恋のアーカイブ
恋愛体験談エッセイPairs

職場の同僚がPairsに出てきた。スキップするか、いいねするか、3秒迷った

金曜の夜、ソファでPairsをスワイプしていたら、隣の席の田中さんが出てきた。写真は見覚えのあるジャケット。指が止まった。スキップか、いいねか。3秒が永遠に感じられた夜と、翌日のオフィスで起きたこと。

27歳・女性の体験
·橘みあ·5分で読める

金曜の22時、部屋着のまま。


ソファに横になってPairsを開いた。今週は残業続きで、木曜にやっと1人にいいねを送っただけ。疲れた頭で、流れてくる顔をスワイプしていた。右、左、左。考えるより指が先に動く、あの感じ。


そこに、田中さんが出てきた。


総務部の田中さん。席が斜め前で、毎朝「おはようございます」と言い合う距離。写真は私服だったけど、3枚目に映っていたネイビーのジャケットに見覚えがあった。先月の歓迎会で着ていたやつだ。間違いない。


心臓がドクンと跳ねた。


指がスマホの上で止まって、画面の田中さんがこっちを向いていた。笑っている。知らない笑顔だった。オフィスで見るのとは違う、少しだけ力が抜けた表情。趣味の欄に「休日はランニングしてます」と書いてあった。知らなかった。


3秒。たぶん3秒だった。


スキップか、いいねか。いいねを押したらどうなる。田中さんの画面に私が出る。「え、◯◯さん?」と思われる。月曜のオフィスで、顔を合わせるたびにあの空気になる。スキップしたら——何も起きない。でも私は「田中さんがPairsをやっている」という事実を知ってしまう。知らなかったことには、もう戻れない。


手のひらが汗ばんでいた。たかがスワイプに、こんなに緊張するとは思わなかった。


スキップした。理由は説明できない


左にスワイプした。スキップ。


理由を聞かれたら困る。田中さんが嫌いなわけじゃない。むしろ職場では話しやすい人だし、飲み会で隣になると楽しい。でも「いいね」を押す指にはならなかった。職場の人間関係とアプリの距離感が、頭の中でぐちゃぐちゃになって、考えるのをやめて左に流した。


スマホを閉じた。天井を見た。「見なかったことにしよう」と思った。でも見た。


あのネイビーのジャケット。「休日はランニングしてます」の一行。田中さんにも、オフィスの外の生活があるんだ——当たり前のことなのに、当たり前のことを初めて知った感じがした。喉の奥がきゅっと締まった。


月曜日、席につくまでの30歩


土日は何も手につかなかった。嘘。手にはついた。洗濯もしたし、スーパーにも行った。ただ、レジに並んでいるときに田中さんの顔が浮かんで、「あの人も今ごろスワイプしてるのかな」と思ってしまっただけ。


月曜の朝、渋谷のオフィスに着いた。エレベーターを降りて、自分の席まで30歩くらい。その30歩が長かった。田中さんの席は、私の席から斜め前。視界に入る距離。


「おはようございます」


田中さんが先に言った。いつも通りの声、いつも通りのトーン。私の顔を見て、何も変わった様子はなかった。


「おはようございます」と返した。声、ちょっと裏返ったかもしれない。


席について、パソコンを開いた。隣の同僚が「今日寒くない?」と話しかけてきて、「寒い」と答えながら、視界の端で田中さんがコーヒーを飲んでいるのが見えた。


バレてない。たぶん。


でも、もし田中さん側の画面に私が表示されていたら?もし田中さんが私の写真を見て「あ、◯◯さんだ」と思っていたら?スキップしたのか、いいねしたのか、向こうにはわからない。でも「いる」ことは伝わる。


みぞおちのあたりが、ずっとざわついていた。


向こうも見ていたかもしれない


1週間後、ランチで後輩と話していたとき、後輩が言った。


「先輩、マッチングアプリってやってます?」


胃がひっくり返りそうになった。「え、なんで?」


「いや、最近始めようかなと思って。先輩詳しそうだから」


詳しそう。なんで。何が漏れてる。


「……まあ、ちょっとだけ」


「知り合いとか出てきたことあります?」


コーヒーカップを持つ手が震えた。「ない。ないよ」


嘘をついた。後輩は「そうですかー」と軽く流して、別の話題に移った。胸の裏側がじわっと熱くなった。嘘をつく必要はなかったのに、反射で否定してしまった。


身バレは「見つかること」だけじゃない


あの金曜日から2ヶ月経って、田中さんとは何も変わっていない。相変わらず斜め前の席で、相変わらず毎朝挨拶する。田中さんが私を見つけたかどうかは、わからない。聞く勇気はない。


身バレが怖いのは、「見つかること」だけじゃなかった。「アプリをやっている自分」を知られることが怖いんじゃなくて、「アプリをやっている自分を恥ずかしいと思っている自分」に気づくのが怖かった。


田中さんだってやっていた。私もやっている。恥ずかしいことじゃないはずなのに、あの3秒で、反射的に「バレたらまずい」と思った自分がいた。


Pairsの設定で、距離の絞り込みや職業での表示制限ができることは後から知った。でもそういう機能の話じゃないんだと思う。


月曜の朝、30歩の廊下を歩きながら思ったのは、「次に出てきたら、どうするんだろう」ということだった。


答えはまだ出ていない。

この記事を書いた人

橘みあマッチングアプリ体験談ライター

27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。

この記事が刺さったら、シェアしてください

あなたへのおすすめ

Pairs」に興味があるあなたへ

合コンで「アプリやってる?」と聞かれた。バレてた
恋愛体験談

合コンで「アプリやってる?」と聞かれた。バレてた

大学時代の友達が開いた合コンで、向かいの男に「Pairsやってるでしょ?見たよ」と言われた。グラスを持つ手が固まった。恵比寿の居酒屋で、5人の視線を浴びながら笑うしかなかった夜の話。

女性Pairs|25歳
5
宗教の違いを、付き合う前に聞くべきだった話
恋愛体験談

宗教の違いを、付き合う前に聞くべきだった話

Pairsで出会った彼と付き合って3ヶ月。日曜の朝、彼が毎週どこかに出かけていることに気づいた。聞いてみたら教会だった。宗教のことを付き合う前に聞くべきだったと、今は思う。

女性Pairs|29歳
6
借金を打ち明けられた夜。好きだけでは決められなかった
恋愛体験談

借金を打ち明けられた夜。好きだけでは決められなかった

Pairsで出会った彼との4回目のデート。恵比寿のバーで「実は奨学金が300万ある」と言われた。好きだった。でも、好きだけでは前に進めなかった。あの夜のことを、まだ整理しきれていない。

女性Pairs|27歳
6
うつが落ち着いたあとで恋愛を再開した。会うのが怖かった
恋愛体験談

うつが落ち着いたあとで恋愛を再開した。会うのが怖かった

うつ病で2年間、恋愛から完全に離れた。回復してPairsを始めたけど、「また傷つくかも」という恐怖が常にあった。三軒茶屋のカフェで初めて会った日のことを、書いておきたい。

女性Pairs|28歳
7
アプリをやめた後、半年して戻った。前より楽だった理由
恋愛体験談

アプリをやめた後、半年して戻った。前より楽だった理由

疲れてPairsをアンインストールした。半年間、アプリなしで過ごした。戻ったら不思議と肩の力が抜けていた。何が変わったのか。変わったのはアプリじゃなくて、私の方だった。

女性Pairs|26歳
7
会社の後輩に「アプリで見ました」と言われた月曜の朝。身バレは防げない
マッチングアプリ攻略

会社の後輩に「アプリで見ました」と言われた月曜の朝。身バレは防げない

月曜の朝、給湯室で後輩に「先輩、Pairsにいましたよね?」と言われた。顔から血の気が引く感覚を、31歳で初めて体験した。身バレ対策の現実と、完全には防げない理由を書く。

女性Pairs|31
5

恋愛体験談」はまだ 285 本あります

次の記事

合コンで「アプリやってる?」と聞かれた。バレてた