LGBTでアプリを使うとき、最初にぶつかった壁
バイセクシュアルとしてTinderを使い始めた。プロフィールに書くか、書かないか。いつ伝えるか。最初にぶつかったのは、マッチングの壁じゃなくて、自分の中の壁だった。
Tinderをダウンロードしたのは、25歳の冬だった。
渋谷のスクランブルスクエアのスタバで、アイスラテを飲みながらアプリを開いた。設定画面で「興味のある性別」を選ぶ欄があった。「男性」「女性」「すべて」。
指が止まった。
「すべて」を選べば、男性も女性も表示される。それが自分にとって一番正直な選択だった。でも、その「すべて」を押す指が、なぜか震えた。アイスラテのカップを持つ手も冷たくなっていた。氷のせいだけじゃないと思う。
プロフィールに「バイ」と書くか
設定は「すべて」にした。次にぶつかったのは、プロフィールの書き方だった。
Tinderのプロフィールには「セクシュアルオリエンテーション」を設定できる欄がある。「バイセクシュアル」を選べる。選べば、プロフィールに表示される。
表示するかしないか。それが最初の壁だった。
表示すれば、最初から理解のある人とだけマッチングできる。でも、「バイセクシュアル」という文字がプロフィールにあるだけで、偏見を持ってスワイプする人もいる。好奇心だけでマッチングしてくる人もいる。「バイって、結局どっちも好きなんでしょ?」と言われたことが過去にあって、その言葉が喉に刺さったまま取れていなかった。
表示しなければ、普通にマッチングできる。でも、いつかは伝えなきゃいけない。デートの最中に? LINEで? 付き合ってから? どのタイミングで言っても、「なんで早く言ってくれなかったの」と言われるリスクがある。
友達に相談したら、「別に言わなくていいんじゃない? 今好きな人が男なら男、女なら女でいいじゃん」と言われた。悪気はなかったと思う。でも、みぞおちのあたりがぎゅっと痛んだ。「言わなくていい」は「隠していい」とは違う。私は隠したくなかった。ただ、伝え方がわからなかっただけだ。
結局、プロフィールには表示しなかった。その代わり、自己紹介文に「いろんな人と話したいです」と書いた。ぼかした。ぼかした自分が、少し嫌だった。
女性とマッチングしたとき
最初に女性とマッチングしたのは、登録から5日目だった。
27歳、下北沢在住、古着が好きで映画も好きな人。プロフィール写真はライブハウスの前で撮ったもので、笑顔がまぶしかった。
マッチングした瞬間、心臓がバクバクした。男性とマッチングしたときとは明らかに違う緊張だった。「この人は、私が女性だと知っている」。その当たり前のことが、なぜか胸を締めつけた。
メッセージのやりとりは自然だった。好きな映画の話をした。彼女はウォン・カーウァイが好きで、私は岩井俊二が好きだった。「趣味合わないですね」と言ったら、「合わない方が面白くないですか?」と返ってきた。その一言で、肩の力が抜けた。
1週間やりとりして、下北沢のカレー屋で会った。彼女は写真よりも背が高くて、声が低くて、笑うと目が三日月になった。
2時間話した。セクシュアリティの話は、私からは出さなかった。出せなかった。
「聞いていい?」と言われた夜
2回目のデートは、三軒茶屋の居酒屋だった。
レモンサワーを2杯飲んだあたりで、彼女が少し声のトーンを落とした。
「ひとつ聞いていい?」
心臓がぎゅっと縮んだ。来た。来ると思っていた。背筋が硬くなった。
「Tinderの設定、どっちにしてる?」
私は一瞬、息を吸った。レモンサワーのグラスの水滴を指でなぞりながら、答えた。
「……すべて、にしてる」
彼女は少し黙った。その3秒が、永遠に長かった。居酒屋の喧騒が急に遠くなった。
「そっか」と彼女は言った。「私もなんだよね」
目の奥が熱くなった。泣きそうになったのは、受け入れられたからじゃなくて、同じ側にいる人がいたからだった。「すべて」を選んだあの冬の日の震えが、やっと溶けた気がした。
壁は相手じゃなくて、自分の中にあった
その後、彼女とは友達になった。恋愛にはならなかった。でも、あの三軒茶屋の夜がなかったら、私はまだプロフィールに書けないままだったと思う。
今はプロフィールに「バイセクシュアル」と表示している。それでスワイプされることもある。マッチング数は減った。でも、マッチングした人とのやりとりで「隠してる」という後ろめたさがなくなった。喉の奥のつかえが取れた。
LGBTでアプリを使うとき、最初にぶつかる壁は、アプリの機能でも、相手の偏見でもなかった。「自分をどこまで見せるか」という、自分の中の壁だった。
渋谷のスタバで「すべて」を押したあの指の震えは、恐怖じゃなくて覚悟だった。覚悟は、一度決めたら終わりじゃない。毎回、会うたびに、少しずつ積み重ねるものだった。
あの冬の夜、三軒茶屋の居酒屋を出て、世田谷線の踏切を待ちながら、手のひらの汗を拭いた。カンカンカンという音が、心臓の鼓動と重なった。
隠すことで守れるものと、見せることで得られるもの。天秤は最初から傾いていた。
よくある質問
マッチングアプリでセクシュアリティは公開した方がいいですか?↓
バイセクシュアルであることを伝えるタイミングはいつですか?↓
LGBTフレンドリーなマッチングアプリはどれですか?↓
この記事を書いた人
27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。