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5回目のデートの朝、私たちはまだ「友達」のふりをしていた

Pairsで知り合って5回目のデートは、夜から始まって朝になった。10月の中目黒のバー、肩の距離が前回より少しだけ近かった気がした。名前をつけた瞬間に壊れる可能性が生まれる——それが怖くて、コーヒーが冷める速さで「友達」のふりをしていた朝。

27・女性の体験
·橘みあ·7分で読める

5回目のデートは、夜から始まって朝になった。


5回目の夜、中目黒


10月の中頃。中目黒のバーに着いたのは21時すぎで、外は本格的に冷えていた。目黒川沿いの照明が水面に溶けて揺れていて、歩くたびに革靴の音が石畳に跳ね返ってきた。店の中はウイスキーとタバコが混ざった匂いがして、BGMはlow-fiのジャズ。カウンターに並んで座った。肩と肩の距離が、前回より少しだけ近かった気がした。気がした、だけかもしれない。でも確認する勇気もなかった。


閉店まで居座った。話した内容はほとんど覚えていない。ただ、笑っていた時間が長かった。タクシーに乗って、気づいたら彼の部屋の前にいた。中目黒から5分くらい。どちらも「入る?」と言わなかった。でも私は靴を脱いでいた。


誰が先に動いたのか。わからない。ただはっとして、玄関の照明がついていた。


朝6時。コーヒーを飲みながらベランダに立って、窓の外を見ていた。通勤前の街が、静かに動き始めていた。空が薄いオレンジから白に変わっていく、その境目の時間。マグカップが手のひらに温かかった。隣に彼がいる。それだけがはっきりしていた。他のことは全部、霧みたいにぼんやりしていた。


「友達みたいだね、私たち」


口から出てから、どうしてこんなことを言ったのか自分でもわからなかった。嘘だった。自分でわかっていた。友達なんかじゃない。でもその言葉を選んだのは、もっと正確な言葉を使うのが怖かったからだと思う。名前をつけた瞬間から、それが壊れる可能性が生まれる気がして。


彼は少し間を置いて、「そうかも」と言った。


嘘だった。二人ともわかってた。


1回目から4回目まで


最初に会ったのは渋谷のカフェだった。Logsというカフェで、スクランブル交差点から少し路地に入ったところにある。共通の友人に紹介されて、「とりあえず会ってみたら」と言われて、あまり期待しないまま行った。「こんにちは」と言ったら、「こんにちは」と言い返してきた。たったそれだけのことに、なぜか喉の奥が緩んだ。構えていた何かが、その挨拶一回で静かになった。


2回目は代官山をぶらぶらした。特に目的なく、ヒルサイドテラスの周りを歩いて、おしゃれな雑貨屋を覗いた。「これ何に使うんですかね」「使い道がない方が好きなんじゃないですかね」「それはわかる気がする」。2時間かけて何も買わなかった。でも帰り道、電車の中で一人になってから、ずっとそのやり取りを反芻していた。意味のない会話を、意味があるみたいに思い返していた。


3回目は映画だった。新宿のTOHOシネマズ。エンドロールが流れ始めても、席を立てなかった。隣に座ったまま、小声で映画の話をした。「あのシーン、どういう意味だと思う?」「わかんない」「わかんないよね」。わかんない、で終わるのに、全然急いでいなかった。その「わかんない」が、心地よかった。


4回目は彼の好きなラーメン屋に連れていってもらった。西荻窪の、細い路地にある小さな店。食べながら「次はどこ行く?」と聞いたら「また決めよう」と笑った。その「また」という言葉が、ちゃんと自分の中に落ちてきた。約束じゃない。でも約束みたいな温度があった。


毎回、帰り際に少しずつ長くなる立ち話。改札の前で「じゃあ」と言いながら立ち去れなくて、また話す。「そういえば」「あと一個だけ」。それを繰り返した。誰も改札を通らなかった。


それが5回続いて、朝になった。


ベランダに出てから、もう20分くらい経っていたと思う。彼のマグカップはnutsのやつで、黒くて持ち手が太かった。私が持っているのは白。二人でベランダに立っていると、なんとなく絵みたいで変な感じがした。こんな時間を、この人と過ごしている。その事実の重さが、ふいに胸の辺りに落ちてきた。重いのに、苦しくない。むしろ、ここから動きたくない感じ。コーヒーが冷めていく速度と、私の気持ちが固まっていく速度が、なんとなく同じくらいな気がした。


朝の光の中で


もうコーヒーが半分減っていた。街の音が少しずつ大きくなっていた。遠くでバイクのエンジン音がして、鳥が鳴いた。それから彼が言った。


「好きだよ」


ベランダの風が少し冷たかった。カップが温かかった。心臓の音が、恥ずかしいくらいはっきりと聞こえた。奥歯を噛んだ。視線を川の方に向けたまま、少しも動けなかった。こういう言葉を待っていたのか自分でもわからない。待っていたかもしれない。でもいざ言われると、体が先に反応して、頭が追いつかなかった。


「知ってた」と言ったら、「じゃあなんで何も言わなかったんだよ」と笑われた。


わからない。正確には、わかってる。怖かったから。終わるのが怖かった。名前をつけた瞬間から、壊れる可能性が生まれる気がして。名前のないままここにいれば、少なくとも「終わり」は来ない。そう思っていた。でも同時に、名前のないまま続けることの重さも、ずっとわかっていた。コーヒーを一口飲むたびに、その重さを飲み込んでいるみたいだった。どちらにも踏み出せないまま、5回目の朝を迎えていた。


「じゃあ今から名前つける?」と彼が言った。半分冗談みたいな口調だった。半分だけ。


コーヒーを飲み干して、「つけよっか」と言った。


小声だったけど、聞こえてた。ちゃんと、聞こえてた。


空がもう、オレンジじゃなくなっていた。


遠くで電車の音がした。どこかの踏切の音。中目黒の朝は、少しずつ確実に動き出していた。隣に彼がいる。それだけが変わらなかった。名前をつけることが怖かった。でもつけてしまえば、不思議と、それだけのことだった。名前のある「何か」は、確かにここにある。ベランダの手すりの冷たさも、彼の肩が私の肩に少しだけ触れていることも、全部ひっくるめて、ここにある。


名前をつけるのが怖いのは、失いたくないからじゃない。失う「何か」がそこにある、と認めることが怖いのだ。

よくある質問

なぜ「友達」のふりを続けていたのですか?
名前をつけた瞬間に壊れる可能性が生まれる気がしていたと書かれています。関係に言葉を与えることへの怖さが、二人を「友達」の仮面の中に留めていました。
5回目の朝、どんな場所にいたのですか?
中目黒のバーで夜を過ごし、朝を迎えました。コーヒーが冷めていく速さの中で、二人はずっと「友達」のふりを続けていたと描写されています。

この記事を書いた人

橘みあマッチングアプリ体験談ライター

27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。

#告白#5回目のデート#中目黒#距離感
このテーマを読む:告白体験談

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