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事故のあと、最初に電話したのは彼だった——その意味に気づいたのは翌朝

Tinderで出会って6ヶ月。表参道の路地で自転車ごと転んで血が出て、咄嗟にかけたのは彼の番号だった。ママでも親友でもなく。翌朝、絆創膏を見た瞬間にその意味に気づいた。あの電話が、全部を教えてくれた。

28歳・女性の体験
·橘みあ·6分で読める

正直に言う。転んだとき、真っ先に彼に電話していたのに気づいた。


表参道から渋谷へ向かって自転車を漕いでいたら、道路の段差に前輪を取られた。気づいたら地面に手をついていた。ひざと手のひらに擦り傷、左のひじが血が出ていた。秋の日差しが低くて、アスファルトが橙色に染まっていた。10月の夕方5時、表参道の裏道。通行人が数人、一瞬こちらを見てから視線を戻した。


立ち上がって、自転車を端に寄せた。膝が笑っていた。革のサドルバッグが地面に落ちて、中のコーヒー豆の袋が半分こぼれていた。表参道のスタバで買ってきた豆。週に一度の小さな贅沢。


咄嗟にかけたのが彼だった、その意味


スマホを取り出した。


LINEを開いた。一番上にある名前に電話をかけた。


2コールで繋がった。


「どうした?」


「転んだ」と言った。声が少し震えた。なんで震えてるんだろう、と思いながら言った。痛いからか、情けないからか、それとも彼の声を聴いたからか、自分でもわからなかった。


「今どこ」


「表参道と渋谷の間。キャットストリートの入り口あたり」


「動ける?」


「動ける。血が出てる」


「わかった、行く」


それだけ言って電話が切れた。問いただすでも、大げさに心配するでもなく、「行く」の一言。奥歯を少し噛んだ。泣きそう、という感覚は、痛みからじゃなかった。


電話を切って、段差のそばに座ってハンカチで腕を押さえた。通行人が「大丈夫ですか」と声をかけてくれた。「大丈夫です、ありがとうございます」と答えた。スカートの膝が汚れていた。来週もここを通るのに、もう段差の位置は絶対覚えた、と思った。


15分後、彼が来た。


コンビニの袋を持っていた。救急セットを買ってきていた。絆創膏、消毒液、ガーゼ。キャップのポケットに滑り込ませたように、ローソンのレジ袋がくしゃっとしていた。走ってきたのか、少し息が切れていた。


「ちょっと見せて」と言って、腕の傷を確認して、「思ったよりひどくないな」と言った。


処置してもらいながら、私は何も言えなかった。しゃべる気力がなかったというか、なんか泣きそうで。消毒液がひじにしみた。「痛い」と顔をしかめると、彼が「ごめん」と言いながら続けた。謝る必要はないのに、と思った。


「痛い?」


「痛い」


「そうだよな」


それだけだった。同情も励ましもなく、「そうだよな」とだけ言った。大丈夫だよ、でも、もっと気をつけなよ、でもなく。ただ「そうだよな」。なぜかその一言が一番、胸に落ちた。


絆創膏を見た翌朝、気づいた


近くのカフェに入って、あたたかいものを飲んだ。私はコーンポタージュで、彼はブレンドコーヒーだった。窓際の席。日が暮れて、キャットストリートに街灯がともり始めた。彼はポテトも注文して、「食べて」と言った。さっきまで転倒の動揺があったのに、揚げたてのポテトを食べながら、なんとなく落ち着いてきた。温かいものが体の中を通って、ちゃんと内側に届いていく感じがした。


「自転車、大丈夫だった?」


「車輪は無事でした。ハンドルが少し曲がったかも」


「帰り、押して帰る?」


「押せると思う。ありがとう、来てくれて」


「まあ、近くにいたから」


彼の部屋は恵比寿で、表参道は確かに遠くない。でも「近くにいたから」という言い方が、なんか好きだった。大げさにしない。でもちゃんと来る。


1時間ほどして落ち着いて、帰った。


翌朝、起きてひじの絆創膏を見た。ドラッグストアの救急セットに入っている、ベージュのロール絆創膏。少し大きめに切って、ガーゼを当ててから貼ってある。丁寧な処置の跡だった。


そこで初めて気づいた。


電話をかけたとき、頭の中で選んでいない。お母さんでも、親友のかれんでもなく、咄嗟に彼に電話していた。LINEの一番上にある名前、という意味もあるけど、一番上にいるのは最近よく連絡を取っている人だ。つまり——。


ぼんやりそんなことを考えていたら、彼からLINEが来た。


「ひじ、大丈夫?」


返信を打ちながら、指先が少し震えた。なんで震えてるんだろう、また。今度は痛みじゃない。昨日と同じ、でも昨日とは別の理由だ、ということだけわかった。


「大丈夫。昨日ありがとう」


「どういたしまして。段差、気をつけて」


「気をつけます。コーヒー豆、半分こぼれたのが悔しかった」


「笑 それ大事なの」


「大事です、週イチの贅沢なので」


「じゃあ今週末、また買いに行きましょう。今度は一緒に」


6ヶ月付き合って、何回デートして、何回一緒に笑って、でも自分がどう思っているかは曖昧にしてきた。好きとか、大事とか、そういう言葉を口に出さなかった。なんか言ったら急に本物になってしまう気がして、怖かった。


でも、緊急のとき、体が先に答えを出していた。


転倒して血が出て、怖くて、最初に繋げたかった声が彼だった。それが、私の答えだった。


絆創膏は3日間貼っていた。剥がすのが、少し惜しかった。

よくある質問

転んだのはどこで、どんな状況でしたか?
10月の夕方5時、表参道の裏道でした。渋谷に向かって自転車を漕いでいたら道路の段差に前輪を取られ、ひざと手のひらに擦り傷、左ひじから血が出ました。
「その意味に気づいたのは翌朝」とありますが、何に気づいたのですか?
緊急時に最初に電話した相手が彼だったという事実の重さに気づいたのです。絆創膏を見た翌朝になって、それが何を意味するのかをようやく理解しました。

この記事を書いた人

橘みあマッチングアプリ体験談ライター

27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。

#Tinder#緊急連絡先#咄嗟に電話した#気持ちに気づく#大切な人

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