2回目のデートで手料理を提案されて、煙だらけのキッチンで笑い崩れた
「家で一緒に作りませんか」に乗った私が悪い。料理は焦げ、塩は多すぎ、最終的にピザを注文した。でも何だったんだろう、あの夜の居心地の良さは。
「2回目のデート、うちで料理でもどう?」
Tappleでやりとりしていた翌週、メッセージが来た。24歳、料理が趣味と書いてあった彼——ショウさん——からの提案だった。
一瞬、躊躇した。2回目だよ? まだ2回目。でも1回目の恵比寿のご飯が普通に楽しくて、変な人じゃないのはわかってた。
「食材費は出します。得意な料理ありますか?」
「……餃子なら包めます」
「じゃあ餃子にしよう」
三軒茶屋の彼の部屋。築7年の1LDK。日曜の夕方5時。ドアを開けてもらった時、コンバースを脱いで上がったら、部屋はちゃんと片付いていた。余計なものがない。棚に本が並んでいて、観葉植物が一個ある。モンステラ。
「なんか、大丈夫でした? 来るの」
「大丈夫でした。友達には一応言ってきました」
「……それ正解です。俺がちゃんとした人間でよかった」
「そうですね」
食材は買ってあった。豚ひき肉、白菜、ニラ、餃子の皮、ごま油、にんにく。キッチンのテーブルにずらっと並んでいた。
「じゃあ始めますか」
分担した。私が白菜を塩もみして水を絞る係、彼がひき肉と野菜をこねる係。
「塩もみ、どのくらい塩入れますか?」
「ひとつまみくらいで」
「ひとつまみって……どのくらいですか」
「人差し指と親指で、パラってする感じで」
「パラって?」
「あ、やって見せます」
彼がキッチンに来て、塩を指でつまんでボウルに入れた。私の真横。コンロから50センチくらいの距離。石鹸の匂いがした。手元を見ていた。ちゃんと手元を見ていた。
「こんな感じです」
「わかりました。ありがとうございます」
つい丁寧語になった。
こね終えた餡を皮で包み始めた。彼は上手だった。ひだがきちんと均等にできている。私の方はへたくそだった。皮がはみ出る。ひだがまちまち。
「……なんか、これって餃子ですか」
「餃子です。多少形が悪くても味は変わらないから」
「励ましてます?」
「本当のことを言っています」
フライパンで焼いた。ごま油を引いて、餃子を並べた。中火。フタをする。
5分後。
焦げ臭い。
「あ」
「え、フタ」
フタを開けたら、もくもくと煙が上がった。下側が完全に黒かった。
換気扇を最大にした。でも追いつかない。窓を開けた。三軒茶屋の夜風が入ってくる。煙が部屋に充満していた。
「……ごめん」
彼が言った。神妙な顔で、焦げた餃子のフライパンを見つめていた。
なぜか笑いが込み上げてきた。これが笑いどころかどうかわからないけど、笑えてしまった。
「笑いますよね」
「笑いたくないんですけど笑えてしまいました」
「まあ……こういうこともあります」
「あります?」
「……初めてかもしれない。焦がしたのは」
また笑った。今度は二人で。
残った材料でもう一度やろうとした。今度は弱火にして。でも今度は中に火が通らず、外だけ焼けて中が生っぽかった。
「……これ食べていいんですか」
「食べない方がいいかもしれない」
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初デートの待ち合わせに遅刻した。しかも間違えた駅に降りて、汗だくで18分後に到着した私を、彼女は黙って待っていた。その時の第一声が忘れられない。
「……Uber Eatsしますか」
「します」
ピザを頼んだ。マルゲリータ。届くまでの30分、ソファに並んで焦げた餃子を肴にビールを飲んだ。焦げた部分を端で避けながら食べたら、中は普通においしかった。
「中は全然いける」
「外が余計でしたね」
「外が邪魔してる」
ピザが来た。熱々のやつを、段ボールの箱をテーブル代わりにしながら食べた。コタツに入ってる感じ。変に行儀よくしなくていい感じ。
「また来ても?」
ピザをひと切れ食べ終えたところで、彼が言った。こっちを向かずに、ピザの箱を見ながら。
喉の奥がきゅっとした。ビールのせいかな、と思った。違うと思った。
「……来ます。次は私が作ります」
「大丈夫ですか」
「大丈夫です。一品だけ。得意なやつがあるので」
「なんですか」
「……来た時のお楽しみで」
彼が笑った。ピザの箱を閉じて、私の方を向いた。目が細くなっていた。
その夜、煙だらけのキッチンで誰かとあんなに笑ったのは、久しぶりだった。うまくいかない夜ほど、その人の本性が出る。失敗を責めないで笑える人となら、たぶんずっと一緒にいられる。
この記事を書いた人
27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。