恋のアーカイブ
マッチングアプリ攻略エッセイ

32歳、「この時間が無駄になる」という恐怖に気づいた夜

30代の恋愛が怖いのは、失恋そのものじゃない。あの人のために使った時間が帳消しになる感覚。代官山で3時間待って来なかった日、その恐怖の正体に気づいた。32歳、時間と恋愛について考えたことを正直に書く。

27歳・女性の体験
·橘みあ·6分で読める

去年の秋、代官山の蔦屋書店で三時間待った。


「少し遅れる」という連絡から、既読がつかなくなるまでの三時間。コーヒーを二杯飲んで、文庫本を一冊読みきって、それでも私はベンチから立てなかった。帰れなかった、というほうが正確かもしれない。


結局その人は来なかった。ドタキャンの連絡は翌朝だった。「ごめん、急に体調が」——それ以上は読まなかった。


二十代だったら、たぶん泣いて、翌日友達に電話して、一週間後には「ひどいよね」と笑い話にできていた。でも三十二歳の私が最初に思ったのは、泣くことでも怒ることでもなかった。


*三時間、か。*


それだけだった。


---


その人と知り合ったのは、共通の友人の飲み会だった。会ったのは五回。LINEのやり取りは四ヶ月続いた。


「週末どうしてる」「この映画気になってる」「最近何食べた」——他愛もない会話が積み重なって、私はその人のことを毎日少しずつ考えるようになっていた。


仕事の合間に、電車の中で、眠れない夜に。


四ヶ月分の「少しずつ」は、計算したくもないくらいの時間になっていた。


---


怖いのは失恋じゃない


翌週、大学時代からの友人と恵比寿で飲んだ。


「なんかさ」と私は言いかけて、グラスに口をつけた。


「なんか?」


「怖いんだよね、最近。恋愛が」


友人は少し眉を上げた。「失恋が?」


「違くて。失恋そのものじゃなくて、なんか……」


言葉がうまく出てこなかった。白ワインを一口飲んで、もう一度探した。


「時間? みたいな」


「時間」と彼女は繰り返した。


「うん。その人に使った時間が全部、無駄になる感じ。失恋より、そっちが怖い」


言葉にしてみて、初めてわかった。これだ、と思った。ずっと正体がわからなかった、胸の真ん中にある重さの名前。


---


二十代のころの失恋と、今の恋愛への怖さは、たぶん構造が違う。


二十代は、傷つくことが怖かった。フラれることが怖かった。でも心のどこかに「まあ、また出会いはある」という根拠のない確信があった。時間は無限にある気がしていた。失恋しても、春になればまた誰かと出会える、そういう感覚。


三十代になると、それが変わった。


仕事のことを考える、友人の結婚が増える、体力が変わる、親が少し老いる——いろんな変化が重なって、時間というものが急にリアルになってくる。二十代のように「いくらでもある」と思えなくなる。


そうすると恋愛の計算式も変わってくる。


「この人と付き合えたら」という期待よりも先に、「この人のために時間を使って、うまくいかなかったら」という計算が走る。四ヶ月、半年、一年——その時間を天秤にかけてしまう。


怖いのは、失恋じゃない。

投資した時間が、回収できなくなることへの恐怖だった。


---


「無駄」という言葉の罠


でも、そこまで気づいたとき、もう一歩先のことを考えた。


「時間が無駄になる」という言い方、少し変じゃないか?


代官山で過ごした三時間。蔦屋書店のソファで読んだ文庫本は、川上未映子の『夏物語』だった。あの静かな午後に、私はその本を最後まで読んだ。電車の中で彼に送ったリンクの映画は、後で一人で観に行って、すごくよかった。四ヶ月の「最近何食べた」のやり取りの中で、私は赤坂のある小さなタイ料理屋を知った。今も月に一度は行く。


あの時間の中で起きたことは、全部消えてなくなったわけじゃない。


「無駄」という言葉を使うとき、私は何かを証明しようとしている気がする。あの人を好きになったことには、それに見合うだけの「結果」が必要だ、と。付き合う、結婚する、形になる——そういう何かが返ってこないと、使った時間が浮かばれない、みたいな。


それって、かなり窮屈だ。


---


三十代の恋愛が怖くなった理由は、時間が有限になったからじゃなくて、時間を「無駄にしてはいけないもの」と思い始めたからかもしれない。


二十代のとき、時間を気にしなかったのは、余裕があったからじゃなくて、時間をそんなふうに使うつもりがなかっただけだ。恋愛は消費するものじゃなくて、ただ生きていたら起きることだった。


その感覚を、どこかで失っていた。


---


蔦屋書店で過ごした三時間、私は泣かなかった。本を読んでいた。窓の外の紅葉を見ていた。コーヒーが冷めても、もう一杯頼んだ。


来なかった人を待ちながら、私はちゃんとそこにいた。それを「無駄な時間」と呼ぶには、少し違う気がしてきた。


怖いままでも、また誰かを好きになると思う。うまくいかないことも、きっとある。その度に「この時間が」と思う自分も、たぶんいる。


でも、その計算をしている私自身が、今ここにいる時間を生きているのはたしかだ。


好きになった時間は、うまくいかなくても、なかったことにはならない。


三十二歳の秋から一年が過ぎた。あれから2人と出会って、1人とは3ヶ月付き合った。うまくいかなかった。でも「この時間が無駄だった」とは思わなかった。あのドタキャンの夜から、そう思えるようになった気がする。

よくある質問

30代の恋愛が20代より怖く感じるのはなぜ?
失恋の痛みより、「費やした時間が無駄になる」という感覚が大きくなるからです。年齢を重ねると時間の有限性をリアルに感じるようになり、傷つくこと自体より「コスト」への恐怖が前面に出てきます。
32歳前後で婚活や恋愛への焦りが強くなった場合、まず何をすべき?
焦りの内訳を分解することが先です。「結婚したい」のか「孤独が怖い」のか「周囲に遅れている気がする」のか——理由によって動き方が変わります。焦りのまま動くと、条件に合わせて相手を選ぶ思考に陥りやすいです。
何度か会ったあとにドタキャンや音信不通になった場合、どう気持ちを整理する?
まず「自分に問題があったのか」という方向に思考が向きやすいですが、多くの場合は相手の事情や誠実さの問題です。怒りや悲しみより「時間を奪われた」感覚が強い場合は、その感情をそのまま認めてください。無理に前向きに解釈しなくていいです。

この記事を書いた人

橘みあマッチングアプリ体験談ライター

27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。

#30代#恋愛の怖さ#時間と恋愛#内省エッセイ

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