お礼LINEに本音が全部乗っていた。送信した後、5秒で気づいた。
帰りの電車で送ったLINEが、思っていたより正直すぎた。
池袋のヒューマントラストシネマを出たのは、21時過ぎだった。
Pairsで知り合った彼——克也くん——と初めてデートした夜。映画を観て、その後に近くの韓国料理屋でサムギョプサルを食べた。肉を焼く煙が立って、キムチが辛くて、でも2時間半、話が途切れなかった。映画の話、それから食べ物の話、それから仕事の話、それから子供のころ好きだったものの話。
「またご飯食べましょう」と彼が言って、池袋の改札で別れた。
JRに乗って、座った。
帰り道に「ありがとうございました」のLINEを送るのは、マナーというか習慣だった。スマホを取り出して、メッセージ画面を開いた。
「今日ありがとうございました。映画、面白かったです」
と打って、次を書いた。
「克也くんと観てよかったと思いました」
と書いて、さらに続けた。
「またご飯行きたいですね。あと話してて、笑えました」
送った。
5秒後に気づいた。
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「克也くんと観てよかったと思いました」は正直だけど、初デートのお礼LINEとしては少し踏み込みすぎだった。「笑えました」は本当のことだけど、「笑えました」という表現が変かもしれない。「また会いたいですね」も書いた。
全部本音が入っていた。
スマホを裏返しにした。
既読がついてから1分経っても、5分経っても、返信が来なかった。「やっぱり踏み込みすぎた」と思いながら、窓の外を見た。電車の窓に、自分の反省した顔が映っていた。池袋から山手線で帰る途中、高田馬場を過ぎた頃だった。
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18分後に既読がついた。
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3回目のデートは、図書館で黙って本を読んだ
「図書館でそれぞれ本を読みましょう」。変なデートだと思った。でも千駄木の図書館で4時間過ごして、帰り道、私は初めてこの人のことが好きだと気づいた。
「ありがとうございます。俺も今日楽しかったです。映画、あなたと観てよかったと思いました。同じタイミングで笑ってくれてたの、わかってました。また会いましょう、連絡します」
文体がほぼ同じだった。
「克也くんと観てよかった」に対して「あなたと観てよかった」が返ってきた。同じ言葉を、ちゃんと返してくれた。
「笑えました」に「わかってました」が返ってきた。映画の中でちょうど同じシーンで笑って、気づいたら克也くんも笑っていた。あの瞬間、少し照れた。彼は気づいていた。気づいていて、返信に書いてくれた。
電車の中で、変な声が出た。「あ」という感じの、動物みたいな短い音。隣の人が少し振り向いた気がした。
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翌週、克也くんから「池袋のあの映画館、また行きたいです」とLINEが来た。「行きましょう」と返した。「映画の後、韓国料理もまた行きたい」「行きます」「じゃあ土曜日は?」「空いてます」。
あの日の帰り道、「踏み込みすぎた」と思いながらスマホを裏返した。でも18分後、ほぼ同じ本音が返ってきた。
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本音が全部乗ったLINEは、送信後5秒で後悔した。でも18分後に、それと同じくらい本音の返信が来た。
言わなければよかったことは、たぶんない。踏み込みすぎたと思ったことが、むしろ同じ距離感の人を呼んだ。
正直に送ったものは、正直に届く。
「また観に行きましょう」は、次の週に実行された。
お礼LINEに本音が全部乗っていた。あの18分間は、人生で一番長い18分だったかもしれない。でも送って良かった。届いたから。
3回目のデートのとき、克也くんが「あのLINE、ちゃんと保存してます」と言った。「何をですか」と聞いたら、「最初の日のやつ。克也くんと観てよかったって」。
「恥ずかしいやつじゃないですか」
「そんなことない。あれで、また会いたいと思った」
「18分も待たせたのに」
「何を言うか考えてた。同じ温度で返したかったから」
池袋のカフェで向かい合って、コーヒーを飲みながらその話をした。18分間、彼も同じくらい考えていた。踏み込みすぎたと思ったのは私だったけど、踏み込まれた側も18分かけて踏み込もうとしていた。
同じ勇気を、二人で出し合っていた。
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あの日、ヒューマントラストシネマで観た映画のタイトルを、今でも覚えている。観終わったあとに「あのシーンよかった」と言い合って、韓国料理屋でサムギョプサルを焼きながら続きを話した。あの2時間半の会話の中に、全部入っていた。「また観に行きましょう」と言いたくなるほど、楽しかった。
送信ボタンを押した後の5秒の後悔と、18分後の「よかった」が一対だった。
本音を送ることは、相手に本音で返すチャンスを与えることだ。
克也くんがLINEを保存していると知ったとき、踏み込んで良かったと思った。踏み込んだ文章は、相手の記憶に残る。当たり障りのないLINEは、当たり障りなく消える。
あの夜のサムギョプサルの煙と、18分後の「よかった」が一対になって、今の私たちがある。最初の正直さが、全部の土台だった。
踏み込んだ一言が、全部を決めた。
克也くんは今でも「あのLINE保存してます」と言う。恥ずかしいけど、消してほしいとも言えない。
この記事を書いた人
27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。