元カレの親友とPairsでマッチして、私から先にメッセージを送った
タカシと別れて一年。深夜のPairsに、見覚えのある名前が出てきた。止まった。でも、いいねを送った。複雑な状況でも、ちゃんと話せる人間が二人いれば、動ける。
タカシと別れたのは去年の春、桜がもう散りかけていた頃だった。
2年間付き合って、自然消滅に近い終わり方をした。嫌いになったわけじゃない。ただ、ずれが少しずつ積み重なって、気づいたらLINEの返信が3日おきになっていた。最後に会ったのは新宿の居酒屋で、赤提灯の下で飲んだビールの味も、BGMも、もう覚えていない。「もういいかな」と二人でほぼ同時に言って、それで終わりだった。
泣かなかった。怒りもなかった。2年間の積み重ねが、思ったよりあっさり畳まれた。それだけ。
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深夜1時。寝れなくて、布団の中でPairsを開いた。
スクロールしていたら、見覚えのある名前が出てきた。
ノリ、28歳。
写真を見た瞬間、手が止まった。間違いない。タカシの親友、ノリだった。タカシと付き合っていた頃に2回だけ会ったことがある。誕生日パーティーと、誰かの送別会。気さくで、変に気を遣わない人だった。会話のテンポが速くて、でも人の話もちゃんと聞く人で、「タカシの友達にしてはまともだ」とこっそり思った記憶がある。
まずい。常識的に考えて、まずい。
元カノが親友とマッチして連絡してきたら、タカシの立場から見てどうなんだ。2年間のことが、変な形で掘り返されてしまうんじゃないか。頭の中で、ちゃんとした自分と、そうじゃない自分が言い合いをしていた。スマホの画面、ノリの写真。部屋の天井。また画面。
でも、いいねを送った。
送ってから、スマホを伏せて目を閉じた。心臓が、少しだけ速かった。
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翌朝、マッチ成立。向こうも右スワイプしていた。
既読がつくまでの数秒、コーヒーを淹れる手が止まった。
「……気づいてますよね」
最初の一文、それだけ送った。ごまかす気はなかった。
「気づいてます笑 タカシの元カノさんでしたよね」
「そうです。ちゃんと話したくてメッセージしました。マッチしたまま無視するのが嫌だったので」
少し間があった。既読がついて、でも返信が来るまでに時間があった。その間、窓の外を見ていた。曇り空。洗濯物を干すか迷う、そういう日の空。
「タカシは知ってますか」
「知りません。言った方がいいですか」
「どうだろ……。二人がどうなるかによっては、言っておいた方がいい気もする」
「会ってもらえますか。話しながら決めたい」
「いいですよ」
たった5往復。それだけで、会う約束ができた。
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三軒茶屋の路地の奥。カウンターだけの、名前も看板もほとんど出ていないバー。
ノリはすでに来ていた。カウンターの隅、手元に生ビール。私が入っていくと、軽く手を上げた。
最初の10分、お互いのビールのグラスを交互に見ながら話した。木のカウンターが古くて、傷がいっぱいついていた。誰かが長い時間をかけてつけた傷。それをなんとなく指でなぞりながら、タカシとの話をした。嫌いで別れたわけじゃないこと、自然消滅だったこと、今も悪く思っていないこと。全部、正直に。
ノリは黙って聞いていた。口を挟まなかった。
「俺がマッチした時、ちょっとびっくりしたけど、嫌じゃなかったんですよね」
グラスに手をかけたまま、ノリが言った。
「タカシとの話も聞かせてもらった上で、それでも気になるってなれば、まあ……」
「まあ?」
「タカシには話します、ちゃんと。それからでいいですか」
「うん。その方が私もスッキリします」
ビールを飲み終わって、外に出た。三軒茶屋の夜、路地が細くて人とすれ違うたびに歩幅を縮めた。飲み屋の匂い、どこかから流れてくるくぐもった音楽。ノリと並んで歩くと、なんか、変な感じがした。悪い感じじゃない。ただ、変な感じ。好きかどうかも、まだよくわからない。でも、また会いたいとは思った。
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3日後、ノリからLINEが来た。
「タカシに話した。最初は少し沈黙があったけど、『まあ俺たちはとっくに終わってるし、別に構わない』って言ってた」
スマホの画面を見て、息を吐いた。
タカシらしかった。あの人はそういう人だった。感情を引きずらない人。終わったことを、終わったこととして処理できる人。付き合っていた頃は、それが物足りなかった。返信が3日おきになっても、タカシは特に何も言わなかった。責めなかった。ただ、ゆっくりと、何かが終わっていった。
でも今は、その部分が好きだと思った。
矛盾している。わかってる。でも、離れてみて初めてわかることって、たぶんそういうものだ。
その後、ノリと4回会った。三軒茶屋のあのバーにも、もう一度行った。渋谷でご飯も食べた。ヒカリエの裏の、路地にある小さなイタリアン。赤いキャンドルが揺れていて、グラスワインが思ったより美味しかった。会話のテンポは最初の日から変わらなくて、それが心地よかった。
「付き合う」という言葉は、まだ出ていない。
でも、前に進む気持ちはある。
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メッセージを送ることを選んだのは、向こうもいいねを送ってきていたからだ。お互いに気づいていて、お互いが選んだ。複雑な状況でも、ちゃんと話して進める人間が二人いれば、動ける。それだけのことだと思う。
深夜のPairsで、止まって、でも送った。あの時の自分を、今は責める気になれない。
どこに地雷があるかは、動いてみないとわからない。踏んでもいいと思った時だけ、踏めばいい。
この記事を書いた人
27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。