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2月の札幌、雪が全部の沈黙を埋めてくれた

初デートで緊張しすぎた私を、大通公園の雪が助けてくれた。積もった雪の街は音を吸って、不思議と静かで、言葉の隙間が怖くなかった。

24歳・女性の体験
·橘みあ·5分で読める

2月の第2土曜。最高気温マイナス3度の予報が出ていた。


初デートで雪の中を歩くことになるとは思ってなかった。Pairsで彼——Ryoさん——とマッチしたのは1月の終わりで、プロフィールを見ると趣味欄に「スキー(年に5回は行く)」「写真」「自炊」とあった。私はスキーをしないし、写真にも詳しくない。でも「自炊」だけわかって、「何が得意ですか?」と聞いたら「豚汁が割と好評です」と返ってきた。


豚汁を得意料理と言える人は、根がまじめだと勝手に思っている。


2週間のやりとりを経て、会うことになった。場所は大通公園近くで待ち合わせ。その日の朝から雪が降ってた。大きな雪。積もる雪。出かける前に鏡を見て、コートの選択を間違えたと気づいた(ユニクロのダウンにすべきところをウールのコートにしてしまった)。


大通公園に着いた。白かった。


木の枝に雪が積もって、噴水の台座が雪に埋まって、遠くにテレビ塔が見える。人はいるけど少ない。雪の日の公園の静けさは東京とは全然違う。雪が音を吸ってる。


彼が来た。コートに肩パッドが入ったやつ。寒そうではあるけど、思ったより似合ってた。「寒い日にすみません」と第一声。「いえ」と私が返した。なんかよくわからないやりとりをした後、「歩きますか?」ということになった。


大通公園を西から東に向かって歩いた。踏んでいない雪のところを踏むと、ぐ、という感触がある。彼が先に踏んで、「踏んでいいですよ」と言った。小学生みたいだと思ったけど、私も踏んだ。確かに良かった。


「スキー、よく行くんですか?」


「今シーズンはもう3回行きました。ニセコと富良野と、あと先週キロロ」


「キロロってどこですか?」


「赤井川村。小樽からバスで1時間くらい。パウダースノーで有名で」


「パウダースノー」


「フカフカの雪です。今日みたいなやつ」


「今日の雪もそうなんですね」


「もうちょっと降れば、そうかな」


スキーのことは全然わからなかったけど、彼が話す時に少し表情が変わった。目の焦点が少し遠くなる。好きなことを話す時の顔。


大通公園を端まで歩いて、テレビ塔の近くまで来た。ベンチに雪が積もってた。二人で並んで、遠くを見た。雪がまだふわふわと落ちてくる。会話が途切れた。


東京だったら、沈黙が怖い。何か言わなきゃと焦る。でも、雪の中だと違った。雪が音を全部吸ってくれて、沈黙が「何もない」じゃなくて「静かだ」になった。怖くなかった。


「ご飯行きましょうか」


彼が言った。


すすきのの近くにあるスープカレーの店に連れて行ってもらった。外が寒い分、店の中に入った瞬間の暖かさが強烈だった。コートを脱いで、スープカレーを注文した。チキンと野菜。スパイスの香りが鼻の奥に届いて、冷えた体が中から溶けていく感じがした。


スプーンでスープをすくって飲んだ。体の内側から温まる。「おいしい」と言ったら、彼も「おいしいですね」と言った。並んで同じスープカレーを食べているのに、なんか笑えた。


「さっき雪の中、沈黙あったじゃないですか」


彼が急に言い出した。


「はい」


「あれ、すみません。何か言わなきゃと思ったんですけど……雪見てたら、でいいかなって」


「でいいと思いました、私も」


「そう? 良かった」


「なんか、雪がいてくれたから」


「雪がいてくれた、良い言い方ですね」


「え、いや、言い方よくなかったかも」


「いや、いいですよ。雪がいてくれた、確かに」


そのまま話が続いた。雪の話から、冬が好きかどうか、春になったら何がしたいか、夏は苦手かどうか(二人とも苦手だった)。カレーが冷めてきた頃には、3時間が経っていた。


帰り際、大通公園の前でまた立ち止まった。雪はもう止んでいて、街が静かに白かった。


「また来月、来れますか?」


彼が言った。今度は沈黙なし。


「来れます」


「次は晴れてる日に来てほしいです。晴れた日の大通公園も全然違うから」


「また連れてきてくれるんですか?」


「はい」


それだけで、なんか首の後ろが温かくなった。コートが薄かったからじゃなくて。


雪の日の初デートは、沈黙が怖くなかった。それだけで十分だった。それ以上のものが、その後ちゃんとついてきた。

この記事を書いた人

橘みあマッチングアプリ体験談ライター

27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。

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