恋のアーカイブ
マッチングアプリ攻略

「好きだけど無理」と「無理じゃないけど…」の間で、3年が溶けた

好きな人とは結婚できなくて、結婚できそうな人のことは好きになれなかった。条件と気持ちを天秤にかけ続けた30代前半の3年間。最後に気づいたのは、その天秤自体が間違いだったということ。

·橘みあ·6分で読める

結婚を意識しはじめたのが28歳で、30を過ぎたあたりから焦りが体の中に住みついた。朝起きると胸のあたりがざわざわしていて、それが恋愛への期待なのか不安なのか、自分でもよくわからないまま毎朝コーヒーを淹れていた。


ケンタとは3年付き合った。同い年のフリーカメラマン。出会ったのは友人の誕生日パーティーで、代官山のビストロの薄暗い隅っこで、彼は誰とも話さずにワインを飲んでいた。それがかっこよかった。今思えばただの人見知りだったんだけど。


一緒にいると時間が速かった。新宿御苑で朝から缶ビール飲んで、気づいたら夕方になってて、それでもまだ話が終わらなかった。笑えるポイントがぴったり合って、沈黙が怖くなかった。そういう人って、意外といない。


でも彼は「結婚は当分いいかな」という人で、収入も不安定で、実家は地方だから東京に根を張る気もそんなになさそうで。私の母親に会わせたとき、帰り道に「お母さん、私のこと心配してたよ」と言ったら、彼は「そっか」とだけ言った。そっか、じゃないんだよな、と思いながら、でも責める気にもなれなくて、その夜は黙ってふたりでUNIQLOのパジャマを着てNetflixを見た。


31歳の春に別れた。こちらから切り出した。「将来のこと、やっぱり合わないと思う」と言ったら、彼は少し間を置いてから「うん、わかった」と言った。泣かなかった。泣かなかったことが、帰り道ずっと胸に刺さっていた。


その半年後、婚活アプリをはじめた。


鈴木さん(あえてこう書く)とマッチングしたのは登録して2週間後。大手メーカー勤務、年収は悪くなく、趣味は登山と料理。プロフィール写真は清潔感があって、メッセージは丁寧だった。「条件がいい人」の教科書みたいな人だった。


最初のデートは丸の内のイタリアン。会話は弾んだ、と思う。「思う」というのは、正確に言うと、会話が弾む努力を互いにしていた、という感じだった。彼は話を聞くのが上手くて、私の話に「それ大変でしたね」「わかります」と言ってくれた。


でも家に帰ってから、何を話したかほとんど思い出せなかった。


3回目のデートで手を繋いだ。5回目で付き合った。彼が「ちゃんと付き合いたいと思ってます」と言ったとき、私は「私もです」と答えた。嘘じゃなかった。でも本当でもなかった。どちらでもなかった、というのが一番近い。


付き合ってから4ヶ月が経ったころ、母に「その人、どんな人なの」と聞かれて、職業と年齢と出身地を答えている自分に気づいた。母は「それで、どんな人なの」ともう一度聞いた。


黙ってしまった。


彼のことを考えると、不安はなかった。ケンタのことを考えていたときにあったあのざわざわが、ない。穏やかで、安定していて、それはいいことのはずだった。でも何かが、ずっと静かすぎた。一緒にいると「ちゃんとしなきゃ」という気持ちが先に立って、素足でいられない感覚。渋谷の雑踏の中でふと「今、何してるんだろう」と思って、スマホを見たら彼からの「今日どうでした?」というLINEが来ていた。


返信できるまでに1時間かかった。


8ヶ月で別れた。「私、あなたのことを好きかどうか、わからなくて」と正直に言ったら、彼は少し考えてから「そういうことを言える人のほうが誠実だと思います」と言った。優しい人だった。だからこそ、しんどかった。


電車に乗りながら、ぼんやりと思った。ケンタのときは「気持ちはある、条件がない」で、鈴木さんのときは「条件はある、気持ちがわからない」だった。私はずっとそのふたつを別々のものとして、どちらが欠けているかを確認し続けていた。まるでチェックリストみたいに。


でも、本当に好きだった人のことを思い出すと、最初から「この人と将来どうこう」なんて考えていなかった。代官山のビストロで薄暗い隅っこにいた彼を見たとき、条件なんて何も知らなかった。ただ、何か引っかかった。それだけだった。


そしてその「引っかかり」が育っていく過程で、価値観のすり合わせや将来の話は、自然と出てくるものだったんじゃないか。それをすっ飛ばして、最初から「条件クリア→気持ちを育てる」というルートを取ろうとしたとき、何かが逆になっていた気がする。


気持ちと条件を別のものとして天秤にかけていたこと自体が、すでにどこかずれていたのかもしれない。本当に「合う」相手との間では、そのふたつはもっと混ざり合っているのかもしれない。


もちろん、今でもわからない。30代前半の婚活に正解はないし、私の考え方だって3年後にはまた変わっているかもしれない。ただ、あのチェックリストを手放したとき、少しだけ胸のざわざわが収まった気がした。


YUKIの「JOY」という曲に「あなたの好きなとこ全部嫌いなとこも全部」という歌詞がある。条件とか気持ちとか関係なく、その人の全部をそう思える瞬間が来たとき、たぶんそれが答えなんだと思う。


条件と気持ちは、天秤の両端じゃなくて、同じものの裏と表だった。

この記事を書いた人

橘みあマッチングアプリ体験談ライター

27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。

このテーマを読む:婚活体験談

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