2ヶ月待って待ち疲れた23歳が、自分から「好きです」と送った夜
Tappleで出会って3ヶ月、4回会って、名前のない関係のまま待ち続けた。2月の終わりから書いては消した文面が、3月7日の夜11時についに飛んでいった。
告白のメッセージを初めて書いたのは、2月の終わりだった。
消した。
部屋は乾燥していて、加湿器がじっと白い霧を吐いていた。スマホの画面だけが光っていた。夜中の1時。誰もいない。
3日後にもう一回書いた。「ずっと気になってます。よかったらもっとちゃんと会いたいです」。打ち終えてから読み返して、語尾の弱さに気づく。「よかったら」って何。自分の感情に許可を求めてどうするんだろう。消した。
3回目は「好きです」だけにした。シンプルすぎる。体温がなさすぎる。消した。
4回目は長すぎた。「初めて会った日のこと、ずっと覚えていて」から書き始めたら止まらなくなって、気づいたら400字近くになっていた。読み返したら告白文というより、何か別のものだった。怪文書とでも言うべき何か。消した。
Tappleで彼と一致したのはほぼ3ヶ月前のことで、最初のメッセージのやりとりからなんとなく合う予感がした。ショウタ、25歳、IT系の会社で働いていて、プロフィール写真は逆光で少し見づらかったけどそれが逆に良かった。初デートは表参道のフレンチビストロ。外が好きと言ったら「じゃあテラスにしましょう」って案内してくれた。2月の昼で少し寒くて、コートを脱がずに食べた。向かいに座った彼が「寒くないですか」って聞いてきて、「平気です」って言ったけど内心かなり寒かった。でも外を選んでよかった。空気が動いていた分、緊張がほぐれた気がする。
2回目は新宿御苑の近くのカフェ。3回目は下北沢。古着屋を何軒かはしごして、最後にどこかの路地裏の小さい店で鍋焼きうどんを食べた。彼が「あれ、ここって——」と言いかけて、何かを思い出したように黙った。何を言おうとしたのか、聞けなかった。4回目は恵比寿。
会うたびに楽しかった。毎回、帰り道で「次もある」と思えた。でも関係の名前が何もなかった。
友人に話すたびに「男から告白させないと」と言われた。「先に言ったら負けだよ」という人もいた。なんで恋愛が勝ち負けなんだろうと思ったけれど、黙っていた。黙って待つことが、なんとなく正しいことのような気がしていた。それが正しいかどうかより、みんながそう言うからというだけで。
3月に入って、彼から「また会いたいな」とメッセージが来た。また。また、か。「また」じゃなくて「付き合いたい」が来ない理由が、もうわからなかった。好意はある。確実にある。でもその好意がどこへも行かないまま、ただ積み重なっていくだけだった。
待ちくたびれた。
そういう感覚だった。疲弊、とも少し違う。どこかでずっと力を入れ続けて、その力の入れどころが自分でもわからなくなった感じ。
3月7日、木曜日の夜11時。5回目の文面を書いた。
「ショウタさんのこと、ずっと好きです。付き合えたらうれしいです」
余計な前置きを全部削いだ。読み返した。シンプル。体温がある。これでいい。送信。
指が震えていたかどうか、よく覚えていない。送信ボタンを押した瞬間より、押した後の0.5秒のほうが長く感じた。
17分経った。
その17分のことは、細部まで覚えている。最初の5分は布団にうつ伏せになって、スマホを胸の下に敷いた。通知音を聞き逃したくないのか聞きたくないのかわからないまま、とにかく視界からスマホを消したかった。次の5分は仰向けになって、スマホを天井に向けてかかげた。画面はもう暗くなっていた。真っ暗な四角形を天井にかざしながら、何をしているんだろうと思った。最後の7分は正座した。スマホを膝の上に置いた。姿勢だけまともにしても何も変わらない。でもそうしないといられなかった。部屋のどこかで加湿器がまだ動いていた。
通知音。
「俺も好きです」
「ずっと言おうと思ってたけど、踏み出せなかった。ありがとう、送ってくれて」
部屋の中で声が出た。声というより息だったかもしれない。スマホを胸に押し当てたまま、しばらく動けなかった。指先が震えていた。押し当てた場所が熱かった。
翌週の土曜、中目黒で会った。目黒川沿いを歩いた。3月の中旬で、桜はまだ全然で、川沿いの木々は枯れ枝のままだった。それでも人が多かった。みんな少しずつ、春を先取りしようとしているみたいに。
橋の上で立ち止まった時に、彼が「改めてよろしくお願いします」と言った。ちょっと噛んだ。「よろ、しくお願いします」。耳まで赤かった。川の水面が光を反射してきらきらしていて、彼の横顔に当たっていた。
2ヶ月間、彼も踏み出せずにいた。同じ場所で足踏みしていた。私が知らないだけで、彼も文面を書いては消していたのかもしれない。その可能性に気づいた時、あの17分間の正座が少しだけ報われた気がした。
先に動いたのが私でよかった。
「先に言ったら負け」なんかじゃなかった。勝ち負けの話じゃそもそもなかった。ただ、どちらかが先に「怖い」より「伝えたい」を選ぶか、それだけの話だった。
待っている間、私はずっと彼の意志を待っていた。でも本当に待つべきだったのは、自分の意志が固まる瞬間だったのかもしれない。2月から3月まで、4回消した文面は全部、まだ固まりきっていない意志の残骸だった。
5回目が飛んでいったのは、もう迷いがなかったからじゃない。迷ったまま、それでも送ることにしたから。
告白は、タイミングじゃない。覚悟でもない。「もう待てない」という、静かな意志の問題だ。
この記事を書いた人
27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。