20分かけて書いた告白文を消して、7文字だけ送った
「好きです以上」。送った後、顔を枕に埋めた。
日曜日の夜23時に、Pairsで知り合った健太に告白した。
といっても、最初に書いた文章はこんな感じだった。
「健太くんと話していると、すごく楽しくて、毎日LINEするのが当たり前になっていて、気づいたら会えない日が寂しくて、これって好きってことなのかな、と思ってて、でも言って関係が変わるのが怖くて、ずっと言えなかったんですが、やっぱり好きです、付き合ってほしいです」
これを送ろうとして、送れなかった。
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健太とはPairsでマッチングしてから3ヶ月経っていた。
ほぼ毎日LINEして、7回デートした。映画を2本観て、ご飯を5回食べて、一回だけカラオケに行った。カラオケではお互い90年代のJ-POPを歌い合って、「懐かしすぎる」と笑い合った。彼が「KAN」を歌って、「好きな曲です」と言ったら「愛は勝つ?」「違います、言えないよ」と即答してきた。「言えないよ、か」「名曲ですよ」。
そういう会話を何度も重ねて、毎回帰り道に「もっといたかった」と思っていた。でも「好き」は言えなかった。言ったら「友達でいましょう」と言われるかもしれなかった。そしたらこのLINEも、このカラオケも、なくなる。
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でもその日曜の夜、「もう限界」と思ったのは理由がある。
昼間に会って、吉祥寺でご飯を食べて帰り道に別れたとき、彼がいつもより長く手を振っていた。ホームの端まで来て、電車が動き出しても手を振っていた。それだけのことなのに、座席に落ち着いたら喉が締まった。「好き」という感情の重さが、急にしんどくなった。
告白文を書いた。300文字くらいになった。
読み返した。長い。重い。こんな長い文をいきなり送ったら、相手がどう受け取るかわからない。
全部消した。
別の文を書いた。「ずっと言えなかったけど、健太くんのことが好きです。驚かせてごめんなさい」。
読み返した。「驚かせてごめんなさい」が変な感じがした。謝ることじゃない。全部消した。
もう一回書いた。また消した。
20分経っていた。
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最終的に送ったのは、「好きです以上」という7文字だった。
以上、というのは「それだけです、他に何もありません」という意味で書いた。余計な説明も、言い訳も、謝罪も、全部なし。それだけ。
SENDを押した瞬間、顔を枕に埋めた。
心臓が喉まで出てきそうだった。スマホを枕の下に隠した。枕の温度が、急に冷たく感じた。
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2分後、バイブレーションがした。
取り出して見た。健太からだった。
「俺も。ちゃんと付き合いたい」
読んだ。もう一回読んだ。「俺も」という2文字と「ちゃんと付き合いたい」の組み合わせが、何度読んでも頭に入ってこなかった。良い意味で。理解するまでに5秒かかった。
再び枕に顔を埋めた。今度は全然違う理由で。
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翌朝、彼から「昨日の話、ちゃんとしたいです。いつ会えますか」とLINEが来た。
「いつでも」と返した。これが本当の「いつでも」だった。嘘のない「いつでも」。
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カラオケで「言えないよ」を歌った人が、7文字で告白してきた。健太はそう言っていた、後で。「7文字、かっこよかった」と。
300文字より7文字の方が伝わることがある。余分を全部削ったとき、残るのが本当のことだ。
「好きです以上」は、今も健太のLINEの画面に残っている。「もしかして消してないですか」と聞いたら「消せないです」と言われた。
あの20分の試行錯誤は、送った後から振り返ると全部必要だった。長い文章を書いて削除することで、本当に言いたいことだけが残った。300文字が7文字になった過程が、告白の本質だった。
告白って、言葉の問題じゃなくて、踏み出す勇気の問題だ。7文字でも、300文字でも、送ることが全てだった。
「俺も。ちゃんと付き合いたい」を何度も読んだ夜のことを、今でも覚えている。「俺も」の二文字が、全部だった。
あの夜スマホを枕の下に隠した瞬間の、心臓の速さをまだ覚えている。「俺も」が返ってきたとき、世界が一瞬止まった気がした。そのあとの枕に顔を埋めた感触も。全部、記憶している。
7文字の告白は、今も健太との話のネタになっている。「また7文字で何か言ってほしい」と彼が言う。「誕生日おめでとう」は9文字だと言い返したら、「それは違う」と言われた。
「好きです以上」。余計なことを言わない告白を、また誰かにしたいと今でも思っている。
日曜の夜23時から始まったあの20分間は、私にとって人生で一番長い20分だったかもしれない。でも一番大事な20分でもあった。好きを伝えることの、練習代は高い。でも払う価値がある。
7文字で十分だった。あれ以上は必要なかった。
「好き」という感情は、長く書くほど薄まることがある。7文字の密度が、300文字より濃かった。
この記事を書いた人
27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。