恋のアーカイブ
恋愛体験談エッセイ

深夜のドライブで全部話した夜。後悔する前に言えた

深夜12時に「少し走りましょうか」と言われた。行き先を入力しないままナビが起動して、車が動き出した。首都高の夜景よりも、助手席で零れた言葉の方がずっとよかった——深夜のドライブで全部話した夜の体験談。

24歳・女性の体験
·橘みあ·6分で読める

「全部話していいよ」と言われたけど、最初は言えなかった。


「少し走りましょうか」


コートを羽織る間もなく、気づいたら助手席に座っていた。エンジンがかかって、ナビの画面に行き先は入力されないまま、車が動き出した。どこへ行くのかも聞かなかった。いや、聞けなかったのかもしれない。あの人がハンドルを握るときの横顔が、なんとなく、止まらないでいてほしいような顔をしていたから。


首都高の入口を過ぎたあたりで、ようやく聞いた。


「どこ行くんですか」

「どこでも」


それだけ。


窓の外を、夜の海が流れていった。湾岸線に出ると東京湾の黒い水面が見えて、向こう岸の工場の光がオレンジ色に滲んでいた。ラジオをつけたら、知らない曲が流れ始めた。ゆっくりしたテンポで、歌詞が聞き取れないくらい静かな曲。それがかえってよかった。沈黙を塗りつぶすでもなく、会話を遮るでもなく、ただそこにある感じ。


シートベルトの感触がやけにはっきりしていた。息が少し浅くなっているのに気づいた。


夜の車の中だけが、正直だった


走りながら、話した。


なぜあんなに話せたのか、今でもうまく説明できない。向かい合って座っていないから、顔を見なくていい。暗いから、どんな表情をしていても気づかれない。沈黙が来ても、音楽が静かに埋めてくれる。そういう条件が揃っていたから、というだけじゃなかったと思う。


「実は」という話をした。


仕事のこと。今の仕事が合っているのかずっとわからなくて、でも辞める勇気もなくて、毎朝なんとなく電車に乗っている、という話。家族のこと。母親とうまく話せなくなった時期があって、それがまだ少し続いている、という話。前の恋愛のこと。好きだったのに、なぜか最後の方は会いたくなくなっていた、という話。


カフェで友達に話す内容より、ずっと深いところにあるやつ。ふだん自分でも触らないようにしているところ。それがするするっと出てきた。


言いながら、「あ、言いすぎた」と思う瞬間が何度もあった。でも止まれなかった。


向こうも話してくれた。


「普段こんなこと言わないんですけど」という前置きがついてから、その人の話が始まった。仕事への違和感のこと。ひとりでいることへの慣れと、でも慣れたくない、という矛盾のこと。話しながらどこか遠くを見ているような目をしていた。ハンドルを握ったまま、信号待ちでも前を向いたまま。


私も前を向いたまま、聞いていた。


そのままでいいと思った。顔を見てしまったら、何かが変わりそうで。


高速を降りた。どこかの高台に続く細い道を上って、視界が開けた場所で車が止まった。


東京の夜景が、横に広がっていた。


六本木ヒルズの赤いランプが点滅していて、遠くにレインボーブリッジの光が見えた。手前には住宅地の窓の明かりがびっしりと並んでいて、それぞれの部屋に誰かの夜がある、と思った。深夜なのに、こんなにたくさん。


「よく来るんですか、ここ」

「来ることはないですけど」


少し間があった。


「来たかったんです」


「何のために」


聞いてから、少し後悔した。野暮な質問だったかもしれないと思って。でも答えが返ってきた。


「あなたと来たかったから」


夜景より、その言葉の方がよかった。


胸が、ぎゅっとなった。なんと言えばいいかわからなくて、何も言えなかった。黙ったまま、また前を向いた。夜景が、さっきより少しだけぼやけて見えた。目頭が熱くなった。


嬉しい、という言葉では全然足りない。もっと静かで、もっと深いところにある感覚。でもそれと同時に、「これでいいのかな」という気持ちもあった。好きかどうか、ではなくて。この夜が特別すぎて、このあとどうなるかが、少し怖かった。


もう一度、同じ道を走りたいと思った夜


帰り道、また高速に乗った。


行きと同じ道なのに、景色が違って見えた。ラジオの曲が変わっていた。さっきよりテンポが速い曲で、なんだか少し場違いな感じがして、二人で笑った。何がおかしいのかうまく言えなかったけれど、それでもよかった。


「また来ましょうか」


私が言ったら、「来ましょう」と返ってきた。


「今度は昼間に」と言ったら、「夜の方がいいです」と言われた。


そっか、と思った。昼間じゃない方がいい理由が、私にも少しわかった気がした。あの暗さと、顔が見えない感じと、音楽が埋めてくれる沈黙が必要だったのは、たぶん二人とも同じで。


あれから、また来た。


同じ湾岸線を、同じラジオをつけながら。助手席から見える景色は変わらないのに、話す内容は少しずつ変わっていった。最初はあんなに「言いすぎた」と思っていたのに、今は言い足りないことの方を考えている。


二回目の夜、高台の手前で少し迷子になった。どこで曲がるんだっけ、という話になって、スマホのナビを出そうとしたら「いいです、迷いながら行きましょう」と言われた。迷いながら、というのが好きだと思った。目的地を決めなくていい人と一緒にいると、こんなに楽なんだと知らなかった。


三回目は雨だった。ワイパーが動く音がやけに心地よくて、ガラスを伝う水滴を眺めながら、いつの間にか一時間以上止まっていた。駐車場の隅で、エンジンだけかけたまま。外に出る気にならなかった。その夜は夜景より、雨の音の方がよかった。


今でも思う。あの夜、どこへも行き先を入力しなかったのは、たぶん正解だった。行き先が決まっていたら、あんなに話せなかったと思う。


好きな人と走るとき、目的地はなくていい。

よくある質問

深夜のドライブはどこへ行ったのですか?
首都高から湾岸線に出て、東京湾の夜景を見ながら走ったとあります。行き先は最後まで告げられないまま、「どこでも」の一言で車が動き出しました。
ドライブ中にどんなことを話したのですか?
助手席で零れた言葉が湾岸の夜景よりずっとよかったと書かれています。全部話した夜だったとのことで、それまで言えなかった気持ちや話が出てきたようです。
深夜のドライブに誘ったのは誰ですか?
「少し走りましょうか」と言ったのは相手の方で、深夜12時に突然誘われたとあります。コートを羽織る間もなく助手席に座っていたと書かれています。

この記事を書いた人

橘みあマッチングアプリ体験談ライター

27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。

このテーマを読む:告白体験談

この記事が刺さったら、シェアしてください

あなたへのおすすめ

ストーリー」に興味があるあなたへ

水族館デートで告白できなかった夜、後悔した一言の話
恋愛体験談

水族館デートで告白できなかった夜、後悔した一言の話

今日、言おうと決めていた。品川の水族館、クラゲの青い光の中で3回目のデートの告白はできなかった。それでも改札の前でほんの少しだけ本当のことが口から出た夜の話。言えなかった言葉の行方。

女性24歳
6
同じ会社の人を好きになった夜。後悔しそうで、してない話
恋愛体験談

同じ会社の人を好きになった夜。後悔しそうで、してない話

社内恋愛はしない、と決めていた。別れたら面倒、噂になる、仕事がやりにくくなる。でも11月の田園都市線の朝の電車が、その決意をゆっくりと溶かしていった。同じ会社の人を好きになってはいけないと思っていた、その決意が崩れるまでの話。

女性27歳
6
同じシェアハウスで半年間すれ違い、ようやく気持ちを伝えた話
恋愛体験談

同じシェアハウスで半年間すれ違い、ようやく気持ちを伝えた話

杉並区の古いシェアハウス、4人部屋。毎日顔を合わせるからこそ、半年間何も言えなかった。引越しの知らせを受けた夜、初めて「もう怖くない」と思えた——毎日すれ違い続けた後、気持ちをようやく伝えた告白の話。

女性26歳
6
3回目で彼の部屋に行った夜。翌朝、付き合おうって言われたのに答えられなかった
恋愛体験談

3回目で彼の部屋に行った夜。翌朝、付き合おうって言われたのに答えられなかった

withで出会って3回目のデートの夜、彼の部屋に行った。翌朝、目玉焼きを2枚作ってくれた彼に「付き合ってほしい」と言われた。嫌じゃなかった。でも「はい」とすぐに言えなかった。なぜ言えなかったのか、3日後にようやくわかった。

女性with|27歳
6
20分かけて書いた告白文を消した夜、7文字だけ送った
恋愛体験談

20分かけて書いた告白文を消した夜、7文字だけ送った

日曜の夜23時、Pairsで知り合った健太に告白した。最初に書いた文章は5行超えのぐるぐる文。送ろうとして、全部消した。送ったのは「好きです以上」の7文字だけ。送った後、すぐ顔を枕に埋めた。あの夜の正直な記録。

女性Pairs|27歳
4
2ヶ月待って待ち疲れた23歳が、自分から「好きです」と送った夜
恋愛体験談

2ヶ月待って待ち疲れた23歳が、自分から「好きです」と送った夜

Tappleで出会って3ヶ月、4回会って名前のない関係のまま待ち続けた。2月の終わりから書いては消した告白の文面が、3月7日の夜11時についに飛んでいった。「よかったら」という語尾の弱さに気づいた瞬間の話。

女性Tapple|23歳
5

恋愛体験談」はまだ 298 本あります

次の記事

マッチングアプリで不快な経験をした夜。会う前に確認すべきことで後悔しない