2年間アプリを開き続けた私が、やめた翌月に声をかけられた理由
マッチングアプリをやめた途端、街で話しかけられる回数が増えた。スペックより先に「空気感」が来るリアルな出会いで、私が取り戻したものの話。
スマートフォンの画面を、右に左に流し続けた2年間があった。
Hinge、Pairs、タップル。アプリを変えるたびに「今度こそ」と思って、結局同じところに戻ってくる。プロフィール写真は何度も撮り直して、自己紹介文は友達に添削してもらって、年収欄と学歴欄はできるだけさりげなく埋めた。マッチングするたびに胸の奥がざわっとして、でも3回やり取りしたら温度が冷めて、会う前に消える人、会ったあとに消える人、消えるのが私のこともあった。
26歳の秋、渋谷の喫茶室ルノアールで友達と話していたとき、「最近どうなの」って聞かれて、答えられなかった。アプリで何十人と話していたのに、「どうなの」の答えがなかった。
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アプリをやめたのは、疲れたからじゃない。正確には、自分が「審査される側」として生きることに慣れすぎていることに気づいたから。
ある日、初めて会う相手と代官山のカフェに入ったとき、席につく前から彼の目線が私のスペックを確認している感じがした。いや、実際にそうだったかどうかはわからない。でも私も彼のことを同じように見ていた。年収どのくらいだろう、プロフィールの写真より老けてるな、趣味の「映画鑑賞」って書いてたけど何が好きなんだろう。会話しながら、採点していた。
帰り道、東横線の中で窓に映った自分の顔を見た。なんか、つかれてるな、と思った。声に出して言いたかったけど、隣に人がいたから黙っていた。
その翌週、アプリを全部消した。
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最初の1ヶ月は、正直手持ち無沙汰だった。
電車の中でスマホを開く習慣だけが残っていて、Instagramを無限にスクロールして、Spotifyで「最近聴いた曲」をぐるぐる繰り返す。夜、なんとなく寂しい感じがするとき、以前なら誰かとのやり取りが画面の中にあった。それがなくなって、寂しさがそのまま寂しさとして残るようになった。布団の中で天井を見る時間が増えた。
でも、ちょっとずつ変わっていったのは、「人を見る目線」だった。
アプリを使っていたとき、街を歩いていても人の顔をあまり見ていなかった気がする。全員がプロフィール写真に見えていたというか、出会いの候補として見ていなかった。でもアプリをやめてから、なんか、目が合う機会が増えた。気のせいかもしれない。でも目が合う前に視線を逸らさなくなっていた、たぶん私の方が。
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転機になったのは、吉祥寺のハモニカ横丁だった。
友達に連れられて入った小さな焼き鳥屋で、隣の席の男性に「それ何飲んでるんですか」って聞かれた。なんの前触れもなく、自然に。私は「レモンサワーです」って答えて、「美味しそうですね」って言われて、「そうですよ飲んでみます?」って言っていた。気づいたら笑っていた。
後から思い返すと、あの瞬間、私は彼の年収も学歴も何も知らなかった。でも「この人と話してみたい」という気持ちだけがあった。それがなんか、久しぶりだった。
そこから連絡先を交換して、3回くらい会ったけれど、恋愛にはならなかった。でもそれよりも、「スペックより空気感が先に来る」という感覚を思い出せたことの方が、私には大きかった。
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「最近、なんか変わった?」って複数の友達に言われたのは、アプリをやめてから3ヶ月後くらいだった。
何が変わったのか、自分ではよくわからなかった。でも一つ心当たりがあるとしたら、緊張の種類が変わった気がする。アプリ経由で会うときの緊張は「審査に受かるかどうか」の緊張で、リアルで誰かと話すときの緊張は「この人と通じるかどうか」の緊張だった。後者の緊張の方が、ちょっとだけ楽しかった。
あと、単純に「どこにでも出かけるようになった」のも大きかったと思う。アプリがあったとき、外に出なくても出会える気がしていた。スマホの中に予備の世界があるみたいで。それがなくなると、外に行かないと何も起きないとわかるから、なんか足が動くようになった。
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ここまで書いてきて、正直に言う。
アプリが悪かったわけじゃ、なかった。
アプリを通じて本当に好きな人ができた友達を何人も知っている。ツールの問題じゃなくて、私がアプリの中で「自分を審査用に最適化すること」ばかり上手くなっていたのが問題だった。プロフィールを磨くことと、自分を磨くことは、全然違う。それに2年かかって気づいた。
街で声をかけられる回数が増えたのも、髪型を変えたからでも、痩せたからでもなかった。たぶん、人の顔を見るようになったから。人を見ると、見られる。それだけのことだったと思う。
アプリをやめた方がいい、なんて言いたいわけじゃない。ただ、画面の外の自分の顔が、どんな顔をしているか、たまに確認した方がいい。
誰かに会いたいと思う気持ちは、スマホの中だけで完結しない。
この記事を書いた人
27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。