「どこで出会ったの?」と聞かれるたびに、私たちは目を合わせた
Tinderで出会った彼を友達に紹介するとき、「共通の友達の紹介で」と嘘をついた。3回目に聞かれた時、彼が先に言った。「マッチングアプリ。Tinder」。空気が止まった2秒間の、その後の話。
「ねえ、彼氏どこで出会ったの?」
きっかけと背景
大学時代の友達4人での飲み会。渋谷のもつ鍋屋。湯気の向こうからミカが聞いてきた。心臓がぎゅっと縮まった。もつ鍋のスープがぐつぐつ鳴ってるのが、妙にうるさかった。
「え、あー……共通の友達の紹介、かな」
隣に座ってたタクミが、一瞬だけ私を見た。目が合って、すぐそらした。テーブルの下で彼の膝が私の膝に触れた。それが「嘘つくなよ」なのか「しょうがないよ」なのか、わからなかった。
「へー、誰の紹介?」
ミカ、深掘りしてくる。こういう時に限って。
「えっと、大学の……先輩? の、知り合い的な」
曖昧すぎる。自分でも思った。でもそれ以上は出てこなかった。ミカは「ふーん」と言って、もつを箸でつまんだ。信じてないだろうな。
Tinderでマッチしたのは4ヶ月前。3月の終わり、桜がちらほら咲き始めた頃。私から右スワイプした。プロフィール写真が高円寺の阿波おどりで撮ったやつで、浴衣姿で汗かいてて、なんかよかった。阿波おどりに参加する男の人って、ちょっと面白そうじゃないですか。自己紹介文に「高円寺在住。古着とクラフトビールと阿波おどり」って書いてあって、振り切ってる感じが好きだった。
やりとりは3日で「会いませんか」。早かった。でもTinderってそういうアプリだし、むしろだらだらメッセージするより会った方が早いと思ってた。
初デートは新宿のゴールデン街。路地裏の5席しかないバーで、マスターが「お二人、初めて?」って聞いてきた。「はい」って二人で同時に言って、顔を見合わせて笑った。ジントニックを飲んで、2軒目のワインバーで手を繋いで、3軒目の立ち飲み屋で酔っ払って、タクシーで帰った。帰りのタクシーで彼が窓の外を見ながら「また会いたい」って言った。その横顔と、新宿のネオンのコントラストが、写真みたいだった。
付き合うまでは早かった。2回目のデートで告白された。高円寺の居酒屋で焼き鳥を食べながら。「好きです」とかじゃなくて、「付き合おう」。ストレート。Tinderらしいスピード感。
転機になった出来事
問題は、「Tinderで出会った」と人に言えるかどうか。
2026年。マッチングアプリで出会うことは珍しくない。統計では3組に1組がアプリ婚だって報道されてる。頭ではわかってる。でも、いざ「Tinderで」って口にしようとすると、喉のあたりで言葉が止まる。
Tinderって言った瞬間の、あの空気。「あー……」って反応。「ふーん」の中に含まれる微妙なニュアンス。考えすぎかもしれない。でも、考えてしまう。「遊び目的のアプリでしょ?」って顔をされるのが怖い。
タクミは最初から気にしてなかった。「別にアプリで出会ったって言えばいいじゃん」って、付き合って2週目に言われた。高円寺の自宅で鍋をつつきながら。「隠す方が変じゃない?」
——正論。でも、できない。
「だってTinderだよ? Pairsとかならまだしも」
「何が違うの?」
「いや、Tinderって……なんか、その、チャラいイメージあるじゃん」
「俺がチャラい?」
「……チャラくない。全然チャラくない」
彼は笑った。鍋の豆腐を崩しながら。
2回目に聞かれたのは、会社の同期との食事会。六本木のタイ料理屋。パクチーの匂いが充満してる中で。
「彼氏いるんだ! どこで出会ったの?」
「えっと……友達の紹介で」
帰り道、タクミに「また嘘ついた」とLINEした。「笑」って返ってきた。でもその「笑」が、いつもよりちょっと冷たく見えた。気のせいかもしれない。でも、彼は毎回私が馴れ初めを聞かれるたびに、この「笑」を送ってくる。笑ってるんじゃなくて、呆れてるんだろうな。
3回目は、私の両親と食事した時。丸の内のフレンチ。母が「タクミくんとは、どこで?」と聞いた瞬間、右手がテーブルクロスを掴んだ。
私が口を開こうとした瞬間、タクミが先に言った。
振り返って思うこと
「マッチングアプリです。Tinderっていう」
箸を持つ手が止まった。父が「ほう」と言った。母が「今はそういうのが普通なのねえ」と言った。タクミが「はい、僕から声をかけました」と笑った。堂々としていた。背筋が伸びていた。
——え、それで終わり?
空気は2秒だけ止まった。でも、そのあとは普通に食事が続いた。父がタクミに仕事の話を聞いて、母がデザートのクレームブリュレを勧めて、普通の食事だった。拍子抜けした。
帰りのタクシーで、タクミが言った。
「ごめん、勝手に言って」
「……ううん。ありがとう」
「隠してると、出会い自体を否定してる気がしてさ。俺たちの始まりはTinderだし。それでよくない?」
目の奥が熱くなった。泣きはしなかった。でも、喉の奥がきゅっとなった。彼の手が私の手を握った。タクシーの中が、あたたかかった。
あれから、馴れ初めを聞かれた時は「アプリで」と言うようになった。「Tinder」まで言うかは場面による。でも、嘘はやめた。
意外だったのは、正直に言った方が会話が盛り上がること。「どうやってマッチしたの?」「最初のメッセージ何て送ったの?」「阿波おどりの写真で右スワイプ!?」って、みんな興味津々で聞いてくる。隠してた時より、ずっと楽だった。嘘をつく時のあの胃がきゅっとなる感覚が、なくなった。
出会い方に貴賤なんてない。それは頭でわかっていた。でも、腹の底から実感できたのは、タクミが両親の前で堂々と言ってくれたあの瞬間だった。
馴れ初めは変えられない。でも、語り方は選べる。
よくある質問
マッチングアプリで出会ったことを友達にどう説明すればいいですか?↓
Tinderで出会ったと言うと引かれるものですか?↓
馴れ初めを聞かれた時にアプリと正直に言うべきですか?↓
この記事を書いた人
27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。