「花束は重すぎる」と言われた。でも私は持っていった
男性から花束をもらった経験がない、と彼女は言った。元カレからも、誰からも。
友人全員に止められていた。
「初デートに花束って、重すぎる」「引かれるよ絶対」「ドン引きされた話、俺の知り合いにあるから」「やめとけ」。聞いたのが全員男性だったのは関係ないかもしれないけど、意見が全員一致していた。
それでも持っていったのは、すでに花屋に行ってしまっていたからだった。
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Tinderでマッチングした彼女——佳奈——と会うことになったのは金曜日だった。
恵比寿で待ち合わせ。待ち合わせ場所に向かう前に、恵比寿駅前の花屋に寄った。最初は「寄ってみようか」くらいの気持ちだった。でも店に入ったら、ピンクのスイートピーと、白いカスミソウの組み合わせが目に入った。ふわっとした花の香りが店内に漂っていた。
「これください」と言って、袋に入れてもらった。2400円。
電車に乗っていたら、花束を持っている男は珍しかったのか、前の席のおじさんに見られた。「渡せるかな」と思い始めた。「重いかな」という友人たちの声が蘇ってきた。でも引き返すのも変だし、そのまま行くことにした。
「渡したら引かれるかもしれない。でもすでに2400円使った」という思考の流れだった。
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待ち合わせ場所のガーデンプレイス前に着いたとき、佳奈はすでにいた。
ネイビーのスカート。少し早歩きで来て——待ち合わせ時刻より2分前に着いたのに、先に来ていた——「お待たせしました」と言った。声が想像より高かった。笑顔が、写真より自然だった。
私が袋を持っているのを見て、視線が止まった。
「これ、よければ」と渡した。「え」という声を出しながら袋を受け取った。中を見て、「花束?」と言った。「はい」「なんで」「会う記念というか、なんとなく」。
しばらく無言で花束を見ていた。
「……私、花束って初めてかも」と言った。「初めてですか」「うん。彼氏からも、もらったことなかった。誕生日とかでも」「そうなんですか」「重くないです、全然」。
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気づいたら1駅乗り過ごしていて、彼の肩が温かかった
4回目のデートで飲みすぎた。帰りの中央線で気づいたら彼の肩に乗っかって眠っていた。起こしてくれなかった。1駅過ぎた荻窪で目が覚めた。
声が少し低くなった。その「重くないです」が、想像のどんな反応とも違った。
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恵比寿のガーデンプレイスをぶらぶらして、カフェに入って3時間話した。
佳奈は花束をずっと横に置いていた。バッグと一緒に、椅子の隣に。移動するたびに、荷物と一緒に持った。大切にしてくれているのがわかった。
「花束を持ち歩くの、大変じゃないですか」と私が聞いたら、「全然。ていうか嬉しいから」と言った。「友達に止められてたんです、重いって」と話したら、「その友達に言ってほしい、重くないって」と佳奈が言った。
映画の話、好きな食べ物の話、仕事の話、子供の頃の話。話が途切れなかった。彼女は笑うとき肩が揺れて、真剣なときに少し眉が寄る。
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帰り際、改札の前で「また会いましょう」と言った。
佳奈は花束を胸に抱えたまま「会いましょう」と言った。ピンクと白の花が、夜の駅の光の中に映えていた。
「また」は、翌週に実行された。
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花束を渡さなかったら、「初めてかも」という言葉は出なかった。「元カレからももらったことなかった」も出なかった。「重くないです」も。3時間の会話より、花束を渡した5秒の方が、ずっと多くを伝えた気がした。
止められたことをすることは、難しい。でも「しないで後悔する」より「してみて知る」方がいい。
花束は、重くなかった。
2400円のスイートピーとカスミソウが、最初の会話を作った。「元カレからももらったことなかった」という言葉は、贈り物の価値が値段じゃないことを教えてくれた。
止められたことが、一番大事なことだった。
次のデートで佳奈が言った。「あの花、乾燥させて飾ってます」。ピンクのスイートピーが、今もどこかで残っている。花束は重くなかった。むしろ、2400円で始まった関係が、一番軽い始まり方だったかもしれない。
「友達に言ってほしい、重くないって」という一言が、今でも頭に残っている。
花束を受け取った佳奈の顔が、今でも好きだ。「え」という声と、ゆっくり中を見た目と、「重くないです」と少し低くなった声。あの5秒が、全部の始まりだった。
3回目のデートのとき、佳奈が「花束、ありがとうね」と言った。「もう枯れましたよね」と私が言ったら「乾燥させてる、まだある」と言った。「ドライフラワーになってるんですか」「うん。見えるとこに飾ってる」。
スイートピーとカスミソウがドライフラワーになって、佳奈の部屋のどこかにある。2400円が、別の形で残っている。
「また花、持ってきてもいいですか」と聞いたら、「今度は一緒に選びに行きたい」と彼女が言った。
花屋に一緒に行くことになった。その話を友人にしたら「それはアリだな」と言っていた。やっぱり行動してみないとわからない。
2400円の花束が、ドライフラワーになって部屋に飾られている。形が変わっても、残るものは残る。
この記事を書いた人
27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。