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恋愛体験談エッセイ

3ヶ月、夜のジムで後悔しながら目で追っていた話。名前も知らない人のこと

代々木上原のジムで週3回、3ヶ月間名前も知らない人の「有酸素→ウェイト→ストレッチ」を目で追い続けた。いない日だけ気づいていた。ジムでの出会い体験談——「ケーブルのセッティング」がなければ今でも他人だったかもしれない話。

27歳・女性の体験
·橘みあ·6分で読める

正直に言う。夜7時の更衣室で気づいたのに、3ヶ月かかった。


代々木上原駅から徒歩3分、エレベーターで4階に上がるといつも同じ顔ぶれがいる。痩せたいわけじゃなかった。強くなりたいのかと聞かれれば、それも少し違う。ただ週3回この時間にここへ来ることが、生活のリズムになっていた。


その人のことも、最初はそういう「いつもいる人」のひとりだった。


有酸素から始めて、ウェイトに移って、最後はストレッチ。ルーティンが私とほぼ同じだった。だから視界に入る。それだけのことだと思っていた。最初の1ヶ月は。


「この人、いない」と気づいた火曜日


「この人、いつもいるな」


それが変質するのに気づいたのは、2ヶ月目が終わるころだった。気づいた、というよりも、あとから気づいた。ある火曜日、ジムに入ってトレッドミルのフロアを見渡して、いない、と思ったとき。胸のあたりが——なんというか、空気が抜けた感じがして。その感覚を持て余したまま、いつもより10分早くジムを出た。


好きかどうか、わからなかった。


名前も知らない、声を聞いたこともない人を好きになれるのか、という話ではなくて。好きという言葉がその感覚に合っているのかが、わからなかった。ただ、いない日だけがわかる。それが3ヶ月という時間だった。


話しかけられなかった理由は、いくつかある。ジムはほぼ全員がイヤホンをしている場所で、声をかけるための隙間がどこにもなかった。話しかけられないという以上に、話しかける口実がなかった。「同じ時間に来てますよね」は言えない。「よく見てましたよね」と言われたら、なんと答えるのか。実際よく見ていたから。


Spotifyのシャッフルで知らない曲が流れるまま、ただペダルを漕いでいた夜が何度あったかわからない。


火曜と木曜と土曜。その三日のうち、どれか一つでもいない日があると、残りの2日が少し違う色になった。いる日はいつもより少し長くストレッチをした。いない日は少し早く上がった。自分でもおかしいと思いながら、そのルーティンが続いた。


3ヶ月目に入ったころ、名前を確認しようとしたことがある。ロッカーのネームプレートを盗み見ようとしたけど、そもそも同じ棟じゃないとわからない。ジムのスタッフに聞くわけにもいかない。顔を覚えているだけで、それ以上は何もわからないまま、冬が近づいてきた。


あのケーブルマシンの質問がなければ、今日もすれ違っていた


きっかけは、本当に偶然だった。


11月の、冷えが床から這い上がってくる夜。ケーブルマシンのそばでプレートの位置を調整していたら、横に気配がした。


「あの、このケーブルのセッティング、どうやるんですか」


声を、初めて聞いた。思っていたよりも低くて、少し照れているような感じがした。


「こうです」と言いながら実際にやってみせた。説明しながら、心臓がうるさかった。それを悟られていないかどうかばかり考えていた。


「ありがとうございます。あの、いつも見かけますよね」


向こうから言った。私が3ヶ月かけて言えなかったことを、あっさり。


「そうですね、よく来てます」


我ながら素っ気なかったと思う。でもそれで話が始まった。何ヶ月通っているか、どこの駅を使っているか。同じ駅だとわかったとき、なんだか笑ってしまった。3ヶ月、同じ電車に乗っていたかもしれない。


「ジムの後、どこかで話しませんか」


自分でも驚いた。そんな言葉が出てくるとは思っていなかった。


「いいですよ」


即答だった。


シャワーを浴びて、駅近くのCaféMARUNIに入った。注文したホットコーヒーが少し渋くて、でも温かかった。ジムの話から、趣味の話になって、音楽の話になった。お互いがASIAN KUNG-FU GENERATIONが好きだとわかったとき、「本当に?」と声が重なった。


「3ヶ月くらいすれ違ってましたね」と言ってみた。


少し間があった。


「実は、話しかけようと思ったこと、ありました」


「——なんで言わなかったんですか」


「なんとなく」


なんとなく。その言葉がおかしくて、ふたりで笑った。私も同じだったから。理由なんてなかった。きっかけがなかったというよりも、踏み出せなかっただけで、3ヶ月という時間はただそこにあっただけだった。


帰り道、代々木上原の改札を抜けるところで「また今度、ジムの後に飯でも行きますか」と言ったら「ぜひ」と返ってきた。風が冷たかった。マフラーに顔を半分埋めながら、ひとりで帰りながら、なんだかずっと口元が緩んでいた。


あれから半年が経った。


今でもジムは一緒に行く。有酸素から始めて、ウェイトに移って、最後はストレッチをして帰る。順番は変わっていない。でも隣のマシンに彼がいることの意味は、あのころとまったく違う。「この人、いない」と気づいて胸が空いた夜のことを、今なら笑って話せる。当時は笑えなかったけれど。


踏み出せなかったのに、あの一瞬が長く続いた。

よくある質問

どこのジムで知り合ったのですか?
代々木上原駅から徒歩3分のジムで、週3回通っていたとあります。エレベーターで4階に上がるといつも同じ顔ぶれがいる場所でした。
3ヶ月間、なぜ話しかけられなかったのですか?
ルーティンが自分とほぼ同じで視界に入るだけと思っていたものが、2ヶ月目が終わるころから「いない日だけ気づく」ほどに変わっていったとのことです。話しかけるきっかけがなかったようです。

この記事を書いた人

橘みあマッチングアプリ体験談ライター

27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。

#ストーリー#ジム#きっかけ

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