「友達として」見送ったはずが、3ヶ月でカナダから毎晩LINEが来るようになった
羽田で「気をつけてね」と言った。3ヶ月後、彼からの言葉は「友達じゃない、たぶん」だった。
羽田空港の第2ターミナル、国際線の出発ロビー。
9月の平日の朝。Tappleで知り合ってから3週間しか経っていなかった。彼——けんじ——はバンクーバーに1年間行くことになっていた。ワーキングホリデー。最初に会ったときから「来月カナダ行くんで」と言っていた。
「友達として見送ります」という建前で来た。実際には「友達として」の意味をどうとればいいか、自分でもよくわかっていなかった。
3週間で4回会って、毎回楽しくて、でも「好き」と言えるほど確信がなかった。彼が行ってしまう事実がある中で、気持ちを足してもどうするのかという気持ちもあった。出発の15分前に来て、荷物検査を待つけんじの横顔を見ていた。
「気をつけてね」と言った。「ありがとう、来てくれて」と彼は言った。荷物検査に消えていく背中を見送った。それで終わりかと思った。
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翌日、LINEが来た。「着きました、時差あるから変な時間に送ってごめん」。「大丈夫です、無事でよかった」。それだけだった。
2週間後、また来た。「そっちはどうですか」。「普通です、けんじくんは?」「慣れてきた」。
月1回くらいのペースが、気づいたら月3回になり、週1回になり、ある頃から毎日になっていた。
「毎日来るじゃないですか」とある夜言ったら、「気づいてた?」と来た。「気づいてました」。「嫌でしたか」「嫌じゃないです」「よかった」。
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2ヶ月経ったころ、深夜のLINEが来た。
「こっち、ちゃんと生きてますよ。でもなんか、お前が居たらって思うことある」。
「お前が居たら」。
「友達だったら使わない言葉だな」と思った。でも何も言えなかった。「居たらどうするんですか」と送ったら「わからん、でも思う」と来た。
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毎晩0時に固定でLINEが来るようになったのは3ヶ月目だった。
「今日こっちは夜8時で、そっちは0時でしょ。ちょうどいい時間だと思って」と彼が言った。時差を計算してくれていた。
毎晩0時に来ることが当たり前になった。電話を持ってベッドに入る習慣ができた。0時の前に、スマホを枕元に置くようになった。
ある夜、ビデオ通話した。初めてだった。
画面の中の彼は、少し日焼けしていた。声は変わっていなかった。お互いしょうもない話をして、1時間半笑い続けた。通話が終わって、しばらく画面を見ていた。バンクーバーの夜8時と、東京の深夜0時が繋がっていた。
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3ヶ月経って、彼からテキストが来た。
「友達じゃない、たぶん。俺の中でお前のこと。でも言ってよかったかわからん」。
「知ってた」と送った。
「え」「3ヶ月前から知ってたよ」「なんで言わなかった」「けんじくんが言うまで待ってた」「意地悪だな」「意地悪じゃないです、タイミングがあると思ってたから」。
「9ヶ月待ってくれますか」と来た。「待てます」と返した。
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羽田で見送ったとき、「友達として」と言っていた。あの言葉は嘘じゃなかった。ただ、不完全だっただけ。言葉は後から追いついてくる。感情は言葉より先に走っている。
毎晩0時のLINEが来ると、画面を開く前にほんの少し、胸が温かくなる。それが答えだった、ずっと前から。
「友達として」見送った人が、今は毎晩声を届けてくれる。距離は関係を壊さない。むしろ、壊れないものだけが残る。
あの9ヶ月間、待てたのは毎晩0時が来たからだ。待つことに、理由があった。
けんじが帰ってきた日、羽田で迎えた。出発のときと同じターミナル。今度は「見送り」じゃなかった。
帰国後、最初に行ったのは下北沢だった。けんじが「帰ったら下北沢に行きたい」とずっと言っていたから。
古着屋を2軒回って、コーヒーを飲んで、夕方の路地を歩いた。「日本の街の密度って、やっぱり違うな」とけんじが言った。「バンクーバーは広すぎて」「広いの好きじゃないんですか」「嫌いじゃないけど、ここが好きで」。
ここ、というのが下北沢なのか、日本なのか、私の隣なのか、わからなかった。でも聞かなかった。聞かなくてもわかる気がした。
羽田で見送った朝の「気をつけてね」は、1年後に「ただいま」になった。「友達として」が「友達じゃない」になった。
距離は、意志があれば縮まる。毎晩0時のLINEが、その証明だった。
「気をつけてね」から「ただいま」まで、1年かかった。でも毎晩0時のLINEが、その1年を繋いでいた。待つことは、諦めることじゃない。信じることだ。
バンクーバーから帰ってきたけんじは、少し変わっていた。顔が少し大人になって、歩き方に余白が増えた。「どう変わった?」と聞いたら「お前に会いたかった分だけ」と言った。また笑った。
けんじが「カナダに行ってよかった」と言った。「私も行ってもらってよかった」と言ったら、「なんで」と聞かれた。「9ヶ月待ったら、わかることがあった」と答えた。
この記事を書いた人
27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。