恋のアーカイブ
恋愛体験談エッセイ

31歳の秋、初めてマッチングアプリを始めた夜。後悔しなかった話

31歳の秋、初めてマッチングアプリを入れた。中目黒のバーで「まだアプリやってないの?」と言われたその夜に。「今更感」があった——30代で初めてアプリを使って気づいた、20代の頃に持っていた偏見がほとんど間違っていた話。

24歳・女性の体験
·橘みあ·5分で読める

正直に言う。31歳でインストールしたけど、怖かった。


10月の夜、中目黒の小さなバーで友人に「まだアプリやってないの?」と言われたのがきっかけだった。帰り道、目黒川沿いを歩きながらスマホを取り出して、その場でインストールした。金木犀の匂いがうっすらと漂っていた。夜風が冷たかった。アスファルトが濡れていた。誰かがすれ違い際に犬の散歩をしていて、その犬の爪が路面を叩く音だけが妙にはっきり聞こえた。


「今更感」があった。20代でやっておくべきだったのかな、という後悔に似た気持ちもあった。それに「アプリで出会った人とうまくいくわけがない」という偏見が、どこかにあった。会社の同期が「アプリで彼氏できたよ」と言っていても、どこかスルーしていた。


プロフィールを書きながら、気づかなかったことに気づいた


プロフィールを書き始めたら、意外と手が止まった。趣味、仕事、週末の過ごし方。どんな人と会いたいか。当たり障りのないことを書こうとして、30分でやめた。どうせならちゃんと書こう、と思い直して結局1時間かけた。


書き終わった後、スマホを置いて気づいた。自分が何を求めているか、ここ数年、真剣に考えていなかった。


写真は3枚。カフェで撮った自撮り、旅行先の風景、友人と行った展覧会のチケット。どれも「明るい感じの人」には見えるだろうけど、自分らしいかはわからなかった。


いいねが来た。翌朝起きたら12件。「こんなに来るの?」と驚いた。


メッセージのやりとりが始まった。最初は「趣味が似てますね」とか「仕事大変そうですね」とか、探り合いの会話。返信が来るたびにスマホを開いて、既読がついた瞬間にまた戻す。そういう時間が、久しぶりに訪れた。28歳で別れた恋愛から、三年間、こういうドキドキを封印していたのかもしれない、と気づいたのはその頃だった。


最初に会ったのは、恵比寿のカフェだった。


「緊張しますよね、初めてだと」と彼女が言った。私も「します」と言った。


「え、でも慣れてるんじゃないですか、もう何人か会ってるでしょ」「これが初めてです」「え、本当に?」「本当に」。


話してみると普通の人だった。当たり前だけど。IT系の会社でデザイナーをしている。休日は映画を見るか、近所の公園を散歩するか。好きなカフェがあって、週に2〜3回行く。


90分、話した。帰り際に「また会いましょう」とは言ってもらえなかったけど、「楽しかったです」と言ってもらえた。


帰りの電車の中で、思った。「アプリって、普通だ」。


2人目は渋谷で会った。1時間半話した。合わなかった。理由は言語化できないけど、会話のテンポが合わなかった。


3人目は下北沢の居酒屋で会った。話は合ったけど、何かが足りなかった。その「何か」がわからなかった。


「何を求めているか、まだはっきりわかってない気がする」と、友人に話した。「それはそうよ。会いながら探すものだから」と言われた。


4人目で、変わった


初回は吉祥寺のイタリアン。入ってきた瞬間、「あ、ちゃんとした人だ」と思った。説明できないけど、立ち振る舞いに余裕があった。声が落ち着いていた。笑い方が自然だった。


「アプリ、慣れてますか」と聞かれた。「4人目です」と正直に言った。「私は6人目くらいです。なかなか難しいですよね」「難しいです」。


食事しながら話した。本の話、仕事の話、最近気になっていること。3時間、気づかなかった。


帰り際、「また会いたいです」と思った。言えた。「私も」と返ってきた。


「アプリの人って…」という言い方を、今でも聞くことがある。でも実際に会ってみると、普通の人が多かった。仕事をして、趣味を持って、出会いを求めている人たち。私と同じだった。


アプリは場所でしかない。そこにどんな人が集まっているかは、使ってみないとわからなかった。


今、付き合っている。4人目と。


31歳で始めたことへの「今更感」は、今は全くない。


吉祥寺のイタリアンで向き合ってから一年が経った今も、同じ店に行く。メニューも同じものを頼む。でも話す内容は、全然別のものになった。あの夜「また会いたい」と言えた自分を、今は褒めてあげたいと思っている。


始めた秋の夜、金木犀の匂いの中でインストールしていなかったら、この人には会えなかった。それだけのことだった。始めるのに、遅すぎるなんてことは、なかった。

この記事を書いた人

橘みあマッチングアプリ体験談ライター

27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。

この記事が刺さったら、シェアしてください

あなたへのおすすめ

ストーリー」に興味があるあなたへ

「もう遅い」と思って始めた夜。4ヶ月後に後悔しなかった話
恋愛体験談

「もう遅い」と思って始めた夜。4ヶ月後に後悔しなかった話

31歳の誕生日、コンビニのケーキを一人で食べた夜にPairsをインストールした。中目黒のカフェで初デート、「10年後どんな生活がしたい?」と聞かれて胸の奥がじわりとした。20代とは全然違うゲームだった。

女性Pairs|31歳
5
マッチングアプリで会った夜から3年後に結婚した。後悔ゼロの話
恋愛体験談

マッチングアプリで会った夜から3年後に結婚した。後悔ゼロの話

withでマッチングして3年と4ヶ月、「どこで出会ったの?」と聞かれるたびに彼は一瞬だけ間を置く。その空白の埋め方を、私はもう知っている。清澄白河のコーヒー屋から始まった話——特別じゃなかった出会いが、3年後に結婚になった経緯。

女性25歳
6
離婚してアプリを始めた、35歳の春
恋愛体験談

離婚してアプリを始めた、35歳の春

9月の終わり、離婚の手続きが全部終わって荻窪のアパートに一人で帰ってきた夜。空気が違った。翌春、35歳で始めたマッチングアプリで気づいたのは、過去よりいまの自分が見られているということだった。30代の恋愛再出発の体験談。

女性25歳
6
「Pairsで出会いました」と聞いた夜。後悔しながらプロフィールを書き直した
恋愛体験談

「Pairsで出会いました」と聞いた夜。後悔しながらプロフィールを書き直した

目黒雅叙園の披露宴、スピーチで新婦が「Pairsで出会いました」と言った。700人の前で。その瞬間、会場の空気が少し変わって、私のシャンパングラスを持つ手も止まった。その言葉がプロフィールを書き直すきっかけになった夜の話。

女性28歳
6
「ホン・サンスが好きです」と送った夜から3年。後悔しなかった区役所の日
恋愛体験談

「ホン・サンスが好きです」と送った夜から3年。後悔しなかった区役所の日

Omiaiで出会った彼に「ホン・サンスが好きです」と試しに送った。返ってきた返信で、私の人生が変わった。3月の区役所で書類を出す日、3年前のあの一文を思い出していた——マッチングアプリで出会い結婚した体験談。

女性29歳
6
フェードアウトした夜の後悔。返信しなかった理由を、今なら言葉にできる
恋愛体験談

フェードアウトした夜の後悔。返信しなかった理由を、今なら言葉にできる

私がフェードアウトした。3人に。既読をつけて、返信しなかった。「忙しかった」は嘘だ。本当の理由はもっと情けなくて、もっと身勝手だった。された側の話はたくさんある。した側の話は、あまりない。

男性Pairs|28
9

恋愛体験談」はまだ 298 本あります

次の記事

好きな気持ちを維持できなかった夜。後悔してやり始めたこと