恋のアーカイブ
恋愛体験談

300回読み返した恋愛体験談が、私の背中を押してくれた

3ヶ月、アプリを閉じたまま過ごした。怖かったのは傷つくことじゃなくて、出会わないことだと気づくまでに、誰かの言葉が何度も必要だった。

·橘みあ·6分で読める

春に終わった。


桜がまだ少し残っていた時期で、別れた帰り道に花びらが一枚、コートの肩に落ちてきた。払いのけるタイミングを逃して、電車に乗るまでずっとそのままにしていた。どうでもよかった。何もかもが、少し遠かった。


その夜、アプリを再開しようとした。


画面を開いて、何件かスワイプした。男の人の顔と、短いプロフィール文が流れていく。「アウトドア好き」「仕事に全力」「一緒に笑える人を探してます」。普通の文章だった。なのに指が、止まった。止まったというより、重くなった感じ。「今じゃない」という感覚だけが、はっきりとあった。


うまく説明できない。でも体は、正直だった。


アプリを閉じた。スマホを充電器に置いて、電気を消して、布団に入った。それだけのことが、その夜はちょうどよかった。


それから3ヶ月、出会いを探すことをやめていた。


代わりにしていたのは、読書と散歩だけ。下北沢の古本屋で文庫を2冊買って、近所の公園を夕方にぐるっと歩いて、帰りにコンビニで缶ビールを買う。そういう日が続いた。寂しくなかったと言ったら嘘になる。でも動けなかった。


怖かったのだ。


また違うと思われることが。また終わることが。「次もうまくいかなかったら」という考えが頭をよぎるたびに、何かが胸の奥でぎゅっと縮んだ。ため息をついて、スマホを裏返して、また本のページを開く。そういう夜が、何度もあった。


その頃から、恋愛体験談を読み始めた。


きっかけは覚えていない。誰かのSNSから飛んで、気づいたらNoteを読んでいた。ブログ、Twitter、知らない人の長い投稿。うまくいった話も、そうじゃない話も。1年以上引きずった話も、意外とあっさり立ち直れた話も。スクロールが止まらなかった。


日付が変わっても、読んでいた。


「自分だけじゃないんだ」という感覚が、少しずつ積み重なっていくような夜だった。失恋して半年立てなかった人が、今は笑っている。マッチングアプリに絶望していた人が、そこで出会った人と結婚している。3ヶ月かかった人もいれば、1年かかった人もいた。みんな、どこかで動いていた。動いた人は、いつか動けていた。それだけが、確かだった。


ある夜、一つの体験談に、こういう一文を見つけた。


「また傷つくかもしれない。でも傷つかないために動かないのは、出会わないということだ」


画面を閉じられなかった。


何度も読み返した。10回、20回。大げさじゃなく、その文章だけで30分いたと思う。当たり前のことが書いてある。わかってた。わかってたはずなのに、胸の真ん中に刺さって、抜けなかった。


私が怖かったのは、傷つくことじゃなかった。


「出会わないこと」の方が、ずっと怖かった。傷つかないために止まり続けることで、じわじわ何かが欠けていくことの方が。気づいた瞬間、目が少し熱くなった。泣くほどでもない。でも、何かが緩んだ。


その夜、アプリを再開した。


プロフィールを書き直した。写真を1枚、明るいものに変えた。「また傷つかないように」じゃなく、「また会いたい人に出会うために」という気持ちで、設定を保存した。


最初の1週間で4人に会った。


3人は、違った。悪い人じゃなかった。ただ、違った。話しながら「ああ、この人じゃない」と思う感覚は、意外とはっきりしていた。それでも怖くなかった。会えてよかったと思えた。動いていることが、少し誇らしかった。


4人目が、吉祥寺のカフェだった。


向こうが来てくれた。「吉祥寺、遠いですか」と送ったら、「ちょっとあるけど全然」と返ってきた。その「全然」の言い方が自然で、会う前からちょっと、期待していた。


カフェはコルクボードに黒板メニューが貼ってある、小さくて落ち着いた場所だった。窓際の席で、外には夕方の井の頭通りが見えた。人が歩いていた。自転車が通り過ぎた。


話したら、よかった。


仕事の話。好きな本の話。最近気になっていること。「それ、わかります」と「え、それどういうこと」が交互にきて、テンポが合っていた。沈黙が怖くなかった。むしろ、たまに黙っても、変じゃなかった。


帰り際に「また会いましょう」と言ったら、「いつがいいですか」と来た。「いつでも」でも「また今度」でもなく、「いつがいいですか」。その返し方が、よかった。駅の改札で別れて、ホームに降りた瞬間に、口の端が少し上がっていた。


その人と今、付き合っている。


先週、下北沢のタコス屋で夜ごはんを食べた。辛いやつを頼んで二人で「やばい」と言いながら食べて、帰り道に「また辛いやつ頼もう」という話になった。それだけのことが、よかった。


誰かのリアルな言葉は、アドバイスより先に届く。「こうしなさい」じゃなくて、「私もそうだった」という声が、止まっていた足を動かすことがある。あの深夜に読んでいた体験談たちが、じわじわと私の中に積もって、「今じゃない」が「今かもしれない」に変わる夜を作ってくれた。


だから書こうと思った。


誰かの「自分だけじゃないんだ」になれるなら。誰かの深夜の画面の向こうで、少しだけ背中を押せるなら。


あなたの恋の物語が、誰かの勇気になる。

この記事を書いた人

橘みあマッチングアプリ体験談ライター

27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。

この記事が刺さったら、シェアしてください

恋愛体験談」はまだ 185 本あります

恋愛体験談をすべて読む

次の記事

弱いところを見せたら、関係が深まった話