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恋愛体験談Tapple

5回目のデートで彼の誕生日サプライズを計画した24歳の話

Tappleで出会った彼のプロフィールに、誕生日が書いてあった。5回目のデートの翌日がその日で、私はカップケーキを2個買って、余計なことは何も書かなかった。

24歳・女性の体験
·橘みあ·5分で読める

Tappleで彼と出会ったのは、2月のまだ空気が乾いている頃だった。


ミョウジョウ、ミナミ、26歳。プロフィールの字体が几帳面で、趣味欄には映画と料理と、あと登山、と書いてあった。登山ってどこで、と思いながら、スクロールした指がふと止まった。「3月15日が誕生日です」。


誕生日をプロフィールに書く人を、私はそれまで見たことがなかった。なんで書くんだろう。ほしいから? 知ってほしいから? それとも単純に、埋める項目がなくて入れた? 理由はわからないまま、いいねを押した。


5回目のデートの日程を決めたのは3月の頭で、カレンダーを開いたら候補に挙げた日が3月14日だった。


翌日が、彼の誕生日だ。


スマホを伏せて、天井を見た。5秒くらい、何も考えられなかった。


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吉祥寺の丸井の中にあるスターバックスで友達に会ったのは、それから3日後の土曜日だった。窓の外は小雨で、傘を持っていない人が少し急ぎ足で横を通り過ぎていく。コーヒーが冷めていくのも気づかないまま、私はずっと同じことを話していた。


「早くない? まだ5回目じゃん」


友達はラテを飲みながら、眉を少し寄せた。


「そう、なんだけど」


「好意見せすぎると引かれることあるよ。特に最初の方は」


「でも知ってて何もしないのも、なんか……」


「なんか、何」


言葉が続かなかった。知ってて何もしないことが、嘘をついているみたいで嫌だった。そういうことを口にするのが、なぜかうまくできなかった。


友達はしばらく考えてから、「まあ、ケーキとか高いプレゼントじゃなくて、軽いやつにしたら」と言った。


軽いやつ。


窓の外で、雨が少し強くなった。


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翌日、午前中に地元の洋菓子屋に寄った。ハナブサという店で、駅から徒歩7分、看板は地味で見逃しそうなくらい小さい。でも生クリームが重くなくて、チョコレートケーキがしつこくなくて、私はここが好きだった。誰かに教えたいと思いながら、ずっと教えていなかった場所。


ガラスケースの中を眺めて、カップケーキを2個選んだ。バラのマークが入った小さな箱に入れてもらって、箱の中にカードを一枚挟んだ。


「おめでとうです。食べてください」


それだけ書いた。それ以上は書けなかった。「出会ってすぐ誕生日を覚えていた女の人」みたいに思われたくない気持ちと、思われてもいいかという気持ちが同時にあって、どちらも本当だった。


カードを封筒に入れながら、自分が何をしているのかよくわからなくなった。好きなのか、まだそこまでじゃないのか。5回しか会っていない人のために、駅から7分歩いて、カップケーキを2個選んでいる。これは何なんだろう。


違うかもしれない。


でも、やめる気にもなれなかった。


---


3月14日、下北沢のバーで夜9時近くまで飲んだ。テーブルの上にビールグラスが3つ並んで、つまみの皿が重なって、彼は笑いながら何か話していた。私もちゃんと笑っていたと思う。でも鞄の中の小さな箱のことが、ずっと頭の端にあった。


渡すべきか。渡さないほうがいいか。タイミングが来たら渡す、とは決めていた。でもタイミングってなんだろう。ビールが2杯になって、3杯になっても、私はずっとそのことを考えていた。


店を出た時、空気が少し冷たかった。下北沢の駅前はいつも人が多くて、でも夜遅くなるとその密度が薄くなって、どこか違う街みたいに見える。街灯の光が斜めに差していて、人の影が細長く伸びていた。


「これ」と言って、鞄から箱を出した。声が思ったより小さく出た。


彼が「あ」と言った。


いつもより一音、低い声だった。


「おめでとう」


「ありがとう。……知ってたの」


「プロフィールに書いてあった」


「覚えてくれてたの」


照れていた。視線が私から少し逸れて、街灯の光の方に向いた。その一瞬の間に、彼の目元に影ができていた。


「重かった?」


正直に聞いた。喉の奥がひりついていた。胃のあたりに何かが詰まっているみたいで、うまく息が吸えない感じがした。


「……全然」少し間があった。「嬉しかった。まじで」


風が吹いて、前髪が揺れた。


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帰りの電車の中で、膝の上に手を置いたまま動かせなかった。手のひらが汗をかいていた。緊張していたのか、安堵していたのか、自分でもわからなかった。たぶん両方だった。


「早すぎる」というルールは、誰が作ったんだろう。5回しか会っていない人でも、誕生日を知っていて、その日が来たら、祝いたいと思う気持ちは、おかしくないと思う。でも誰かにそう言われると、おかしいかもと思ってしまう。24歳で、まだそういうことが全然わかっていなかった。


翌日の朝、ハナブサの箱に残っていたカップケーキをひとつ食べながら、スマホを開いた。


「おいしかった、一人で2個食べた」


彼からのメッセージを読んで、喉の奥が緩んだ。コーヒーを一口飲んで、また一口飲んだ。朝の光が窓から入ってきていて、テーブルの上が白く明るかった。


昨日の夜に感じていた、胃の詰まりみたいなものが、もうなかった。


今なら少しわかる。「軽いやつ」にしたのは正解だった。でも「やらない」は、たぶん正解じゃなかった。渡した時の彼の「あ」という声、一音低いあの声は、何にも替えられない。後悔しなかった、というより、後悔する選択肢に最初から気づいていた。だから動いた。それだけのことだった。


気が早すぎる後悔より、やらなかった後悔のほうが、ずっと長く残る。

この記事を書いた人

橘みあマッチングアプリ体験談ライター

27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。

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