2月の札幌、雪が全部の沈黙を埋めてくれた
初デートで緊張しすぎた私を、大通公園の雪が助けてくれた。積もった雪の街は音を吸って、不思議と静かで、言葉の隙間が怖くなかった。
2月の第2土曜。最高気温マイナス3度の予報が出ていた。
初デートで雪の中を歩くことになるとは思ってなかった。Pairsで彼——Ryoさん——とマッチしたのは1月の終わりで、プロフィールを見ると趣味欄に「スキー(年に5回は行く)」「写真」「自炊」とあった。私はスキーをしないし、写真にも詳しくない。でも「自炊」だけわかって、「何が得意ですか?」と聞いたら「豚汁が割と好評です」と返ってきた。
豚汁を得意料理と言える人は、根がまじめだと勝手に思っている。
2週間のやりとりを経て、会うことになった。場所は大通公園近くで待ち合わせ。その日の朝から雪が降ってた。大きな雪。積もる雪。出かける前に鏡を見て、コートの選択を間違えたと気づいた(ユニクロのダウンにすべきところをウールのコートにしてしまった)。
大通公園に着いた。白かった。
木の枝に雪が積もって、噴水の台座が雪に埋まって、遠くにテレビ塔が見える。人はいるけど少ない。雪の日の公園の静けさは東京とは全然違う。雪が音を吸ってる。
彼が来た。コートに肩パッドが入ったやつ。寒そうではあるけど、思ったより似合ってた。「寒い日にすみません」と第一声。「いえ」と私が返した。なんかよくわからないやりとりをした後、「歩きますか?」ということになった。
大通公園を西から東に向かって歩いた。踏んでいない雪のところを踏むと、ぐ、という感触がある。彼が先に踏んで、「踏んでいいですよ」と言った。小学生みたいだと思ったけど、私も踏んだ。確かに良かった。
「スキー、よく行くんですか?」
「今シーズンはもう3回行きました。ニセコと富良野と、あと先週キロロ」
「キロロってどこですか?」
「赤井川村。小樽からバスで1時間くらい。パウダースノーで有名で」
「パウダースノー」
「フカフカの雪です。今日みたいなやつ」
「今日の雪もそうなんですね」
「もうちょっと降れば、そうかな」
スキーのことは全然わからなかったけど、彼が話す時に少し表情が変わった。目の焦点が少し遠くなる。好きなことを話す時の顔。
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3回目のデートは、図書館で黙って本を読んだ
「図書館でそれぞれ本を読みましょう」。変なデートだと思った。でも千駄木の図書館で4時間過ごして、帰り道、私は初めてこの人のことが好きだと気づいた。
大通公園を端まで歩いて、テレビ塔の近くまで来た。ベンチに雪が積もってた。二人で並んで、遠くを見た。雪がまだふわふわと落ちてくる。会話が途切れた。
東京だったら、沈黙が怖い。何か言わなきゃと焦る。でも、雪の中だと違った。雪が音を全部吸ってくれて、沈黙が「何もない」じゃなくて「静かだ」になった。怖くなかった。
「ご飯行きましょうか」
彼が言った。
すすきのの近くにあるスープカレーの店に連れて行ってもらった。外が寒い分、店の中に入った瞬間の暖かさが強烈だった。コートを脱いで、スープカレーを注文した。チキンと野菜。スパイスの香りが鼻の奥に届いて、冷えた体が中から溶けていく感じがした。
スプーンでスープをすくって飲んだ。体の内側から温まる。「おいしい」と言ったら、彼も「おいしいですね」と言った。並んで同じスープカレーを食べているのに、なんか笑えた。
「さっき雪の中、沈黙あったじゃないですか」
彼が急に言い出した。
「はい」
「あれ、すみません。何か言わなきゃと思ったんですけど……雪見てたら、でいいかなって」
「でいいと思いました、私も」
「そう? 良かった」
「なんか、雪がいてくれたから」
「雪がいてくれた、良い言い方ですね」
「え、いや、言い方よくなかったかも」
「いや、いいですよ。雪がいてくれた、確かに」
そのまま話が続いた。雪の話から、冬が好きかどうか、春になったら何がしたいか、夏は苦手かどうか(二人とも苦手だった)。カレーが冷めてきた頃には、3時間が経っていた。
帰り際、大通公園の前でまた立ち止まった。雪はもう止んでいて、街が静かに白かった。
「また来月、来れますか?」
彼が言った。今度は沈黙なし。
「来れます」
「次は晴れてる日に来てほしいです。晴れた日の大通公園も全然違うから」
「また連れてきてくれるんですか?」
「はい」
それだけで、なんか首の後ろが温かくなった。コートが薄かったからじゃなくて。
雪の日の初デートは、沈黙が怖くなかった。それだけで十分だった。それ以上のものが、その後ちゃんとついてきた。
この記事を書いた人
27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。