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東京転勤の夜、後悔したくなかった「好きだから」を言った話

大阪から東京への転勤辞令が出た翌日、Pairsで2回しか会っていない人に「会えますか。好きだから」と送った。あの衝動的な正直さが、その後の全てを決めた。3週間後に東京に来ることが決まった日の、25歳の話。

27歳・女性の体験
·橘みあ·6分で読める

正直に言う。転勤が決まったのに、「好きだから」と言った。


上司に呼ばれて、「4月から東京の本社勤務になってもらう」と告げられた。椅子に座ったまま、しばらく何も言えなかった。窓から梅田のビル群が見えた。オフィスを出て、御堂筋の銀杏並木を歩いていたら、3月の夕陽が街路樹を赤く染めていた。銀杏の枯れた葉が風で舞い上がって、靴の先に貼りついた。3週間後には、この道を歩かなくなる。


東京。4月。約3週間後。


スマホを開いたら、Pairsの通知があった。コウヘイから。「今週末、また会えますか」というメッセージ。


2回しか会っていない人だった。1回目は梅田のカフェ、2回目は北浜の川沿いのバーで、「おいしい」と言いながら二人でポルトガルのオレンジワインを飲んだ。Pairsで出会って、話が合って、また会いたいと思った。でも「また会いたい」の先がどこに行くかは、まだ何も決まっていなかった。彼のことを「好き」なのかどうかも、まだ確信がなかった。ただ一緒にいると気持ちが少し楽になる、という感覚だけが、2回のデートの積み重ねにあった。


東京に行く前に、言おうと思った。


御堂筋の衝動


考えた時間は10秒もなかった。衝動に近かった。3週間後には大阪を去る。そのまま何も言わずに東京に行ったら、コウヘイとのやりとりはそのまま自然消滅する。「実は転勤で」という言い訳めいたLINEを送って、「そうなんですね、お仕事頑張ってください」という返信が来て、それで終わる。そういう終わり方が一番楽で、一番嫌だった。


「転勤が決まりました。4月から東京です。その前に一回会えますか。好きだから、ちゃんと話したくて」


送った。御堂筋の真ん中で立ち止まって、通行人が脇を追い抜いていく中で、送った。送信ボタンを押した後、スマホを胸に押しつけて、銀杏の木を見上げた。枝だけになった梢が、夕空に黒く浮かんでいた。


既読がついたのは20分後。彼は仕事中だったはずだ。


「え。急すぎる。いつ決まったんですか」


「今日の夕方」


「それで今日連絡してきたんですか」


「うん。会いたかった」


少し間があった。5分くらい。その5分間、スマホを見たり手を見たり、難波のネオンがちらつく帰り道を歩いたりした。


「今週末、会いましょう。土曜の夜、空いてます」


南堀江の赤ワイン


土曜日、南堀江のワインバーで会った。堀江のおしゃれな通りに面した店で、彼が先に来ていた。テーブルにワインが2杯並んでいた。赤。彼が私のことを覚えていてくれた、ということだ。2回目のデートで「赤ワインの方が好きです」と言ったのを。


「4月いつ?」


「4月5日に引っ越し」


「3週間か」


「うん」


「好き、って言ってくれましたね」


「言いました」


「遠距離になるのに、言ってくれたんですね」


「言わなかったら後悔すると思ったから」


彼がワインを一口飲んで、グラスを置いて、「俺も好きです」と言った。テーブルクロスを見たまま言った。顔が少し赤かった。梅田のビルから差し込む夜の光が横顔に当たっていた。窓の向こうで、南堀江の路地の照明がゆらゆらしていた。


「東京行っても会えますか」


「行きます」と彼が言った。「月に一回は絶対行く」


「大阪から東京って」


「新幹線で2時間半だから。全然行ける」


「……本当に」


「本当に」


奥歯を噛んだ。ワインのグラスを両手で包んで、液体の揺れを見ながら、なんか変なところで泣きそうになっていた。3週間前まで知らなかった人が、月に一度新幹線で会いに来ると言っている。


ワインバーを出た後、堀江の路地を少し歩いた。南堀江の夜は静かで、どこかのカフェの照明が路上まで光を落としていた。空気が冷たかった。彼がそっとコートの上から腕を取った。手を繋いだわけじゃない、腕を軽く取っただけ。でも体温が伝わった。3週間後にはここにいない、という感覚が、唐突に腹の底に落ちてきた。


「東京でも、赤ワイン飲みに行きましょう」と彼が言った。「行こう」と返した。「いい店知ってる?」「知らないけど探す」「一緒に探そう」「うん」。


近くにいたかったから


4月から遠距離になって、彼は約束通り月に一度、新幹線で東京に来た。私も2ヶ月に一回、大阪に帰った。土曜の午後に新大阪で降りて、中崎町で昼ごはんを食べて、また難波のバーで飲んで、日曜の夕方に東京に戻る。その繰り返し。


半年後に彼も東京に転職した。理由は「近くにいたかったから」だった。転職活動をしていたことを、私は一切知らなかった。「近くにいたかった」と言われた夜、中目黒のファミレスでコーヒーを飲みながら、喉の奥になんかつかえた感じがして、うまく喋れなかった。


「好きだから」の一言が、全部動かした。言わなかったら、4月の引っ越しの日、何も持たずに御堂筋を歩いていたと思う。銀杏並木の下を、一人で。


準備ができてからじゃないのに、「今しかない」だった。

よくある質問

大阪から東京への転勤が決まったのはいつで、まだ何回しか会っていなかったのですか?
辞令が出た木曜日の夕方、Pairsで出会ったコウヘイさんとはまだ2回しかデートしていませんでした。3週間後には大阪を離れることが決まっていました。
「好きだから」と伝える前のデートはどこでしたか?
1回目は梅田のカフェ、2回目は北浜の川沿いのバーでした。辞令が出た次の日、まだ2回しかデートしていない相手に「会えますか。好きだから」と全部話したと書かれています。

この記事を書いた人

橘みあマッチングアプリ体験談ライター

27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。

このテーマを読む:遠距離恋愛体験談

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