借金を打ち明けられた夜。好きだけでは決められなかった
Pairsで出会った彼との4回目のデート。恵比寿のバーで「実は奨学金が300万ある」と言われた。好きだった。でも、好きだけでは前に進めなかった。あの夜のことを、まだ整理しきれていない。
4回目のデートだった。恵比寿の裏通りにある、薄暗いバー。
Pairsで出会って1ヶ月半。彼は28歳、IT企業のエンジニア。話が合って、笑いのツボも近くて、LINEの返信テンポもちょうどよかった。3回目のデートで手をつないで、4回目で「付き合おう」と言われると思っていた。
カウンター席で、ジントニックを半分くらい飲んだところで、彼が急に黙った。グラスの水滴を指でなぞりながら、「ちょっと話したいことがあって」と言った。
心臓が跳ねた。告白だ、と思った。
「俺さ、奨学金が300万残ってるんだ」
300万という数字の重さ
300万。
その数字が、バーの薄暗い照明の中でぐるぐる回った。彼は地方の大学を出ていて、学費と生活費を奨学金で賄っていた。卒業後5年、毎月2万円ずつ返している。残りはまだ300万。完済まであと12年以上。
「返済は順調で、滞納はしたことない。でも、付き合う前に知っておいてほしくて」
彼の声は落ち着いていた。目を逸らさなかった。誠実に話してくれている、と頭ではわかった。でも手のひらが冷たくなっていた。グラスを握る指先が、かすかに震えた。
「うん、話してくれてありがとう」
そう言うのが精一杯だった。バーのジャズピアノが、やけに大きく聞こえた。
帰りの山手線の中で、ずっと考えていた。300万の奨学金。犯罪じゃない。ギャンブルで作った借金でもない。学ぶために借りたお金だ。それの何がダメなんだろう。
でも、胃の奥がずっと重かった。「好き」という気持ちと「300万」という数字が、みぞおちのあたりでぶつかっていた。窓の外を流れる夜景を見ながら、涙が出そうになった。告白されると思っていたのに。
母に話したら、空気が変わった
翌日、実家に寄ったとき、何気なく母に話した。「付き合おうとしてる人が、奨学金300万あるんだけど」。
母の箸が止まった。
「300万? それ、結婚したらあなたも一緒に返すことになるのよ」
「奨学金だよ、借金とは違うでしょ」
「借りたお金は借金よ。名前が違うだけ」
母の言葉は、冷たくはなかった。でも、現実的だった。結婚して家庭を持ったら、住宅ローンと奨学金の返済が同時に走る。子どもができたら、教育費も重なる。感情ではなく数字の話だった。
私は看護師で、年収は400万くらい。裕福ではないけど、借金はない。彼のIT企業の年収は聞いていなかったけど、20代後半のエンジニアなら500万前後だろうか。300万は返せない額ではない。でも「ない」のと「ある」のでは、スタートラインが違う。
母の反応を見て、喉の奥がきゅっと締まった。「好き」だけで突き進める年齢じゃないのだと、27歳の私は思い知らされた。
彼に会えなくなった1週間
あの夜から1週間、彼に会えなかった。LINEは続けていたけど、返信が短くなっていたと思う。彼も気づいていたはずだ。
渋谷のスクランブル交差点を歩きながら、スマホを握りしめていた。彼からの「週末、会える?」というメッセージに、既読をつけたまま30分返せなかった。
好きだ。彼のことが好きだ。笑ったときに目尻にしわができるところも、コーヒーにミルクを入れすぎるところも、映画の感想を熱く語るところも。でも、300万という数字が、いつもその後ろに見える。
「気にしすぎじゃない?」と友達に言われた。「奨学金なんて今どき普通だよ」とも言われた。統計上、大学生の半数近くが奨学金を借りている。普通のことだ。頭ではわかっている。でも、感情と計算は別の場所で動いている。
中目黒の川沿いを一人で歩いた夜、スマホの画面を見つめたまま30分経っていた。返信を打っては消し、打っては消した。「会いたい」と打って、消した。「少し考えさせて」と打って、それも消した。結局「うん、会おう」と送った。指が汗ばんでいた。
高円寺のカフェで出した、中途半端な答え
1週間後、高円寺のカフェで彼と会った。
彼は「この前の話、重かったよね」と先に言ってくれた。「無理しなくていいから」と。その優しさが、余計に胸を締めつけた。
「嫌いになったわけじゃない。ただ、少し時間がほしい」
そう言った。彼はうなずいた。コーヒーカップを両手で包みながら、「わかった、待つよ」と言った。その声は、震えてはいなかった。でも、少しだけかすれていた。
帰り道、高円寺の商店街を一人で歩きながら泣いた。好きな人に「待って」と言うのは、「今は無理」と言うのとほぼ同じだ。それをわかっていて言った自分が、ひどく嫌だった。
あれから2ヶ月経った。私たちは付き合っていない。たまにLINEをする。彼は元気そうだ。私は、まだ答えが出ていない。
300万の奨学金は、客観的には大した額じゃないのかもしれない。でも私にとっては、好きだけでは飛び越えられない壁だった。それが自分の器の小ささなのか、現実を見る目があるのか、今でもわからない。
好きと現実のあいだには、誰にも見えない溝がある。
よくある質問
マッチングアプリで出会った相手に借金があると知ったら、どうすればいいですか?↓
奨学金がある人との結婚は避けた方がいいですか?↓
お金の話を恋人に切り出すタイミングはいつがいいですか?↓
この記事を書いた人
27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。