笑ってごまかしていた私を、4回目のデートで初めて指摘された
緊張すると何でも笑ってしまう。初デートで面白くないことにも爆笑した。彼女は気づいていた。でも3回、何も言わなかった。4回目に、やっと言われた。
笑い癖がある。
緊張しているとき、特に。なんでもないことで笑ってしまう。会話が途切れたときとか、返答に困ったときとか、なんかやばいと思ったときとか。笑うことで場を乗り越えようとするくせがあった。子どもの頃からずっとそうだった。授業中に当てられて答えられなかったとき、笑いながら「わかりません」と言ったら先生に「何がおかしいの」と怒られた。おかしくなかった。ただ笑ってしまった。
Tappleで知り合って、初めて会ったのは吉祥寺のカフェだった。イノダコーヒーの支店。秋の土曜午後、店内は適度に人がいて、窓から井の頭通りが見えた。彼女はすでに席に着いていて、ハーブティーを両手で包んでいた。
テーブルに着いて5分後には、もう笑っていた。
「好きなスポーツとかありますか?」
「いや、全然運動しなくて——笑」
「笑 私も」
「なんか、しなきゃとは思うんですけど——笑」
「わかります笑」
メニューを選ぶときも笑ってた。「これとこれ、どっちにしよう——笑」。なんで笑うんだ、と自分でも思う。でも止められなかった。コーヒーが来て、「おいしいですね」と言いながら笑っていた。相手の話に笑ったとき、「え、そこ笑う?」という顔をされた気がした。でも何も言われなかった。
帰り道、吉祥寺のアトレの前で別れて、電車に乗った。正直、自分でも嫌だった。楽しかったのに、ずっと笑ってた。緊張してたのが全部バレてた。次がないかもな、と思いながら中央線に揺られた。
でもLINEが来た。「今日ありがとうございました。また会いたいです」。
2回目、3回目のデートも同じだった。吉祥寺の居酒屋、三軒茶屋のバー。緊張が解けてきたかな、と思う瞬間もあったけど、やっぱり節々で笑っていた。3回目のデートの帰り際、「また来週?」という話になったとき、「来週——笑——空いてます」と言ってしまった。なぜ笑うのか。全くわからない。
4回目のデートは下北沢だった。ライブハウスでインディーバンドを見て、その後に近くの居酒屋に入った。ビールを飲みながら、話していた。バンドの話、対バンの話、下北沢の街がどう変わったかという話。居酒屋は混んでいて、隣のテーブルの声が飛んでくる感じで、なんかそのざわめきのせいか、いつもより少し緊張が薄れていた気がした。
「ちょっと聞いていいですか」
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4駅乗り過ごして、それでも待っていてくれた
初デートの待ち合わせに遅刻した。しかも間違えた駅に降りて、汗だくで18分後に到着した私を、彼女は黙って待っていた。その時の第一声が忘れられない。
急に声のトーンが変わった。
「なんですか?」
「笑い癖、ありますよね」
指先が少し冷えた。ビールのグラスを置く手が止まった。
「……え、そんなに?」
「最初から気づいてた」
「えっ」
「初めて会ったとき。メニュー見ながら笑ってたじゃないですか」
返せなかった。イノダのメニューを見ながら笑っていた、確かに。フレンチローストか何かを見ながら、緊張で笑っていた。それを、初回から気づかれていた。
「なんか、責めてるわけじゃなくて。ただ、緊張してるのかなって思って。3回、何も言わなかったのは、なんか言ったら緊張させるかなと思ったから」
ビールの泡がゆっくりなくなっていくのを見ていた。下北沢の居酒屋の、木のテーブルが視界に入ってきた。
「……笑ってると、楽なんですよ。なんかうまく言えないけど」
「うん」
「別に面白くないのに笑っちゃうんですよね、緊張してるとき。自分でもわかってる」
「知ってた」
また「知ってた」という言葉が来た。知ってた上で、3回待った、ということだった。初回から気づいていて、3回目まで何も言わなかった。ただ待っていた。その重さが、急にのしかかってきた。
「次から、笑わなくてもいいですよ。笑えないときは笑わなくていい」
喉の奥に何かひっかかった感じがした。声が出なかった。ビールを一口飲んで、また置いた。
「……はい」
とだけ言った。
5回目のデートから、少し笑う回数が減った。減ると、かえって会話が詰まる瞬間があった。でも彼女は埋めようとしなかった。沈黙を「まずい」と思わなかった。そこに、ただ、いた。
下北沢で時々飲んだ。同じインディーバンドをまた見に行って、今度は終演後もそのまま話し続けた。ビールを飲みながら、笑わなかった瞬間もあった。笑わなくても、会話は続いた。
素の自分を見せることの怖さより、見せた後の静けさの方がずっと怖かった。
でも彼女は、逃げなかった。
この記事を書いた人
27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。