恋のアーカイブ
恋愛体験談エッセイwith

発達特性がある私が、初デートで一番困ったこと

ASD傾向がある26歳男性。withで出会った人との初デートで、目を合わせるのが苦手、カフェの環境音がつらい、沈黙が怖い。でも工夫次第で乗り越えられることもあった。

26歳・男性の体験
·橘みあ·7分で読める

カフェのドアを開けた瞬間、耳が痛くなった。


withで2週間やりとりした人との初デート。待ち合わせは渋谷のカフェだった。日曜の14時、店内は満席に近くて、隣のテーブルの笑い声、食器がぶつかる音、エスプレッソマシンの蒸気音が全部同時に耳に入ってきた。


僕にはASD(自閉スペクトラム症)の傾向がある。診断を受けたのは大学3年のとき。感覚過敏があって、特に聴覚が敏感だ。騒がしい場所にいると、すべての音が同じ音量で聞こえる。普通の人が自然にフィルタリングできる背景音を、僕の脳はフィルタリングしてくれない。


ドアの前で一瞬立ち止まった。手のひらが汗ばんでいた。引き返したい衝動を、奥歯を噛んで抑えた。


目が合わせられない問題


彼女は窓際の席に先に座っていた。手を振ってくれた。席についた瞬間から、問題が始まった。


目を合わせるのが、苦手だ。


ASDの特性として、アイコンタクトが難しいことがある。相手の目を見ると、情報量が多すぎて処理が追いつかない。かといって目を逸らし続けると「話を聞いていない」と思われる。この板挟みが、初対面では特にきつい。


彼女が「はじめまして」と笑ったとき、僕は彼女の眉間のあたりを見ていた。目ではなく、眉間。これは大学時代にカウンセラーに教わったテクニックだ。相手からは目を見ているように見えるけど、こちらは直接目を見なくて済む。


でもカフェの騒音のせいで、彼女の声が聞き取りにくかった。聞き返すたびに、彼女が少し困った顔をした。申し訳なさで胃がきゅっと締まった。


沈黙が怖い、でも話題が浮かばない


withのメッセージでは会話が弾んでいた。テキストなら考える時間がある。返信を推敲できる。でも対面の会話は、リアルタイムだ。


沈黙が3秒続くと、頭の中で警報が鳴る。「何か話さないと」「つまらないと思われている」「もう帰りたいと思っているかも」。思考がぐるぐる回って、余計に言葉が出てこなくなる。


彼女が「お仕事は何されてるんですか」と聞いてくれた。「SEです」と答えた。そこで止まった。普通なら「どんな仕事してるんですか」と聞き返すべきだった。でもその瞬間、隣のテーブルから椅子を引く音がして、意識がそっちに持っていかれた。


「あ、すみません。えっと、○○さんは?」


2秒遅れた質問。彼女は気にしていない顔をしてくれたけど、自分の中ではもう減点だった。こういう小さなずれが積み重なって、自信を削っていく。


下北沢に場所を変えた判断


30分くらい経ったとき、限界が来た。耳鳴りがし始めて、彼女の話に集中できなくなった。


「あの、ちょっと提案なんですけど」


思い切って言った。「ここ、ちょっと騒がしくて聞き取りにくくて。もし良ければ場所を変えませんか」。


言った瞬間、心臓がバクバクした。「面倒くさい人」と思われたかもしれない。でも彼女は「あ、確かにうるさいですよね。全然いいですよ」と笑ってくれた。


下北沢まで歩いた。歩きながらの方が、目を合わせなくていいから楽だった。隣に並んで歩くと、前を向いたまま話せる。アイコンタクトのプレッシャーがなくなった途端、言葉が自然に出てきた。


下北沢の路地裏にある、小さなカフェに入った。席が3つしかない店で、他の客はいなかった。BGMはアコースティックギターの静かな曲。耳が楽になった瞬間、肩の力が抜けた。


「さっきの店より全然いいですね」と彼女が言った。「ですよね」と僕は答えた。声が自分のものに戻った感覚があった。


工夫次第で、デートはできる


あのデートから学んだことがある。


場所選びは、事前に下見した方がいい。騒がしさ、照明の明るさ、席の配置。これを確認するだけで、当日の負担が全然違う。僕はそれ以降、初デートは必ず自分が行ったことのある店を選ぶようにした。


歩きながら話す、という選択肢を持っておくのも助かった。代官山から中目黒まで散歩するコースは、目を合わせずに話せるし、景色が話題になる。沈黙が生まれても、歩いているだけで「気まずい沈黙」にならない。


自分の特性を相手に伝えるかどうかは、まだ迷っている。あの日の彼女には言わなかった。「騒がしいのが苦手」とだけ伝えた。それで十分だった気もするし、もう少し正直に話してもよかった気もする。


withのメッセージで「実は人混みが苦手で」と先に伝えておくのもありだと、今は思う。それで引く人なら、会ってからもっと困ることになる。


2回目のデートは、自分で場所を選んだ


彼女と2回目のデートをした。場所は僕が選んだ。吉祥寺の、席数が少なくて静かなカフェ。事前に一人で行って、音量と席の間隔を確認した。


彼女が来たとき、「ここ、すごくいい店ですね」と言ってくれた。その一言で、手のひらの汗が引いた。


完璧なデートではなかった。それでも、1回目よりずっと楽に話せた。目は相変わらず合わせられなかったけど、コーヒーカップを見ながら話す僕を、彼女は否定しなかった。


苦手なことは消えない。でも、工夫で小さくはできる。

よくある質問

発達障害がある場合、マッチングアプリでの初デートはどう工夫すればいいですか?
場所選びが最も大切です。事前に下見をして、騒がしさ・照明・席の配置を確認してください。感覚過敏がある場合は席数の少ない静かなカフェを選ぶか、散歩デートにするとアイコンタクトの負担も減ります。自分が安心できる場所をストックしておくと、デートのたびに悩まずに済みます。
ASDの特性を相手に伝えるタイミングはいつがいいですか?
正解は一つではありませんが、メッセージの段階で「人混みが苦手」「静かな場所が好き」と軽く伝えておくのが負担が少ないです。診断名まで言う必要はなく、具体的な困りごとを伝える形でも十分伝わります。それで引く相手なら、会ってからもっと困ることになるので、ある意味フィルターにもなります。
デート中に感覚過敏がつらくなったら、どう伝えればいいですか?
「ここちょっと騒がしくて聞き取りにくいので、場所変えませんか」と正直に言うのが一番でした。相手の多くは気にしません。言わずに我慢し続けると会話に集中できなくなり、結果的にデート全体の印象が悪くなります。自分を守ることが、相手との時間を守ることにもつながると感じました。

この記事を書いた人

橘みあマッチングアプリ体験談ライター

27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。

この記事が刺さったら、シェアしてください

あなたへのおすすめ

発達障害」に興味があるあなたへ

好きだけど、何かが引っかかる。初デート後の違和感を無視しなかった話
恋愛体験談

好きだけど、何かが引っかかる。初デート後の違和感を無視しなかった話

withで出会った人との初デート。楽しかった。笑った。でも帰り道、胸の奥に小さな引っかかりがあった。言語化できない違和感。それを無視せずに行動した結果と、直感が正しかった話。

女性with|27
8
めんどくさいのに続けた理由と、急に楽になった瞬間
恋愛体験談

めんどくさいのに続けた理由と、急に楽になった瞬間

プロフィール作りがめんどくさい、メッセージがめんどくさい、デートの調整がめんどくさい。3回やめかけたwithを続けていたら、ある日「この人だ」が来た。面倒の先にしか出会えない人がいた話。

with
5
withの相性診断で96%だった人と、3回目のデートで別れた。数字の罠の話
恋愛体験談

withの相性診断で96%だった人と、3回目のデートで別れた。数字の罠の話

withの心理テストで「相性96%」と表示された。運命だと思った。メッセージも弾んだ。デートも楽しかった。でも3回目のデートで「この人とは合わない」と確信した。96%が教えてくれなかった4%の話。

女性with|26
8
33歳でバツイチになって、1年後にwithを始めた。怖かったことと、想定外だったこと
恋愛体験談

33歳でバツイチになって、1年後にwithを始めた。怖かったことと、想定外だったこと

離婚届を出した帰り道、西早稲田の蕎麦屋でひとりざる蕎麦を食べた。1年後にwithで出会った人に「バツイチです」と言ったとき、想定外の言葉が返ってきた。離婚届を出した帰り道、西早稲田の古い蕎麦屋に入った。

女性with|33歳
5
withで元カレのプロフィールを見つけた夜、私はスワイプできなかった
恋愛体験談

withで元カレのプロフィールを見つけた夜、私はスワイプできなかった

別れて4ヶ月、久しぶりにwithを開いたらカードをスワイプしていた。そこに元カレのプロフィールが出てきた。左も右も押せないまま、1分間だけ画面の前で固まった。ちゃんと終わっていなかった何かに向き合った夜のこと。

女性with|25歳
4
空港で会うまで、顔を見ていなかった
恋愛体験談

空港で会うまで、顔を見ていなかった

withでマッチングして1ヶ月、声も動く姿も知らないまま羽田空港の到着ロビーに立っていた。マッチングアプリ体験談——顔は分かる、でも笑い方も声も何も知らない人を初めて「実物」として見た瞬間の「あ、この人だ」の話。

女性with|27歳
6

恋愛体験談」はまだ 263 本あります

次の記事

うつが落ち着いたあとで恋愛を再開した。会うのが怖かった