マッチした3週間後、彼は福岡に引っ越した。それでも私たちは続けた
Tappleでマッチしたのは、彼の転勤が決まった直後だった。遠距離でいい、とお互い言い張った最初の3ヶ月の話。
マッチした日の夜、彼から「実は来月福岡に転勤します」というメッセージが来た。
3週間しか話していなかった。まだ一度も会っていなかった。Tappleで出会って、毎晩メッセージをやりとりして、来週初めて会う約束をしたばかりだった。
スマホを持ったまま天井を見上げた。
普通に考えれば、ここで終わりだ。会う前から遠距離になるなんて、ただの消耗だ。東京と福岡、飛行機で2時間。気軽に会えない。お金もかかる。
でも翌朝、彼からまた連絡が来た。「来週会いませんか。転勤前に」
なぜか断れなかった。
初デートは渋谷のカフェだった。2月の寒い夜。彼はGAPのニットを着ていて、実物は写真より少しだけ目が細かった。ホットラテを頼んで、お互いに「あの、えっと」と言い始めて、2人して笑った。
3時間半話した。転勤の話、仕事の話、好きな映画の話。彼がずっと好きだという岩井俊二の話で盛り上がって、「Love Letterが一番好き」と言ったら「俺も」と即答されて、なんか変な感じがした。好きな映画を即答された時の感覚、言葉では説明しにくい。
別れ際、渋谷の交差点の近くで。
「遠距離ってどう思いますか」
彼が聞いた。直球だった。
「……どうかな」
「俺は、やってみたいと思ってる」
人混みの中で、足が止まった。彼の顔を見た。信号が変わった。人が動いた。私たちだけ立っていた。
「一回やってみようか」
自分でも驚くくらい素直にそう言えた。
彼は3月の頭に福岡に行った。荷物を送って、引越し業者に立ち会って、中洲のアパートに鍵を受け取った日、LINEに写真が来た。窓から見える景色。川が見えた。「ここから電話しようと思って」
23時、最初のFaceTime。画面越しの彼の顔は、初デートで会ったままの顔だった。当たり前なんだけど、なんかちょっとほっとした。
「何食べた?」
「とりあえず天神のラーメン」
「どうだった?」
「美味しかった。でも一人で食べると全然美味しくないんだよな」
画面の中の彼が笑った。
FaceTimeは毎晩の習慣になった。22時頃、お互い家に帰ってから。ベッドの上で横になりながら話す。特別なことを話すわけじゃない。今日の仕事どうだったとか、天気どうだったとか、ランチどこで食べたとか。
最初の1ヶ月は楽しかった。新しい習慣が新鮮で、画面越しでも「会ってる感」があった。
2ヶ月目に入った頃から、少し変わってきた。
普通に疲れた日に、電話の時間が億劫になることがある。でも「今日しんどいから電話やめとく」が言いにくい。電話を休む=さぼってる、みたいな謎の罪悪感。
彼が福岡の友達と飲みに行った土曜の夜、電話がなかった。翌朝「昨日飲み会になっちゃって、ごめん」というLINEが来た。ごめん、の文字を読んで、何が嫌だったのか自分でもよくわからなくなった。寂しいのか、連絡なしが嫌なのか、楽しそうにしてることが嫌なのか。
正直に送った。「別にいいんだけど、なんかちょっとモヤっとした。理由は自分でもよくわからない」
彼から電話が来た。
「ごめん。連絡すべきだった」
「連絡してほしかったかどうかもわからない。ただ、なんか」
「なんか?」
「普通にそこにいてほしかっただけかも」
電話の向こうで、彼が黙った。その沈黙がどんな色なのか、画面がなかったから表情は見えなかった。
「……行くよ。来月、行く」
3ヶ月目の週末、新幹線に乗った。東京から福岡まで、のぞみで5時間。窓から九州の景色が流れていく。
博多駅に着いたら、彼が改札の前で立っていた。手を上げた。Gapのニットじゃなくて、今日はユニクロの緑のパーカー。少し日焼けしてた。
「来たね」
「来た」
「寒くなかった?」
「新幹線の中は暖かかった」
しょうもない会話だった。でも、その声が画面越しじゃないだけで、全然違った。
中洲を歩いた。屋台で豚骨ラーメンを食べた。夜の那珂川沿いを歩いた。川から生ぬるい風が吹いてきた。
帰りの新幹線の最終。博多駅のホームで彼と別れた。ドアが閉まる前、「また来て」と彼が言った。「来る」と答えた。
ホームを離れていく新幹線の窓から外を見たら、彼はまだそこに立っていた。手を振らなかった。ただ立って、私が乗った列車を見ていた。
喉の奥が細くなった感じがした。泣くほどじゃない。でも何かが詰まってる。
距離は縮まらない。でも会うたびに、なぜかちょっとずつ近くなる気がする。矛盾してるのはわかってる。
この記事を書いた人
27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。