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恋愛体験談エッセイPairs

借金を打ち明けられた夜。好きだけでは決められなかった

Pairsで出会った彼との4回目のデート。恵比寿のバーで「実は奨学金が300万ある」と言われた。好きだった。でも、好きだけでは前に進めなかった。あの夜のことを、まだ整理しきれていない。

27歳・女性の体験
·橘みあ·6分で読める

4回目のデートだった。恵比寿の裏通りにある、薄暗いバー。


Pairsで出会って1ヶ月半。彼は28歳、IT企業のエンジニア。話が合って、笑いのツボも近くて、LINEの返信テンポもちょうどよかった。3回目のデートで手をつないで、4回目で「付き合おう」と言われると思っていた。


カウンター席で、ジントニックを半分くらい飲んだところで、彼が急に黙った。グラスの水滴を指でなぞりながら、「ちょっと話したいことがあって」と言った。


心臓が跳ねた。告白だ、と思った。


「俺さ、奨学金が300万残ってるんだ」


300万という数字の重さ


300万。


その数字が、バーの薄暗い照明の中でぐるぐる回った。彼は地方の大学を出ていて、学費と生活費を奨学金で賄っていた。卒業後5年、毎月2万円ずつ返している。残りはまだ300万。完済まであと12年以上。


「返済は順調で、滞納はしたことない。でも、付き合う前に知っておいてほしくて」


彼の声は落ち着いていた。目を逸らさなかった。誠実に話してくれている、と頭ではわかった。でも手のひらが冷たくなっていた。グラスを握る指先が、かすかに震えた。


「うん、話してくれてありがとう」


そう言うのが精一杯だった。バーのジャズピアノが、やけに大きく聞こえた。


帰りの山手線の中で、ずっと考えていた。300万の奨学金。犯罪じゃない。ギャンブルで作った借金でもない。学ぶために借りたお金だ。それの何がダメなんだろう。


でも、胃の奥がずっと重かった。「好き」という気持ちと「300万」という数字が、みぞおちのあたりでぶつかっていた。窓の外を流れる夜景を見ながら、涙が出そうになった。告白されると思っていたのに。


母に話したら、空気が変わった


翌日、実家に寄ったとき、何気なく母に話した。「付き合おうとしてる人が、奨学金300万あるんだけど」。


母の箸が止まった。


「300万? それ、結婚したらあなたも一緒に返すことになるのよ」


「奨学金だよ、借金とは違うでしょ」


「借りたお金は借金よ。名前が違うだけ」


母の言葉は、冷たくはなかった。でも、現実的だった。結婚して家庭を持ったら、住宅ローンと奨学金の返済が同時に走る。子どもができたら、教育費も重なる。感情ではなく数字の話だった。


私は看護師で、年収は400万くらい。裕福ではないけど、借金はない。彼のIT企業の年収は聞いていなかったけど、20代後半のエンジニアなら500万前後だろうか。300万は返せない額ではない。でも「ない」のと「ある」のでは、スタートラインが違う。


母の反応を見て、喉の奥がきゅっと締まった。「好き」だけで突き進める年齢じゃないのだと、27歳の私は思い知らされた。


彼に会えなくなった1週間


あの夜から1週間、彼に会えなかった。LINEは続けていたけど、返信が短くなっていたと思う。彼も気づいていたはずだ。


渋谷のスクランブル交差点を歩きながら、スマホを握りしめていた。彼からの「週末、会える?」というメッセージに、既読をつけたまま30分返せなかった。


好きだ。彼のことが好きだ。笑ったときに目尻にしわができるところも、コーヒーにミルクを入れすぎるところも、映画の感想を熱く語るところも。でも、300万という数字が、いつもその後ろに見える。


「気にしすぎじゃない?」と友達に言われた。「奨学金なんて今どき普通だよ」とも言われた。統計上、大学生の半数近くが奨学金を借りている。普通のことだ。頭ではわかっている。でも、感情と計算は別の場所で動いている。


中目黒の川沿いを一人で歩いた夜、スマホの画面を見つめたまま30分経っていた。返信を打っては消し、打っては消した。「会いたい」と打って、消した。「少し考えさせて」と打って、それも消した。結局「うん、会おう」と送った。指が汗ばんでいた。


高円寺のカフェで出した、中途半端な答え


1週間後、高円寺のカフェで彼と会った。


彼は「この前の話、重かったよね」と先に言ってくれた。「無理しなくていいから」と。その優しさが、余計に胸を締めつけた。


「嫌いになったわけじゃない。ただ、少し時間がほしい」


そう言った。彼はうなずいた。コーヒーカップを両手で包みながら、「わかった、待つよ」と言った。その声は、震えてはいなかった。でも、少しだけかすれていた。


帰り道、高円寺の商店街を一人で歩きながら泣いた。好きな人に「待って」と言うのは、「今は無理」と言うのとほぼ同じだ。それをわかっていて言った自分が、ひどく嫌だった。


あれから2ヶ月経った。私たちは付き合っていない。たまにLINEをする。彼は元気そうだ。私は、まだ答えが出ていない。


300万の奨学金は、客観的には大した額じゃないのかもしれない。でも私にとっては、好きだけでは飛び越えられない壁だった。それが自分の器の小ささなのか、現実を見る目があるのか、今でもわからない。


好きと現実のあいだには、誰にも見えない溝がある。

よくある質問

マッチングアプリで出会った相手に借金があると知ったら、どうすればいいですか?
まず借金の種類を確認してください。奨学金、車のローン、消費者金融、ギャンブルなどでは深刻度がまったく違います。次に返済計画があるかどうか。毎月いくら返していて、あと何年で完済するか具体的に聞ける関係なら、冷静に判断できます。感情だけで決めず、数字を一緒に見ることが第一歩です。
奨学金がある人との結婚は避けた方がいいですか?
奨学金があるだけで結婚を避けるのは早計です。今の日本では大学生の約半数が奨学金を借りています。問題は金額と返済状況、そして相手のお金に対する考え方です。計画的に返している人と無計画に借りた人では全然違います。ただし結婚すれば家計に影響するのは事実なので、結婚前にお互いの資産と負債をオープンにする会話は避けて通れません。
お金の話を恋人に切り出すタイミングはいつがいいですか?
付き合う前、できれば3〜4回目のデートで伝えるのがベストだと経験から感じました。感情が深まりすぎると、知った側は冷静な判断ができなくなります。彼のように付き合う前に打ち明けてくれたのは誠実でしたが、もう少し早い段階——たとえば2回目のデートで軽く触れてくれていたら、私も心の準備ができたかもしれません。

この記事を書いた人

橘みあマッチングアプリ体験談ライター

27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。

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