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恋愛体験談エッセイ

水族館デートで告白できなかった夜、後悔した一言の話

今日、言おうと決めていた。品川の水族館、クラゲの青い光の中で3回目のデートの告白はできなかった。それでも改札の前でほんの少しだけ本当のことが口から出た夜の話。言えなかった言葉の行方。

24歳・女性の体験
·橘みあ·6分で読める

正直に言う。言おうと決めていたのに、水族館で言えなかった。


マグカップにコーヒーを注ぎながら決めた。乗り換えアプリを開きながら決めた。マスカラを睫毛の根元に押しつけながら、鏡の中の自分に言い聞かせるように決めた。


品川駅の改札を抜けたのは、午後1時を少し回った頃だった。11月の風が首元をすり抜けていく。水族館の案内板に向かって歩きながら、スマホの地図アプリを閉じた。方向はわかってる。問題は、そこじゃない。


3回目のデートだった。




入口で、また会う


アクアパーク品川の入口で彼女を見つけたとき、胸の奥でなにかが収縮するような感覚があった。紺色のコートに白いマフラー。前髪を少しピンで留めている。会うたびに少しずつ違うのに、毎回「ああ、この人だ」と思う。


「待った?」

「全然。ちょうど今来たとこ」


嘘だった。15分前から周りをうろついていた。緊張を歩数で消化しようとするみたいに。




青い光の中で


館内に入ると、光の色が変わった。外の白い冬の空から、深い青に。目が慣れるまでの数秒間、彼女の輪郭がぼんやりと滲んで見えた。水槽の中を大きな魚の影がゆっくり横切っていく。声が小さくなる場所だった。足音さえ、吸い込まれるみたいに消えていく。


クラゲのゾーンで、足が止まった。


壁一面に広がるほの青い光。傘を開いたり閉じたりしながら、クラゲたちが重力を無視して漂っている。上なのか下なのかもわからない、ゆっくりした動き。彼女がガラスに近づいて、顔を寄せた。その横顔に、青い光が落ちていた。


「きれいだね」


声に出てから気づいた。クラゲを見ていなかった、と。


「ほんとだ」と彼女は言った。目はまだ水槽の中にある。


私はそのままの姿勢で、しばらく動けなかった。ここで言えばよかったのかもしれない。水槽の青い光の中で、彼女の横顔を見ながら。でも口は動かなかった。なにかが喉のあたりで固まったみたいに、ただ呼吸しているだけだった。




イルカショーのエリアは、別世界みたいに明るかった。観客席に並んで座ると、彼女の肩がすぐ隣にある。「濡れてもいいの?」と聞いたら「せっかくだから前にしよう」と彼女が言った。水しぶきが届く距離。周囲の歓声の中で、「冷たい!」と笑う声が、なぜか耳の中に残った。


それだけで。それだけで十分な気がして、怖かった。


ここで告白して、もし断られたら、この声の記憶ごと何かが変わってしまう気がした。イルカが水をかき、子どもたちが騒いで、彼女が笑っている。この夜が、まだ完成していない。完成させたくなかったのかもしれない。完成させた瞬間に終わるものがある、ということを、どこかで知っていたから。




言えない、でも言いたい


出口に向かいながら、頭の中でカウントダウンを繰り返した。


ここで言う。次の曲がり角で言う。お土産コーナーを出たら言う。ご飯食べてから、ご飯食べながら、ご飯食べ終わったら。


全部、来なかった。


タイミングを待っているふりをしながら、本当はタイミングが来ることを怖がっていた。そういう矛盾した気持ちが、胸の中でぐるぐると同居していた。好き、でも言いたくない。言いたい、でも終わってほしくない。どっちが本当かもわからないまま、夜の品川の街に出た。




帰り際、品川駅の改札前に着いた。


人の流れが速い場所だった。スーツ姿のサラリーマンが横を通り抜けていく。電光掲示板が、次の電車の時刻を光らせている。


「楽しかった、ありがとう」


彼女がそう言った。マフラーを少し巻き直しながら。


「また行こうよ」


自分の口から出た言葉を、聞きながら思った。また、という言葉を選んだ理由が自分でもよくわかった。


「どこ?」

「また水族館でもいい」


「水族館好きだね」と笑われた。少しからかうような声だった。


次の言葉が出てくるまで、2秒か3秒、あったと思う。


「あなたと来るのが好きなんです」


声に出してから、心臓が跳ねた。告白じゃない。でも嘘でもない。今日ずっと言えなかったことの、輪郭だけみたいな言葉。


彼女は少しの間、黙っていた。


改札のざわめきが、遠くなった気がした。


「私も」


たった2文字だった。それだけだった。でも彼女は先に改札を抜けて、こちらを振り返らなかった。振り返らないまま歩いていく後ろ姿に、心臓がうるさかった。ずっとうるさかった。電車に乗り込んで、扉が閉まって、品川の夜が窓の外に流れていっても、まだ鳴っていた。




今ならわかる。


告白って、言葉の形をしていなくていいのかもしれない、とは思わない。ちゃんと言葉にしなきゃいけないことが、この世の中にはある。「好きです」という4文字には、他の何でも代わりになれない重さがある。


ただ、あの夜の「私も」は、本物だったと思う。


次は、ちゃんと言おう。クラゲの青い光の中でも、イルカショーの水しぶきの中でも、改札前の人混みの中でもなくていい。ただ彼女の目を見て、4文字を渡せる夜を、もう一度作ろうと思う。


完成させることを、怖がらずに。




言えなかったのに、まだ次に会う理由になっている。

よくある質問

なぜ水族館で告白できなかったのですか?
今日言おうと朝から決めていたにもかかわらず、実際にクラゲの青い光の中に立つと言葉が出なかったようです。3回目のデートで、緊張や雰囲気が想定外だったのかもしれません。
最終的に気持ちを伝えられたのですか?
水族館の中では言えなかったものの、帰り際の改札前でほんの少しだけ本当のことが口から出たとのことです。完全な告白ではなかったようですが、何かが伝わった夜だったようです。
デートはどこに行ったのですか?
品川のアクアパーク品川です。11月に訪れ、紺色のコートに白いマフラーの彼女と待ち合わせしました。クラゲの青い光の中が印象的なシーンとして描かれています。

この記事を書いた人

橘みあマッチングアプリ体験談ライター

27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。

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