料理教室でマッチングした人と、家で初めて料理を作った夜
「イタリア料理教室に通ってます」というプロフィールに「教えてほしい」と送ったら、彼女は本当に来た。
「料理好きです。今、イタリア料理教室に通ってます」というプロフィールを見て、「ぜひ教えてほしいです」と送ったのは、完全にノリだった。
Pairsでのメッセージは最初の一言が全てで、どうせなら普通じゃないことを言おうと思った。「いいねありがとうございます」「プロフィール拝見しました」ではなく。彼女のプロフィールに書いてあった「料理教室に通ってます」という一行に素直に反応した結果、「教えてほしいです、マジで。イタリア料理は難しくて自分では無理でした」という一文を送った。
返信は3時間後に来た。「難しいですか?笑 私が教えてあげましょうか」。
返事の「笑」に、少しほっとした。真剣に受け取られすぎてもどうかと思っていたから。
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彼女——咲、27歳——とのやりとりは最初から料理の話ばかりで、途中から本当に料理を教えてもらう約束になっていた。「どこかで会って」という流れではなく、「家で実際に作る」という着地点になったのは、お互い自然にそうなった感じだった。
「何が得意ですか?」と私が聞いたら、「最近はカチャトーラを練習してます」と来た。「肉の煮込みのやつですよね。それにしましょう」と言ったら「いいですよ。材料何が家にありますか」とすぐ話が進んだ。
食材は事前にリストを送ってくれた。「鶏もも肉、トマト缶、玉ねぎ、セロリ、オリーブオイル、ワイン(赤)、ローズマリーかタイム」。「全部買います」と返したら「私も追加で何か買っていきます」と来た。「いいですよ」「気になるので」。こういう返し方をする人、好きだと思った。
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会ったのは金曜日の夜。
玄関で「いらっしゃいませ」と言ったら笑われた。エコバッグを二つ持っていて、「食材、追加で買ってきました」と言う。「え、私が持ってきましたよ」と言ったら、「私の方が安心なので」と平然と答えた。
靴を脱いで上がって、キッチンを見渡す。「小さいですね」と彼女が言った。「1Kなので」「二人で立てますか」「ぎりぎり」「ぎりぎりでやりましょう」。
キッチンは1Kの部屋の小さいやつで、二人立つと肩が触れる広さだった。
「包丁どこですか」「引き出しの一番上」「まな板は」「コンロの横」。テキパキしていた。私は何をすればいいかわからなくて、とりあえず玉ねぎの皮をむいていた。
「玉ねぎ、薄切りにしてください。繊維に沿って」
「繊維って」
「縦方向ですよ。球の縦線に沿って」
「ああ、こう?」
「そうそう、でももう少し細く」
目の前で包丁を持って指示してくれる。距離が近い。コンロで鶏肉を焼く油の音がして、ローズマリーの香りが部屋に広がった。SHIROのホームフレグランスとも違う、生の植物の香り。
「ワイン、入れますよ」と彼女が言って、赤ワインをなべにじゅっと入れる。一瞬火が揺れた。「うわ」と私が言ったら、「よくあります」と彼女が落ち着いて答えた。
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40分、煮込みながら並んで待った。
コンロの前に二人で立って、時々蓋を開けて確認する。ローズマリーとトマトの香りが部屋に充満して、窓を少し開けた。夜風が入ってきた。
「料理教室、どんな感じですか」と聞いたら、「先生が厳しくて」と言いながら笑った。「厳しいってどう厳しいんですか」「塩の量がちょっと多いだけで、なんで多くした、って聞いてくる」「それは確かに」「でも理由を言えると褒めてくれる。バランスを取りたかったから、って言ったら、ならもう少し酸味も入れて、って言われて、そのやりとりが面白い」。
話しながら、時々かき混ぜる。腕が触れた。どちらも気づいていた気がする。でも何も言わなかった。
カチャトーラが完成した。皿に盛って、赤ワインを注いで向かい合って座った。「いただきます」と言ってフォークを入れると、鶏肉がやわらかくほぐれた。トマトの酸味とローズマリーの香りが混ざって、口の中に広がった。
「おいしい」と私が言ったら、「よかった」と彼女が言って、少し肩の力が抜けるのがわかった。それまでずっと集中してたんだな、と思ったら、なんか胸が詰まった。
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食器を洗いながら、「来週リゾット教えましょうか」と彼女が言った。
「来てくれるんですか」
「来ますよ。リゾットはかき混ぜるのにコツがいるんで、見てないと伝わりにくい」
「助かります」
「キッチン、もう少し広いといいですね」
「引っ越しましょうか」
「急すぎます」
皿の上の残ったトマトソースが、ワインの照明を受けて少し光っていた。肩が当たるほど近くに立って、ローズマリーと赤ワインの香りが混ざって、その夜の空気感はずっと覚えている。
来週もここにいてほしい。言えなかったけど、鍋を洗いながらずっとそう思っていた。
翌週、本当に来た。
リゾットは40分かきまぜ続ける料理で、私は途中で腕が疲れた。「代わります」と彼女が言って、鍋の前に立つ。その後ろで私は休みながら、彼女が木べらを動かし続けるのを見ていた。ローズマリーより柔らかい、パルメザンチーズの香りが漂い始めた。
「うまくなりましたね、見てる感じが」と彼女が言った。「私じゃなくて、あなたが作ってます」「でもちゃんと見てるから」。
その夜以来、私たちは毎週金曜日にどちらかの家で料理を作るようになった。
この記事を書いた人
27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。