初デートの前夜、彼のInstagramを掘ったら2年前の私が出てきた
FUJI ROCK 2024、Red Marquee、Ovall。同じ場所にいた。
初デートの前夜、彼のInstagramを掘り始めた。
これはたぶん、マッチングアプリあるあるだと思う。会う前に少し調べたい。どんな人か事前にわかっていた方が、当日楽。という建前と、単純に気になる、という本音。フォローはしない。見るだけ。
Pairsでマッチングした彼のプロフィールには「音楽が好きです、ライブよく行きます」と書いてあった。Instagramのアカウントも公開していたから覗いた。
写真が並んでいる。ライブ写真、食べ物、友人との写真、街のスナップ。遡っていったら、2024年の夏に飛んだ。
FUJI ROCK FESTIVAL 2024のタグが付いた写真が出てきた。Red Marqueeのステージ前。Ovallのライブの写真。
私は2024年のFUJI ROCKで、Red MarqueeのOvallを観ていた。
---
スマホを持ったまま、固まった。
同じ場所にいた可能性が高い。Red Marqueeはそこまで広くない。日時も確認したら同じタイミングだった。
Ovallは好きなバンドだ。2021年のアルバムから聴いていて、Red Marqueeで観たときは前から5列目くらいにいた。熱気があって、Bass Playerの動きが格好よくて、1時間があっという間だった。「あのライブは本当によかった」と今でも思う夜がある。
同じ場所に、この人もいたかもしれない。同じ音楽を聴いていたかもしれない。同じ瞬間に揺れていたかもしれない。
アプリで繋がる前に、音楽で繋がっていたかもしれない。
---
翌日、代官山の蔦屋書店のカフェで会った。
一時間くらい話して、音楽の話になったとき、「Instagramを少し見たんですが」と言った。「どこまで見ましたか」と彼が聞く。「FUJI ROCKの写真まで」「あー」「Ovall、私も観てました」。
あわせて読みたい
3回目のデートは、図書館で黙って本を読んだ
「図書館でそれぞれ本を読みましょう」。変なデートだと思った。でも千駄木の図書館で4時間過ごして、帰り道、私は初めてこの人のことが好きだと気づいた。
彼の表情が変わった。「Red Marquee?」「そう」「何時くらい?」「本番の最初から」「俺も最初から。前の方にいました?」「5列目くらい」「俺4列目くらい」。
二人で顔を見合わせた。
「いたかもしれないですね、近くに」と彼が言う。「かもしれない」と私も言う。「なんかすごいな」「でも知らないで立ってたんですよね」「うん。知らないで」。
「知らないで隣にいた」という感覚が、奇妙で、でも温かかった。
---
「俺も見ました」と彼が言った。「Instagram」。
「え」
「昨日の夜、ちょっと。遡ったら音楽のとが多くて」「どこまで見ました?」「3年前くらいまで」「それ見られた方が恥ずかしい……」「なんで」「昔すぎる」「フォローリクエスト、送っていいですか」。
「送ってください」と言ったら、その場でスマホを操作する音がして、10秒後に通知が来た。
その夜、帰宅したらOvallのフォロワーが一人増えていた。彼だった。
---
知らないまま同じ場所にいた2年前と、今日ここで向かい合っている今が、どこかで繋がっている感じがした。ライブの記憶は身体が持っていた。あのRed Marqueeの熱気を、4列目の彼も感じていたと思うと、何か不思議な共有物があった。
好きな音楽が同じだということは、同じ周波数で揺れた経験があるということだ。それは、思ったより近い。
InstagramをStalkしたら、自分の過去が戻ってきた。そういうことが、あるらしい。
FUJI ROCK 2025のチケットを、二人で買った。今度は知り合いとして、隣で音楽を聴く。
FUJI ROCKの写真を見つけた夜、「これを話さないといけない」と思った。初デートで話せてよかった。Instagramを掘ることは、相手を知ろうとすることだ。自分も掘られていたことが、対等でよかった。
Stalkした側がStalkされていた。お互い様だった。だから最初から、対等だった。それが、この出会いの面白いところだ。
FUJI ROCKで知らないまますれ違っていた二人が、2年後にアプリで繋がった。人生には、こういう回り道がある。
Instagramを掘った夜の、あの「え」という声が今でも頭に残っている。FUJIの写真が出てきたとき、世界が少し輝いた気がした。好きな音楽を同じ場所で聴いていた、という事実は、何にも替えられない共通点だ。
FUJI ROCKのRed Marqueeで、知らないまま4列目と5列目にいた二人が、今は代官山で会っている。音楽が、見えない線を引いていたのかもしれない。
Instagramを掘ることは、勇気がいる。でも掘ることで、会う前に何かが始まっていた。そういう出会いの仕方が、私は好きだ。
Instagramを掘ることで、会う前の時間を埋めた。でも実際に会って、埋まらなかったものが残った。それが大事なものだった。
この記事を書いた人
27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。