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恋愛体験談エッセイTapple

煙だらけのキッチンで笑った夜、後悔しなかったデートの話

Tappleで知り合ったショウさんに「2回目、うちで料理どう?」と誘われた。焦げた、塩が多すぎた、最終的にピザを注文した。でもあの三軒茶屋の夜の居心地の良さが今も忘れられない。マッチングアプリ体験談、料理デートの顛末。

24歳・女性の体験
·橘みあ·6分で読める

「2回目のデート、うちで料理でもどう?」


Tappleでやりとりしていた翌週、メッセージが来た。24歳、料理が趣味と書いてあった彼——ショウさん——からの提案だった。


一瞬、躊躇した。2回目だよ? まだ2回目。でも1回目の恵比寿のご飯が普通に楽しくて、変な人じゃないのはわかってた。


「食材費は出します。得意な料理ありますか?」


「……餃子なら包めます」


「じゃあ餃子にしよう」


煙が充満した、三軒茶屋の夜


三軒茶屋の彼の部屋。築7年の1LDK。日曜の夕方5時。ドアを開けてもらった時、コンバースを脱いで上がったら、部屋はちゃんと片付いていた。余計なものがない。棚に本が並んでいて、観葉植物が一個ある。モンステラ。よく見たら葉っぱが少しかたむいていた。水をやれているのかいないのか。


「なんか、大丈夫でした? 来るの」


「大丈夫でした。友達には一応言ってきました」


「……それ正解です。俺がちゃんとした人間でよかった」


「そうですね」


食材は買ってあった。豚ひき肉、白菜、ニラ、餃子の皮、ごま油、にんにく。キッチンのテーブルにずらっと並んでいた。


「じゃあ始めますか」


分担した。私が白菜を塩もみして水を絞る係、彼がひき肉と野菜をこねる係。


「塩もみ、どのくらい塩入れますか?」


「ひとつまみくらいで」


「ひとつまみって……どのくらいですか」


「人差し指と親指で、パラってする感じで」


「パラって?」


「あ、やって見せます」


彼がキッチンに来て、塩を指でつまんでボウルに入れた。私の真横。コンロから50センチくらいの距離。石鹸の匂いがした。手元を見ていた。ちゃんと手元を見ていた。


「こんな感じです」


「わかりました。ありがとうございます」


つい丁寧語になった。


こね終えた餡を皮で包み始めた。彼は上手だった。ひだがきちんと均等にできている。私の方はへたくそだった。皮がはみ出る。ひだがまちまち。


「……なんか、これって餃子ですか」


「餃子です。多少形が悪くても味は変わらないから」


「励ましてます?」


「本当のことを言っています」


フライパンで焼いた。ごま油を引いて、餃子を並べた。中火。フタをする。


5分後。


焦げ臭い。


「あ」


「え、フタ」


フタを開けたら、もくもくと煙が上がった。下側が完全に黒かった。


換気扇を最大にした。でも追いつかない。窓を開けた。三軒茶屋の夜風が入ってくる。煙が部屋に充満していた。モンステラの葉が少し揺れた。


「……ごめん」


彼が言った。神妙な顔で、焦げた餃子のフライパンを見つめていた。


なぜか笑いが込み上げてきた。これが笑いどころかどうかわからないけど、笑えてしまった。


「笑いますよね」


「笑いたくないんですけど笑えてしまいました」


「まあ……こういうこともあります」


「あります?」


「……初めてかもしれない。焦がしたのは」


また笑った。今度は二人で。目が合って、笑って、また目が合って、また笑った。


うまくいかない夜ほど、その人が見える


残った材料でもう一度やろうとした。今度は弱火にして。でも今度は中に火が通らず、外だけ焼けて中が生っぽかった。


「……これ食べていいんですか」


「食べない方がいいかもしれない」


「……Uber Eatsしますか」


「します」


ピザを頼んだ。マルゲリータ。届くまでの30分、ソファに並んで焦げた餃子を肴にビールを飲んだ。焦げた部分を端で避けながら食べたら、中は普通においしかった。


「中は全然いける」


「外が余計でしたね」


「外が邪魔してる」


ピザが来た。熱々のやつを、段ボールの箱をテーブル代わりにしながら食べた。コタツに入ってる感じ。変に行儀よくしなくていい感じ。部屋に残った煙の名残と、ピザのトマトの匂いが混ざって、なんかそれが居心地よかった。


「また来ても?」


ピザをひと切れ食べ終えたところで、彼が言った。こっちを向かずに、ピザの箱を見ながら。


喉の奥がきゅっとした。ビールのせいかな、と思った。違うと思った。


「……来ます。次は私が作ります」


「大丈夫ですか」


「大丈夫です。一品だけ。得意なやつがあるので」


「なんですか」


「……来た時のお楽しみで」


彼が笑った。ピザの箱を閉じて、私の方を向いた。目が細くなっていた。三軒茶屋の夜の空気が、窓からまだ少し入ってきていた。冷たくて、でも部屋の中は温かかった。その温度差が体の中でぐるっと回っていた気がした。


その夜、煙だらけのキッチンで誰かとあんなに笑ったのは、久しぶりだった。うまくいかない夜ほど、その人の本性が出る。失敗を責めないで笑える人となら、たぶんずっと一緒にいられる。


うまいと言われたのに、今年一番の言葉だとは思わなかった。

よくある質問

料理はうまくいったのですか?
料理は焦げ、塩は多すぎ、最終的にピザを注文することになりました。煙だらけのキッチンで笑い崩れた、というのがタイトルになっています。
散々だった夜だったにもかかわらず、何かが良かったのですか?
「何だったんだろう、あの夜の居心地の良さは」というのがexcerptの言葉です。うまくいかなかったからこそ自然体でいられた夜の空気が、記事で描かれています。

この記事を書いた人

橘みあマッチングアプリ体験談ライター

27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。

#Tapple#料理#2回目のデート#失敗#笑い

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