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初デートの帰り際、私から番号を聞いた。「自然な流れ」を待つのをやめた日

代官山のカフェ、2時間半。帰り際の沈黙に、私は待つのをやめた。「番号教えてもらえますか」——たった10文字が、次の展開を自分の手に引き寄せた日のこと。

24歳・女性の体験
·橘みあ·4分で読める

木曜日の午後、代官山。


目黒通り沿いのカフェのカウンター席で、アイスコーヒーの水滴がゆっくりコースターに染みていくのを、視界の端で見ていた。窓の外を走る車の音と、店内に流れるThe xx。平日の昼過ぎだから客が少なくて、声が少し響く。私は在宅勤務の合間に抜け出してきて、彼は午後半休を取ってきたと言った。そのことを「大げさだったかな」と笑いながら言った顔が、ちょっと良かった。


Tappleで出会ったマサキ、27歳、広告代理店勤務。プロフィール写真より実物のほうが、少しだけ余裕がない感じがして、そのギャップが悪くなかった。


食の趣味が近くて、自炊の話になって、映画の話になった。彼がミッドサマーを「なんか好き、うまく言えないけど」と言ったとき、胸の中で何かが反応した。「わかる、好きな人あまりいない」と言ったら、目が輝いた。その目が良かった。アリ・アスターの話だけで20分経って、気づいたら2時間半が終わっていた。


「そろそろ出ますか」と彼が言って、私たちは席を立った。


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代官山の駅に向かって歩いていた。10月の終わり、夕方手前の空気が少し冷えていて、でも上着が要るほどでもない、あの中途半端な温度。並んで歩くと彼の方が半歩前に出て、でも私が遅くなると合わせてくれた。お互いの足が自然に遅くなっていく、あの感じ。急ぎたくない気持ちと、引き止める言葉が見つからない気持ちが、胸のあたりに同時にあった。


「今日楽しかった」

「私も」


そのやりとりが終わって、また少し沈黙が来た。


沈黙の中で、私はいつもの自分を感じていた。次の言葉を待つ自分。向こうが何か言うのを待って、それに合わせる自分。「じゃあLINE交換しましょうか」と彼が言い出すのを、自然な流れのふりをしながら待つ自分。


今日もそうなるかもしれない、と思った。


でも足が、止まった。


「番号教えてもらえますか」


聞いた。


語尾に「笑」も「よかったら」もつけなかった。声が思ったより落ち着いていた。言ったあとに胸がどきどきした、という順番で。


彼が「あ、はい!」と言って、スマホを取り出した。反応が早かった。電話番号を教えてくれて、私が電話したら彼の画面にも着信が入った。「登録しました」「私も」。手がほんの少し、震えていた気がする。気のせいかもしれない。


「どうして番号? LINEじゃなくて」と彼が聞いた。笑いながら。


「番号を知ってると電話できるから。LINEを知ってても、友達になってからじゃないと通話できないじゃないですか」


「電話する気だったの」


「するかもしれないなと思って」


「面白い」と彼が笑った。


その笑顔を見ながら、私は少し混乱していた。良かった、という気持ちと、これで合ってたのかな、という気持ちが、まだ両方あった。積極的すぎたかもしれない、という声も、頭の端っこにあった。でも言ってしまったし、後悔はなかった。後悔がないのに落ち着かない、その矛盾したままで、私たちは改札の前で別れた。


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帰りの東横線の中で、ずっと窓の外を見ていた。中目黒、祐天寺、学芸大学、と駅が流れていく。スマホを開いて、彼の番号が登録されているのを確認した。「マサキ」という名前が、ちゃんとそこにあった。


番号を聞いたのは、待ちたくなかったから。それだけだった。次の連絡が向こうから来るのを待つより、自分から動けるほうがいい。連絡先を持っていれば、自分から送れる。電話できる。次に会いたいと思ったとき、その気持ちを自分で動かせる。


「自然な流れ」という言葉に、ずっと少し騙されていた気がした。


自然に起きることを待つのは楽だ。何もしなくていい。でも主導権は相手にある。何かが起きるかどうかも、いつ起きるかも、相手次第になる。うまくいかなかったときに「流れがなかったから」と思えるぶん、傷も浅い。でもその代わり、何かを自分で始めることも、できない。


私はたぶん、その「傷が浅い」側に長くいすぎた。


「番号教えてもらえますか」はたった10文字だ。10文字を言うことで、次の展開が自分の手に少し来る。全部じゃない。断られることもある。でも少なくとも、言わないよりずっと、自分がそこにいられる。


渋谷で乗り換えて、電車が地上に出たとき、外がもう夕焼け色になっていた。オレンジと紫が混ざった空。スマホを閉じた。


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翌週、私から電話した。


2回目のデートの日程を決めるとき。LINEでもよかったけど、電話すると言ったから電話した。呼び出し音が3回鳴って、彼が出た。


「電話してきた」と彼が少し驚いた声で言った。


「する気だって言ったじゃないですか」


電話の向こうで笑う声がした。


今も付き合っている。


あの日の10文字がなかったら、と考えることがある。たぶん彼が「LINE交換しましょうか」と言って、私が「あ、はい」と言って、それで終わったかもしれない。それでも今と同じになっていたかもしれない。わからない。でも私は、あの沈黙の中で自分が動いたことを、今もちゃんと覚えている。足が止まった瞬間を、覚えている。


自然な流れは待つものじゃなくて、作るものだった。


自分で動いた恋愛は、うまくいってもいかなくても、どこか自分のものになる。

この記事を書いた人

橘みあマッチングアプリ体験談ライター

27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。

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