恋のアーカイブ
恋愛体験談Tapple

4駅乗り過ごして、それでも待っていてくれた

初デートの待ち合わせに遅刻した。しかも間違えた駅に降りて、汗だくで18分後に到着した私を、彼女は黙って待っていた。その時の第一声が忘れられない。

27歳・男性の体験
·橘みあ·5分で読める

三軒茶屋で待ち合わせ、のはずだった。


田園都市線に乗った。渋谷から急行で3駅だっけ、と思いながらスマホでマップを確認しようとして、バッテリーが15%だと気づいた。省エネモードにしてしまったら地図アプリが重くなって、そのうち読み込みもできなくなった。電車は快走していた。渋谷を出て、池尻大橋を過ぎて、三軒茶屋の次、駒澤大学、次はどこだ、と思いながら窓の外を見ていたら、知らない感じの景色になっていた。住宅街の夕暮れ。6月の夕方、日が長い分だけ明るかった。


「あれ」


声に出てしまった。降りたのは用賀だった。


(やばい。全然違う)


喉の奥が急激に乾いた。改札を出て時計を見たら、待ち合わせまであと4分。用賀から三軒茶屋まで急行で戻っても絶対間に合わない。バッテリーは12%。汗が出てきた。6月の梅雨の合間の日で、蒸し暑かった。スーツのシャツが背中に張りつく感じがした。


とりあえずLINEを開いた。


「すみません、電車を乗り間違えました。18分くらい遅れます」


送ってから既読がつくのをじっと見た。10秒後。


「わかりました、待ってます」


それだけだった。スタンプも「大丈夫ですよ〜」もなかった。「笑」もなかった。ただ「わかりました、待ってます」。その短さが逆に怖かった。怒ってるのかな、呆れてるのかな。それとも本当にただの事務連絡として返したのかな。


急行に飛び乗った。用賀のホームで待っていた2分間、自分でも笑えるくらい落ち着かなかった。電車が来るたびに「違う」「これも違う」とホームを行ったり来たりした。


三軒茶屋の改札を出たのは18分後。文字通り。走ってきたせいで、もう汗が止まらない状態で彼女を探した。


待ち合わせ場所に言っていた、駅前のドトールの前。


いた。


グレーのワンピースで、アイスコーヒーを手に持ったまま、スマホを見ていた。顔を上げて、私に気がついた。


駆け寄りながら「すみません、本当に——」と言いかけたら、


「汗、すごいですね」


と言われた。


え、と止まったら、彼女が笑った。


「怒ってないですよ。ただ事実として。笑」


力が抜けた。うまく言葉が出なくて、「……はい、めちゃくちゃ暑かったです」としか言えなかった。ありがとうございます、とか、すみません、とか言おうとしたのに、「めちゃくちゃ暑かったです」という言葉が出た。


「用賀ってどのくらい?」


「4駅くらい」


「走ってきた?」


「改札から駅前まで」


「笑 それは仕方ない」


ドトールに入って、水を頼んだ。彼女は何も責めなかった。「どうして乗り間違えたんですか」も聞かなかった。そこがかえって居心地悪かった。「遅刻してくる男」認定されたんじゃないかと頭の片隅でずっと考えながら、コーヒーを飲んだ。アイスコーヒーを頼んだのに、体が熱くて全然冷えなかった。


1時間後、会話が弾んで忘れかけてきた頃に、彼女がぽつりと言った。


「実は私も、10分前に着いて、近くのコンビニで時間つぶしてたから。笑」


「え、じゃあ最初から待ってたわけじゃ——」


「最初から待ってました。ちゃんと。コンビニも含めて」


セブンイレブンだったと言った。「何買ったんですか」と聞いたら「ガム」と言った。「緊張してたから」と続けた。


(緊張してたのか、彼女も)


人を待つことを、なんとも思わない人がいる。10分前から来て、コンビニでガムを買って、アイスコーヒーを持って、スマホを見ながら待っていた人。それが優しさなのか、鈍感なのか、あるいはもっと違う何かなのか、その日はわからなかった。


でもあの「汗、すごいですね」の一言が、3年経った今もたまに頭をよぎる。


怒るより、笑う方を選んだ人。18分待たされて、「汗すごい」と言って笑う方を選んだ人。


あれが彼女の、愛情の形だったんだと思う。

この記事を書いた人

橘みあマッチングアプリ体験談ライター

27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。

このテーマを読む:初デート体験談

この記事が刺さったら、シェアしてください

恋愛体験談」はまだ 185 本あります

恋愛体験談をすべて読む

次の記事

会う前に好きになった。あの8ヶ月を、なんと呼べばいい