マッチングアプリをやめた日、私は久しぶりに空を見上げた
Pairs、Tapple、with。3つのアプリを同時に回して、毎晩スワイプして、気づいたら1年。指は動くのに心が動かなくなった日、全部アンインストールした。あの判断は正しかった。
日曜の朝、ベッドの中でPairsを開いた。スワイプ。左。左。右。左。左。左。右。
失敗から見えたこと
顔も名前もプロフィールも、ほとんど見ていなかった。親指だけが勝手に動いている。「いいね」を押した相手が誰だったか、30秒後にはもう思い出せない。
——これ、何やってんだろう。
三軒茶屋のワンルーム。窓の外は晴れてるのに、カーテンを開ける気力もなくて、スマホの光だけが顔を照らしている朝。枕元に昨日のコンビニの袋が転がっていて、ペットボトルのお茶が半分残ってた。それが、私のアプリ生活の末期だった。
1年前、26歳の夏にマッチングアプリを始めた。最初はワクワクしてた。「いいね」が来るたびにドキドキして、マッチングするたびにニヤニヤして、初デートの前は服を3回着替えた。クローゼットの前で1時間悩んで、結局いつものユニクロのワンピースに落ち着く。あの緊張が楽しかった。
半年で20人とマッチして、8人と会って、2人と付き合って、2人と別れた。数字だけ見ると「行動力ある」って思うかもしれない。でも中身は、ボロボロだった。毎回のデートが面接みたいだった。自己紹介して、仕事の話して、趣味の話して、「楽しかったです」って言って帰る。テンプレ。
今振り返ると、「やめるべきサイン」は5つあった。
【サイン1】スワイプが作業になった。
最初の頃は一人ひとりのプロフィールを読んでいた。趣味、仕事、自己紹介文。「この人、映画好きなんだ」「この写真、湘南かな」って想像しながら。でもいつからか、写真だけ見て0.5秒で判断するようになった。顔。左。顔。左。顔。右。人を0.5秒で振り分ける自分が、ちょっと怖くなった。回転寿司のレーンを眺めてるみたいだった。
変えたこと・試したこと
【サイン2】「いいね」の数で自分の価値を測り始めた。
月曜の朝、通勤電車でPairsを開いて「いいね」の数を確認するのが習慣になった。先週より少ないと不安になる。多いとちょっと安心する。でもその安心は1時間も持たない。Tappleの通知が来ないだけで「自分に魅力がないのかも」って思い始めた時、胃がきりきり痛んだ。数字に自分を委ねるのは、株価を毎分チェックするのと同じだ。上がっても下がっても疲れる。
【サイン3】デートが楽しくなくなった。
表参道のカフェ。向かい合って座って、自己紹介して、仕事の話して、趣味の話して、「楽しかったです、また会えたら」って言って帰る。このテンプレが何回目かわからなくなった時、カフェラテの味がしなくなった。目の前の人に興味が持てないんじゃなくて、「初対面の人に興味を持つ」という行為自体に疲弊していた。6人目のデートの途中で、5人目の人の名前を言いかけた時は、さすがにまずいと思った。
【サイン4】他のアプリに手を出し始めた。
Pairsで出会えないからTapple。Tappleでうまくいかないからwith。withがダメならOmiai。アプリを変えれば何か変わると思っていた。新しいアプリをインストールする時のワクワク感がドーパミンの代わりになっていた。でも変わらなかった。画面のデザインが変わるだけで、やってることは同じ。変えるべきはアプリじゃなくて、自分のコンディションだった。
【サイン5】友達との会話がアプリの愚痴だけになった。
「またブロックされた」「なんかいい人いない」「もう無理かも」。吉祥寺のカフェで会った親友のサキに「最近アプリの話しかしてないよ」って言われた。心臓をつかまれた気がした。自分の世界がアプリの中だけに縮まっていたことに、その一言で気づいた。以前は映画の話とか、仕事の話とか、くだらない話とか、いろんな話をしていたのに。
「やめた方がいいのかな」
「やめた方がいいよ」
サキは即答した。ハーブティーのカップを置いて、私の目をまっすぐ見て。
今だから言えること
全部アンインストールしたのは、12月の土曜日。3つのアプリを長押しして、ぶるぶる震えるアイコンを見ながら、順番に消した。Pairs、Tapple、with。指が少し震えた。1年間の「いいね」も、マッチングも、やりとりも、全部消える。その重みが指先に伝わった。
消した瞬間は、喪失感があった。「もう出会いがなくなる」って焦り。でも翌朝、スマホを見て通知が何もない画面を見た時、胸のあたりが軽くなった。日曜の朝にベッドでスワイプしなくていい。その解放感は、想像以上だった。
アプリをやめて3ヶ月。変わったことがいくつかある。
まず、夜に本を読むようになった。スワイプに使っていた時間が空いて、積読を消化し始めた。村上春樹の『ノルウェイの森』を5年ぶりに読み返した。昔は理解できなかった直子の気持ちが、少しわかった気がした。あと、休日に外に出るようになった。下北沢の古着屋を巡ったり、代々木公園を走ったり、スマホを見ないで過ごす時間が増えた。駒沢公園のベンチで本を読んでいたら、隣のベンチにいたおじいさんが「いい天気だねえ」って話しかけてきて、30分くらい世間話をした。アプリでは出会えない種類の出会い。
そして何より、自分の価値を「いいね」の数で測らなくなった。それが一番大きかった。鏡を見て「今日の自分、悪くないな」って思えるようになった。その感覚は、アプリの「いいね」100個分より価値がある。
あと、友達との会話が元に戻った。アプリの愚痴じゃなくて、仕事の話、映画の話、どうでもいい話。サキと吉祥寺のカフェで3時間話した時、アプリの話は一度も出なかった。帰り道、「今日めっちゃ楽しかった」ってLINEしたら、「やめてよかったじゃん」って返ってきた。泣きそうになった。嬉し泣きだった。
料理も再開した。アプリを使ってた時は、スワイプしながらカップ麺をすする夜が多かった。今はちゃんとキッチンに立つ。肉じゃがを煮込みながら本を読む時間が、この上なく贅沢。
「やめどきがわからない」って言う人がいる。わかる。私も1年間わからなかった。でも今なら言える。「やめどきかな」って考えている時点で、もうやめどき。
アプリを消した日、久しぶりにカーテンを開けて空を見た。冬の空は高くて、青くて、スワイプできなかった。
恋を探すのをやめた日が、自分を取り戻した日だった。
よくある質問
マッチングアプリをやめるべきタイミングはいつですか?↓
マッチングアプリをやめた後は出会いをどう探せばいいですか?↓
複数のマッチングアプリを同時に使うのは逆効果ですか?↓
この記事を書いた人
27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。
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