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。