会ったら全然違った。帰りたかったけど、2時間座っていた理由
Tinderで会った人は写真と全然違った。帰りたい。でも帰れなかった。渋谷のカフェで2時間。帰れなかった心理と、「写真詐欺」の向こう側にあった意外な気づきの話。
写真と別人だった。帰りたかった。でも2時間座った。
Tinderで会った人の実物は、プロフィール写真と全く違った。横顔で、逆光で、髪がさらっと流れていた写真。渋谷のカフェで実物を見た瞬間、胃のあたりがすっと冷えた。
最初の30秒
席に座っている彼を見つけたとき、一瞬「人違いかな」と思った。彼が手を上げて、名前を呼んだ。合ってた。胃のあたりがすっと冷えて、足が止まりかけた。
「あ、どうも」と言いながら向かいの席に座った。笑顔を作ったけど、頬の筋肉がひきつっているのが自分でわかった。
写真では細身に見えた体型は、実際にはかなりがっちりしていた。髪型も違った。写真は2年くらい前のものだったんだと思う。顔のパーツは同じなんだけど、全体の印象が違う。照明と角度と加工で、人間の印象はここまで変わるのか。
メニューを開いた。文字が頭に入ってこなかった。「カフェラテで」と適当に言った。
帰りたかった。でも帰れなかった
正直に言う。最初の5分で帰りたかった。
でも帰れなかった。なぜか。
席に座ってしまったから。注文してしまったから。相手が「今日はありがとうございます」と笑顔で言ったから。目の前で笑っている人に「すみません、帰ります」と言う勇気が、なかった。
これが「帰れない心理」の正体だと思う。写真と違うことへの怒りより、「目の前の人を傷つけたくない」が勝ってしまう。自分の気持ちより、相手のメンツを優先してしまう。それが優しさなのか弱さなのか、今でもわからない。
スマホをテーブルの下で握りしめていた。友達にLINEで「助けて、写真と全然違う」と打とうとして、やめた。打ったところでどうにもならない。2時間。2時間だけ。そう自分に言い聞かせた。
2時間で何を話したか
不思議なことが起きた。
30分を過ぎたあたりから、「写真と違う」という事実が、頭の端に移動し始めた。彼が話す内容が、意外と面白かったからだ。
IT系のエンジニアで、仕事の話をするときの目が生き生きしていた。「最近ハマっていること」を聞いたら、「サウナです」と即答して、蒲田にあるお気に入りのサウナについて5分くらい語った。語り方が早口になって、手が動いて、さっきまでの緊張が嘘みたいに消えていた。
「すみません、サウナの話になると止まらなくて」と照れ笑いしたとき、少しだけかわいいと思った。本当に少しだけ。
彼が旅行の話をしたとき、尾道に一人で行った話をしてくれた。「坂の途中に猫がいて、ずっとついてきて。振り返ったら5匹くらいに増えてて」と言って笑った。その笑い方が自然で、声がよかった。低くて、ちょっとかすれていて。
1時間を過ぎた頃、カフェラテをおかわりした。帰りたいと思っていたはずなのに、おかわりしていた。
「写真詐欺」をどう考えるか
帰り道、渋谷駅に向かって歩きながら考えた。
彼は「写真詐欺」だったのか。客観的に見れば、そうだ。2年前の写真を使い、角度と照明で実物より良く見せていた。
でも、考えてみれば私も同じことをしている。プロフィール写真はスノーで撮ったものを使っているし、実物より目が大きく映っている。加工の度合いが違うだけで、やっていることは同じだ。
「盛る」のは、誰でもやる。就活の履歴書だって盛る。自分を良く見せたい気持ちを、嘘だと断罪するのは簡単だ。でもそれを言い始めたら、マッチングアプリという仕組み自体が成り立たない。
問題は「盛り」の程度だった。少しの加工は許容範囲。でも「別人に見える」レベルは、相手の時間を奪っている。渋谷のカフェまで来て、座って、2時間を使った。その時間は返ってこない。
だから私は今、プロフィール写真を「実物と会ったときに、がっかりされないレベル」に変えた。少しだけ盛る。でも別人にはしない。あの2時間の経験が、その基準を作った。
彼からのLINE
翌日、彼からLINEが来た。「昨日はありがとうございました。すごく楽しかったです」。
返信を打つ手が止まった。楽しかった。それは嘘じゃない。後半は確かに楽しかった。でも「また会いたい」かと聞かれたら、答えはノーだった。
「こちらこそありがとうございました」とだけ返した。それ以上は書かなかった。彼からの返信は来なかった。たぶん、察したんだと思う。
2時間座っていてよかったのかどうか、今でもわからない。5分で帰っていれば、時間は節約できた。でも後半の1時間で聞いた尾道の猫の話は、少しだけ心に残っている。
写真と違ったことは事実だ。でも「写真と違う人」の中にも、声の良さとか、サウナへの情熱とか、猫に囲まれる話の仕方とか、写真には映らないものがあった。
写真で判断して、実物で裏切られて、でも会話で少し取り戻す。あの2時間は、そういう時間だった。
最悪の2時間なのに、帰り道に少し笑っていた。
この記事を書いた人
27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。