恋のアーカイブ
恋愛体験談エッセイTinder

LGBTでアプリを使うとき、最初にぶつかった壁

バイセクシュアルとしてTinderを使い始めた。プロフィールに書くか、書かないか。いつ伝えるか。最初にぶつかったのは、マッチングの壁じゃなくて、自分の中の壁だった。

25歳・女性の体験
·橘みあ·7分で読める

Tinderをダウンロードしたのは、25歳の冬だった。


渋谷のスクランブルスクエアのスタバで、アイスラテを飲みながらアプリを開いた。設定画面で「興味のある性別」を選ぶ欄があった。「男性」「女性」「すべて」。


指が止まった。


「すべて」を選べば、男性も女性も表示される。それが自分にとって一番正直な選択だった。でも、その「すべて」を押す指が、なぜか震えた。アイスラテのカップを持つ手も冷たくなっていた。氷のせいだけじゃないと思う。


プロフィールに「バイ」と書くか


設定は「すべて」にした。次にぶつかったのは、プロフィールの書き方だった。


Tinderのプロフィールには「セクシュアルオリエンテーション」を設定できる欄がある。「バイセクシュアル」を選べる。選べば、プロフィールに表示される。


表示するかしないか。それが最初の壁だった。


表示すれば、最初から理解のある人とだけマッチングできる。でも、「バイセクシュアル」という文字がプロフィールにあるだけで、偏見を持ってスワイプする人もいる。好奇心だけでマッチングしてくる人もいる。「バイって、結局どっちも好きなんでしょ?」と言われたことが過去にあって、その言葉が喉に刺さったまま取れていなかった。


表示しなければ、普通にマッチングできる。でも、いつかは伝えなきゃいけない。デートの最中に? LINEで? 付き合ってから? どのタイミングで言っても、「なんで早く言ってくれなかったの」と言われるリスクがある。


友達に相談したら、「別に言わなくていいんじゃない? 今好きな人が男なら男、女なら女でいいじゃん」と言われた。悪気はなかったと思う。でも、みぞおちのあたりがぎゅっと痛んだ。「言わなくていい」は「隠していい」とは違う。私は隠したくなかった。ただ、伝え方がわからなかっただけだ。


結局、プロフィールには表示しなかった。その代わり、自己紹介文に「いろんな人と話したいです」と書いた。ぼかした。ぼかした自分が、少し嫌だった。


女性とマッチングしたとき


最初に女性とマッチングしたのは、登録から5日目だった。


27歳、下北沢在住、古着が好きで映画も好きな人。プロフィール写真はライブハウスの前で撮ったもので、笑顔がまぶしかった。


マッチングした瞬間、心臓がバクバクした。男性とマッチングしたときとは明らかに違う緊張だった。「この人は、私が女性だと知っている」。その当たり前のことが、なぜか胸を締めつけた。


メッセージのやりとりは自然だった。好きな映画の話をした。彼女はウォン・カーウァイが好きで、私は岩井俊二が好きだった。「趣味合わないですね」と言ったら、「合わない方が面白くないですか?」と返ってきた。その一言で、肩の力が抜けた。


1週間やりとりして、下北沢のカレー屋で会った。彼女は写真よりも背が高くて、声が低くて、笑うと目が三日月になった。


2時間話した。セクシュアリティの話は、私からは出さなかった。出せなかった。


「聞いていい?」と言われた夜


2回目のデートは、三軒茶屋の居酒屋だった。


レモンサワーを2杯飲んだあたりで、彼女が少し声のトーンを落とした。


「ひとつ聞いていい?」


心臓がぎゅっと縮んだ。来た。来ると思っていた。背筋が硬くなった。


「Tinderの設定、どっちにしてる?」


私は一瞬、息を吸った。レモンサワーのグラスの水滴を指でなぞりながら、答えた。


「……すべて、にしてる」


彼女は少し黙った。その3秒が、永遠に長かった。居酒屋の喧騒が急に遠くなった。


「そっか」と彼女は言った。「私もなんだよね」


目の奥が熱くなった。泣きそうになったのは、受け入れられたからじゃなくて、同じ側にいる人がいたからだった。「すべて」を選んだあの冬の日の震えが、やっと溶けた気がした。


壁は相手じゃなくて、自分の中にあった


その後、彼女とは友達になった。恋愛にはならなかった。でも、あの三軒茶屋の夜がなかったら、私はまだプロフィールに書けないままだったと思う。


今はプロフィールに「バイセクシュアル」と表示している。それでスワイプされることもある。マッチング数は減った。でも、マッチングした人とのやりとりで「隠してる」という後ろめたさがなくなった。喉の奥のつかえが取れた。


LGBTでアプリを使うとき、最初にぶつかる壁は、アプリの機能でも、相手の偏見でもなかった。「自分をどこまで見せるか」という、自分の中の壁だった。


渋谷のスタバで「すべて」を押したあの指の震えは、恐怖じゃなくて覚悟だった。覚悟は、一度決めたら終わりじゃない。毎回、会うたびに、少しずつ積み重ねるものだった。


あの冬の夜、三軒茶屋の居酒屋を出て、世田谷線の踏切を待ちながら、手のひらの汗を拭いた。カンカンカンという音が、心臓の鼓動と重なった。


隠すことで守れるものと、見せることで得られるもの。天秤は最初から傾いていた。

よくある質問

マッチングアプリでセクシュアリティは公開した方がいいですか?
公開するとマッチング数は減る傾向がありますが、最初から理解のある人と出会えるメリットがあります。非公開にするとマッチングの幅は広がりますが、いつ伝えるかというタイミングの問題が発生します。どちらが正解というわけではなく、自分が楽に呼吸できる方を選ぶのがいいです。
バイセクシュアルであることを伝えるタイミングはいつですか?
プロフィールに書く、初回デートで伝える、関係が深まってから伝えるなど、タイミングは人それぞれです。ただ、隠し続けることでストレスが溜まるなら早めに伝える方が精神的に楽です。相手の反応がどうであれ、伝えた後の自分の気持ちの軽さを基準にすると判断しやすいです。
LGBTフレンドリーなマッチングアプリはどれですか?
Tinderは性別・セクシュアリティの設定が細かく、同性マッチングにも対応しています。Bumbleも同様に対応しており、女性から先にメッセージを送る仕組みがあるため女性同士のマッチングでも使いやすいです。国内アプリはまだ対応が限定的なものが多いのが現状です。

この記事を書いた人

橘みあマッチングアプリ体験談ライター

27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。

#LGBT#バイセクシュアル#Tinder#体験談#セクシュアリティ

この記事が刺さったら、シェアしてください

あなたへのおすすめ

LGBT」に興味があるあなたへ

会う前にホテルを提案された。断った後のLINE全部見せる
恋愛体験談

会う前にホテルを提案された。断った後のLINE全部見せる

Tinderで会う前に「ホテル行かない?」と言われた24歳の体験談。断ったあとの相手の反応、LINEの全文、そしてその後どう対処したか。同じ目に遭った人に届けたい、リアルな記録。

女性Tinder|24歳
5
「どこで出会ったの?」と聞かれるたびに、私たちは目を合わせた
恋愛体験談

「どこで出会ったの?」と聞かれるたびに、私たちは目を合わせた

Tinderで出会った彼を友達に紹介するとき、「共通の友達の紹介で」と嘘をついた。3回目に聞かれた時、彼が先に言った。「マッチングアプリ。Tinder」。空気が止まった2秒間の、その後の話。

女性Tinder|27歳
7
会ったら全然違った。帰りたかったけど、2時間座っていた理由
恋愛体験談

会ったら全然違った。帰りたかったけど、2時間座っていた理由

Tinderで会った人は写真と全然違った。帰りたい。でも帰れなかった。渋谷のカフェで2時間。帰れなかった心理と、「写真詐欺」の向こう側にあった意外な気づきの話。

Tinder
4
付き合って2週間でGPS共有を求められた話
恋愛体験談

付き合って2週間でGPS共有を求められた話

Tinderで出会った彼は、最初の1週間は完璧だった。2週間目の夜、「位置情報共有しない?」と言われた瞬間、指先が冷たくなった。断ったら態度が変わった。束縛がエスカレートする前兆を振り返る。

Tinder
6
Tinderで会った3人目の男が、待ち合わせ場所を急に変えてきた。あの夜の話をする
恋愛体験談

Tinderで会った3人目の男が、待ち合わせ場所を急に変えてきた。あの夜の話をする

Tinderで1人目は普通だった。2人目も普通だった。3人目が「やっぱり駅前じゃなくて、俺の車で迎えに行くよ」と言ってきた瞬間、背筋が凍った。25歳女性のTinderリアル体験談と、怖い思いから学んだ安全ルール。

女性Tinder|25
8
Tinderで真剣な出会いを探した男の話。遊び目的と思われながら4ヶ月続けた
恋愛体験談

Tinderで真剣な出会いを探した男の話。遊び目的と思われながら4ヶ月続けた

「Tinderで真剣はウケる」と笑われた27歳男。4ヶ月で20人に会い、5人が本気だった。バイオを変えた日から、届くメッセージの質が変わった話。「Tinderで彼女探す」って言ったら、爆笑された。

男性Tinder|27
5

恋愛体験談」はまだ 263 本あります

次の記事

地方在住で遠距離スタート。会うたびに交通費が痛かった